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キャンプ場連続殺人事件
キャンプ場連続殺人事件15『洗脳』
しおりを挟む和也が崖から飛び降りた瞬間、花守山キャンプ場の静寂が破られ、現場は混乱の渦に巻き込まれた。
優斗はすぐに崖の縁まで駆け寄り、その先を見つめた。
「大丈夫か! 返事をしてくれ!」と叫んでも、その声は谷底に吸い込まれるように消えていった。
麗子もすぐに駆け寄り、険しい表情で優斗を見た。
「被疑者の姿は?」
「下はかなり深い。助かる見込みは薄い…」
優斗は息を整えながら答えた。
崖の下は木々に覆われ、和也の体は見えなかった。
だが、現場には重くのしかかるような緊張感が漂っていた。
「面倒なことになるわ…」
麗子は苛立ちを隠せないまま、無線で捜査本部に連絡を入れる。
「こちら山口、申し訳ありません。被疑者が崖から身を投げました。生死不明。至急応援をお願いします。」
===
捜査本部に戻ると、すぐに緊急会議が開かれた。
翔もリモートで画面越しに参加している。
彼の顔には疲労が滲んでいたが、その目には鋭い光が宿っていた。
和也の最後の言葉が「真犯人は別にいる」というものであったため、捜査員たちは再び気を引き締め、事件の再調査を開始する。
「被疑者は…『真犯人は別にいる』と言ったのか?」
課長が冷静に尋ねた。
「はい。」
優斗が頷く。
「奴は脅されていたと言っていました。もし彼がただの捨て駒だったなら、真犯人は別にいるのかもしれません。」
「まずは和也の持ち物を徹底的に調べろ。特にスマホだ。」
翔が画面越しに指示を出す。
「彼が何者かに操られていたなら、その痕跡が残っているはずだ。」
優斗は和也の所持品を確認し、落下の衝撃で壊れたスマホを手に取った。
「すぐに解析に入る。俺のデスクのパソコンに繋いでくれ。」
優斗は和也のスマホを繋いだ。
「まずは、最近のチャット履歴やメッセージを確認してみる。」
翔がパソコンを操作し始めると、画面には「ナチュラル・ハーモニー」という名前のアカウントとのメッセージ履歴が現れた。
内容は奇妙で不気味なものばかりだった。
和也を「特別な存在」と称え、指示を出しているようなメッセージが並んでいた。
「これは…?」
優斗は眉をひそめながらメッセージを読み上げる。
「『君は自然と死の調和を理解している、完璧な存在だ。次のターゲットを呼び出せ。彼女はその場所で真の美を知るだろう』…」
どうやら和也は長い間、精神的に不安定で、孤独感に苛まれていた。
ネット上で「ナチュラル・ハーモニー」というアカウントに出会ったとき、彼は初めて自分を理解してくれる存在に出会えたと感じた。
その人物は、和也の心の隙間に入り込み、彼の孤独を埋めるように寄り添いながら、徐々にその精神を支配していった。
最初の頃、ナチュラル・ハーモニーは親しみやすく、和也の精神的な弱さを理解するかのようなメッセージを送っていた。
「君のように自然を愛し、その中にある死の美しさを理解できる者は少ない」
「君の感じていることは間違っていない。むしろ、君は特別だ」
といった言葉が、和也の心を捉えていった。
次第に和也は、その人物の言葉に依存するようになった。
孤独を埋めてくれる存在を求めていた彼にとって、その言葉は唯一の理解者であり、救いの手を差し伸べる存在だった。
しかし、その信頼はゆっくりと歪んだ方向へと導かれていく。
「君はもっと深い美を追求することができる。そのためには犠牲が必要だ。」
ナチュラル・ハーモニーは、和也に自己犠牲と他者の命を奪う行為を「崇高な行為」として認識させるように誘導していった。
和也の過去のトラウマや自己否定の感情を巧みに利用し、彼に「殺人」を「自然の美の一部」として受け入れさせたのだ。
「間違いない。この『ナチュラル・ハーモニー』というアカウントが、和也を操っていた。」
翔の声が低く響く。
「和也は、ただの駒だったんだ。」
「どうやってこの『ナチュラル・ハーモニー』の正体を突き止めるつもり?」
麗子が鋭い口調で尋ねる。
「まずは、このアカウントの情報を徹底的に洗う。」翔が言う。
「もしネット上の痕跡があるなら、それをたどって真犯人に迫るしかない。」
「了解した。」
課長が頷く。
「すべての手がかりを調べ上げるんだ。我々がやるべきことは一つしかない…真犯人を必ず捕まえることだ。」
捜査チームは緊張感に包まれながら、次の行動に移る準備を整えた。
その決意を胸に、彼らは真犯人を追い詰めるための包囲網を狭めていくのだった。
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つづく
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