リモート刑事 笹本翔

キャンプ場連続殺人事件

キャンプ場連続殺人事件７『芸術』

　古びたビルの一角にひっそりと佇むアトリエ。

　中に入ると、異様な雰囲気が漂っていた。

　薄暗い照明の下、部屋の中央には大きなキャンバスがいくつも立てかけられ、そこに描かれた絵は見る者に不安を抱かせるような奇妙なものばかりだ。

　死と自然との調和をテーマにしているのだろうか、すべての作品にはどこか病的な不気味さが滲んでいる。

　アトリエの一角には古いレコードプレーヤーがあり、そこから静かにクラシック音楽が流れている。

　犯人である**中原和也**は、椅子に座りながら、その音楽に耳を傾けていた。目の前のキャンバスに向かい、何かを描いているが、その筆は震えている。

　和也の顔には苦悶の表情が浮かんでいる。

　何度も何度も描き直し、そのたびにキャンバスに苛立ちをぶつけるように筆を走らせる。

　だが、その手は突然止まり、激しく震え出す。

「クソ…また失敗だ…！」
　和也は叫び、キャンバスを倒してしまう。

　床に広がる絵の具が、アトリエ内の混沌とした雰囲気を一層引き立てている。

「完璧じゃない…全然、完璧じゃないんだ…！」
　和也は自己嫌悪の表情を浮かべ、頭を抱えて蹲る。

　彼の周囲には散乱した画材や未完成のキャンバスが乱雑に積み重なっている。

　アトリエ内は汚れたまま放置されているが、和也自身は異常に神経質で、何度も手を洗い、鏡で自分の顔を確認する。

　まるで自分自身に納得できないような仕草を繰り返す。

「死と自然…それが究極の調和だ…だが、これでは…」
　和也はブツブツと呟きながら、自分の思考に取り憑かれている。

　彼の作品には、自然の美しさと死の暗さを融合させた異様なモチーフが描かれているが、どれも彼の満足にはほど遠い。

「自然…そして笑顔…」
　和也はふいに筆を握りしめたまま、激しい怒りの表情を浮かべる。

「どうしてあんなものが許されるんだ…？自然の中で笑っている奴らが…！」

　彼は突然立ち上がり、部屋を歩き回りながら拳を壁に叩きつける。

「自然は死と隣り合わせであるべきだ。生きることと死ぬこと、その境界を知りもしないで…笑顔だと？ふざけるな…」

　ふと、彼の目がパソコンに向かう。

　和也は席に座り、SNSを開く。

　次のターゲットを物色するために、彼は若い女性のアカウントを一つ一つ注意深く見ている。

　彼の指がマウスを動かし、画面をスクロールするたびに、その目は鋭さを増していく。

「次は…誰だ…」和也の声が小さく響く。

　彼の目が画面の一つのアカウントに止まる。

　アウトドアが好きで、自然の中での写真を多く投稿している若い女性のアカウントだ。

　写真には楽しげな笑顔と美しい風景が写っている。

「君だ…君が次のキャンバスだ…」
　和也の顔には狂気に満ちた笑みが浮かぶ。

　彼の中で自然と死が再び交錯し、その異常な美学に基づいて次のターゲットを決めたようだ。

　彼の神経質な性格と狂気が交錯する中、和也は新たな標的に向けて動き始める。

　アトリエには依然としてクラシック音楽が流れ、その不気味な旋律が、和也の心の闇をさらに深めていく。

　部屋の中で狂気と静寂が入り混じり、和也の目には新たな獲物を見つけた興奮と歪んだ満足感が漂っていた――。


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つづく


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