リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴

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キャンプ場連続殺人事件

キャンプ場連続殺人事件4『会議』

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 優斗は全力で男を追いかけていたが、森の奥深くで男の姿を見失ってしまった。

 息を切らせながら立ち止まり、周囲を見渡す。

 だが、どこにもその男の姿はない。

 追いかける途中で、男が巧妙に木々の陰に隠れ、優斗の視界から消え去ってしまったのだ。

「くそ…見失ったか…」
 優斗は悔しさを滲ませながら、無線で翔に連絡を入れる。

「翔さん、不審な男を追ったが、見失いました。」

「了解だ、優斗。無理はするな。ひとまずその場で待機してくれ。捜査員を手配する。」

 翔の声は落ち着いていたが、その中に隠しきれない緊張感が漂っていた。


 … … …


 翌日、優斗の報告を受け、警視庁では再捜査のために緊急の捜査本部が立ち上がった。

 会議室には捜査一課の刑事たちが集まり、各自が手にした資料に目を通している。

 優斗も席に着き、前方のホワイトボードに目を向けた。

 翔もモニターで会議に参加しており、画面越しに鋭い目で状況を見守っている。

 しかし、リモートで参加する翔に、冷ややかな視線を送る刑事もいる。

「さて、改めて事件の概要を確認する。」
 課長が会議の口火を切る。

「7年前、神玉川キャンプ場で最初の事件が発生。被害者は24歳の高橋美咲。フリーランスのイラストレーターで、自然が好きでキャンプに出かけていた。彼女の胸には樹葉のシンボルが刃物で刻まれていた。犯人は捕まらず、事件は未解決のままだ。」

 課長はホワイトボードに被害者の写真と事件の詳細を書き込んでいく。

「高橋美咲は静かな性格で、一人でいることを好んでいたが、SNSで不穏なメッセージを受け取っていたという証言もある。彼女は最後にキャンプ場に向かった際、誰とも接触していないようだ。」

「そして5年前、木傘山キャンプ場で第二の事件。被害者は27歳の佐藤麻美。旅行雑誌の編集者で、アウトドアが趣味だった。彼女も同様に胸には樹葉のシンボルが刻まれていた。」

 刑事たちは一様に頷き、事件の共通点を再確認するように資料を見直している。

 山口麗子が資料を手にして補足する。
「佐藤麻美は非常に社交的な性格で、キャンプ仲間とも親しくしていた。しかし、事件前にキャンプ場付近で見知らぬ男と口論していたという目撃証言がある。この男が今回の不審人物と同一人物である可能性もある。」

「これまでの捜査で判明したことを整理する。」
 課長はさらに説明を続ける。

「二つの事件には共通点が多い。犯行場所はどちらもキャンプ場、犯行の手口も似通っている。犯人は意図的に現場にシンボルを残し、メッセージを送っている可能性が高い。」

 続いて、翔がモニター越しに発言する。
「もう一つ、注目すべき点があります。犯人は二つの事件を通して、警察に対して挑発的な行動を繰り返しています。まず、樹葉のシンボルを被害者の胸に刻むことで、自分の存在を誇示している。マスコミには発表していない『秘密の暴露』であることを知っているのは、警察か犯人しかいない。犯人はその情報を利用して、警察を挑発しています。」

「さらに、犯行現場にペンダントを残す行為だ。」
 課長も同意するように頷く。

「このペンダントがただの証拠品であるはずがない。犯人はわざわざリスクを冒してまで、ペンダントを現場に残し、再び現れることで、我々に対する挑戦状を叩きつけているようにも見える。」

 麗子が補足する。
「あれがもし犯人によって意図的に置かれたものであれば、犯人は現場に再度足を踏み入れたことになる。まるで我々の目の前で踊っている。奴は我々に自分の存在をアピールし、次の一手を待っている。」

 その時、鑑識担当の刑事が会議室に駆け込んできた。

「課長!鑑識の結果が出ました。例のペンダントについて、重大な情報があります!」

 会議室内が一瞬静まり返る。刑事たち全員が一斉に鑑識担当者に注目した。

「どういうことだ?」
 課長が鋭い声で尋ねる。

「ペンダントの表面から、微細な繊維の痕跡が検出されました。そして、その繊維は…どうやら5年前の被害者、佐藤麻美さんのものと一致する可能性が高いんです。」

「やはりか…」
 翔が呟く。

「さらに、ペンダントには微かですが、古い血液の痕跡も確認されました。これもDNA鑑定に回しています。もし被害者のものと一致すれば、犯人が直接関与していた証拠になるかもしれません。」

 鑑識担当者の言葉に、会議室内の緊張感が一気に高まった。

「これは大きな進展だな…」
 課長は深く息をつき、全員を見渡した。

「この情報を元に、捜査をさらに進める。もう一度、現場の再調査を徹底し、犯人を追い詰めるんだ!」

「はい!」

 捜査員たちは、力強い返事をして一斉に立ち上がった。

「犯人の挑発には屈しない。必ず奴を捕まえる。」
 優斗はスマホの画面の翔に力強く言った。

 翔も画面越しに頷きながら、「その通りだ。必ず捕らえる。」と続けた。

 捜査本部の空気が一層引き締まる中、刑事たちは新たな決意を胸に秘め、次の一手を考えていた。

 だが、彼らの知らないところで、犯人の計画は静かに、そして着実に進行していた――。

 その魔の手は、次の犠牲者へと忍び寄っていた。


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つづく


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