四季夢

書楽捜査班

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第3章

出発

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いよいよ出発の時となった。
霖は不機嫌な様子で伝轟が友愛や礼々、咲恵に激励している姿を腕を組みながら聞いていた。

「いいか、ぜってぇ春幸は大丈夫だ。何とかなる。俺らが何とかするんだ」

その言葉に3人は強く頷いた。

「ありがとうございます。必ず春が君を取り返してみせます。」

「霖と炎、秋のヤツらによろしく伝えてくれよ!」

「おっす!!!」


「だーーーかーーーらーーーー!!!夏が君が行けば話は…」

「はっはっは!霖!!!照れ隠しはそこまでに"ぃ…」

気づけば霖は拳を握りしめていて、炎心は生々しい音とともに地面にのめり込んでいた。

「本当に相変わらず力強いね霖は!」

友愛は感心して、礼々と咲恵は引き攣った笑顔でのめり込んだ炎心を見た。

「だから、秋のヤツらにも気に入られてる…じゃあよろしくな!」

高らかに笑う伝轟の横で聚は深々と会釈をした。

「本当にありがとうございました。」

咲恵は改めてお礼を自分の口から言った。

そしてさっき受けた伝轟の説明通りに事を進める。

「銀葉…!!」

そう名を呼べば、引き寄せられるように銀葉が手に吸い付いてくる。
初めての事に緊張しながらも空中に線を描くように上から下へ銀葉を滑らせた。

そうすると紙が切れたように空中に切れ目が出来、その先が見えた。


「(当たり前だけどこことは空気が違う…気がする)」

恐る恐る切れ目の中へ足を踏み入れる。

目に入る沢山の黄色や赤色、いわゆる紅葉が咲恵達を迎え入れた。

「ここが、秋…」

友愛や礼々も初めて踏み入れる地に興味津々であった。
一方で炎心は手を鳴らし、霖は何かを警戒している。

どこからともなく聞こえる鳥達の囀り、乾き始めた風の音。
春や夏で聞いた音とは似ているようでまた違う。


「秋の…声…」

ポツリと出た言葉。

「ほぅ。お主には秋の声が聞こえるのか」

感心したような口調で言葉が返ってきた。
霖が誰よりも早くに誰もいない方を見て顔を顰める。
咲恵も釣られてその方向を見る。

ズサァァ!!

何かが咲恵達の目の前まで地面に擦られるようにして流れてきた。

「な、なに…!?」

「ぐ…くっ……」

よく見れば人型で横向きに蹲るような体勢をとり苦悶の声を漏らした。

そして何かを確認した礼々の顔が青ざめていった。

「凱即っ……!!!!!」

「凱即なの…!?!?」

友愛は急いで凱即に駆け寄り、本人かを確認した。

「(彼が、凱即…何があったの…?)」

凱即は傷だらけでドロドロ。

動こうとするが力も入らず
話そうとするも呂律が回らない。


「まさか…もう…冬が来たのか!?」

礼々は最悪の事態を考えた。

「秋が君。」

霖が大きな溜め息をつく。

「迎え入れ方が暴力的すぎマス。」

その言葉に思い当たるものがあるようにうんうんと頷く炎心。

「迎え入れ方…?霖、それはどういう…」

「生憎だが客人の迎え入れ方は〔これ〕しか知らぬ。」

礼々の言葉を遮る暖かくてどこか冷たい、そんな声。

「春の凱即…だったか?なかなかに粘りのあるやつであった。」


枯れ葉が舞う音がする。
肌寒さを感じる。
風にのった枯葉達と共に現れた1人の男。

容姿端麗。
そんな言葉が似合うというのが咲恵の第一印象であった。

「話しただけでは分からぬ、そ奴の怒りが感じられた。」


「あなたが…秋が君…」

友愛は息を飲み、不安げに秋が君を見た。

「いかにも。なに…案ずるな。凱即のそれは大したことではない。すぐに治るであろう。」

そんな友愛に秋が君がニコリと笑いかける。
その後直ぐに霖に目を移す。

「久しぶりであるな、霖よ。」

「お久しぶりでございマス。秋が君。」

「鷉歓がお前に会いたがっていた。奴ももうすぐここに来るであろうが時間が掛かりそうだ。すまぬな。」

「勘弁してくだサイ。」

霖が少しウンザリしたように答えると秋が君がクスリと笑った。

「秋が君お久しぶりです!!俺と手合わせ願いますか!?!?」

霖の平手が炎心の頭にヒットする。


「いつもよりも話すことが多くて愉快だ。時に人間。何故人間がここにいる?」

笑ったまま咲恵に問い掛けるが目が笑っていない。

「わ、わたしは…春幸の…」

怖い。
なにか間違ったことを言ってしまったら
何かが始まってしまいそうで。

しかしその言葉を聞いて秋が君の目に光が宿る。

「ほほう…お前、春の名前を直で呼ぶか。」

「…」

やってしまったか?咲恵に緊張が走るがその様子に気がついた秋が君。

「我輩の言葉に気にせず最後まで話せ」

そう言われて、安心はしていないものの咲恵ははっきりと言った。


「………春幸を…助けたくて…」

「………」

沈黙が流れる。

「春の奴を助け…たい…?」

その瞬間秋が君が大きく高笑いを始めた。

「あっはっはっはっは。人間が、神に近い存在を助けたい…?これはこれは…」

堪えようにも堪えられぬというふうにまた笑い出す。

「……秋が君、笑いすぎデス。というか…そんなに笑うんデスネ…」

「あぁ…すまぬ。こんなこと後にも先にもないであろうと思ってな。やめておけ人間。」

「…え?」

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