リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴

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キャンプ場連続殺人事件

キャンプ場連続殺人事件17『医師』

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 和也の自害と共に捜査が行き詰まる中、翔は事件の整理を進めていく。

 ネット上の痕跡が巧妙に隠され、和也もすでに死亡。捜査本部には重い空気が漂っていた。

「これでは手がかりが何もない…」
 優斗が沈んだ声でつぶやいた。

「いや、まだだ。」
 リモートで参加している翔の声が静かに響く。
「和也の過去に、まだ注目すべき点がある。」

 翔は和也の生い立ちや過去の経歴に目を向けることにした。

 事件を最初から見直す中で、和也が精神科の治療を受けていたという事実が浮かび上がってきた。

 その治療を受けた時期は、最初の事件が発生する少し前。

「和也は精神的に不安定だった。それが利用されたと考えるのが自然だ。」
 翔はパソコンの画面をスクロールしながら、和也の精神科治療に関わる資料を探し出した。

「彼を治療していた医師が、この事件の鍵を握っているかもしれない。」

 優斗は翔の言葉に頷きながら、「でも、どうしてその医師が関わっていると?」と尋ねた。

「犯人は単にネットで接触するだけじゃない。彼は被害者の心理状態を操ることで、犯行を成功させている。それは偶然ではできない。人間の精神や心理に精通している人物…つまり、精神科医であれば、その可能性が高い。」

 翔は続けた。
「和也がただの駒だったとしても、彼がその医師に操られていたなら、犯人は医療の知識を持っているはずだ。」

 翔はさらに調査を進め、和也が受けた治療の内容と担当医の情報を探り始めた。

 すると、驚くべき事実が浮かび上がった。

「和也の担当医…名前は『藤井誠一』。彼は数年前まで精神科医として活動していたが、突然失踪している…」

 翔は藤井誠一という名前に注目し、さらに彼の過去を調べていく。

「藤井誠一…」優斗がその名前を口にした。
「失踪した理由は?」

「不明だ。彼は一部の患者に異常な治療法を施していたという噂があったが、具体的な証拠は残されていない。しかし、彼が姿を消した時期と、最初の事件が起こり始めた時期が重なっている。」
 翔は画面を凝視しながら説明する。

「つまり、藤井誠一が和也を操っていた…?」麗子が眉をひそめながら問いかけた。

「その可能性は高い。和也のような精神的に不安定な人物を操るには、深い知識が必要だ。藤井が和也を患者として見ていたことを利用し、彼を犯行の駒として使っていたんだろう。」

 翔は確信を強めた。
「さらに、『ナチュラル・ハーモニー』というアカウント名も、自然と死の調和を信念とする藤井の思想に一致している。」

 翔は資料をさらに掘り下げ、藤井誠一が過去にどのような治療方針を持っていたかを確認した。

 彼は、自然と精神の癒しをテーマにした治療法を提唱しており、それが患者の心理に深く影響を与えることがあったという。

「藤井は自然やアウトドア活動を使って患者を治療しようとしていたが、それは治療とは言えない手法だった。」
 翔は藤井の過去の活動を見つめながら言葉を続けた。
「彼は患者を操り、自分の信念を押し付けていた。和也も、その犠牲者だったんだ。」

「つまり、藤井が和也を使って事件を起こしていたってことか。」
 優斗が驚いた様子で言う。

「藤井はおそらく自分自身が直接手を下さず、和也のような人物を駒にしていた。和也が自殺したのも、彼が藤井の支配から逃れられなかった結果だ。」

 翔は鋭い目で画面を見つめながら、さらに藤井に関する情報を探した。

「問題は…藤井が今どこにいるのかだ。」
 課長が口を開いた。
「彼が失踪してからの足取りはつかめているのか?」

「それが問題なんだ。」
 翔は一瞬眉をひそめた。

「藤井の失踪は計画的だった可能性がある。彼は名前を変え、姿を隠しているかもしれない。しかし、彼の信念は変わらない。おそらく、まだどこかで同じ手口を使っているはずだ。」

「次のターゲットは…?」
 優斗が不安げに聞く。
「藤井がまだ動いているなら、次のターゲットもすでに決まっているかもしれない。自然に関わる活動を通じて、彼は次の被害者を探しているはずだ。」

 翔は冷静に答えた。
「私たちの時間は限られている。彼が動き出す前に、次の一手を打つ必要がある。」

 翔は藤井の過去をさらに掘り下げ、彼が次に狙うであろう人物や場所を特定するために動き始めた。

 捜査は新たな展開を迎え、犯人が元精神科医である可能性が高まる中、捜査チームは次のターゲットを守るために迅速に動き出す。


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つづく


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