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第3章
温風
しおりを挟む轟焔が空を切り裂く。
「いやぁこんな使い方もあるんだなぁ!!知らなんだ!」
と感心しながらその切れ目に入る伝轟。
「よぉ!!!帰ったぞぉー!」
伝轟の次に裂け目から炎心がそう言いながらひょいっと顔を出した。
と思ったら姿が消えていた。
「あれ?」
次に控えていた礼々が恐るおそる裂け目から抜け出す。
それに続く残りの2人。
「……!!!!」
炎心は既に地面にのめり込んでいた。
そして伝轟より遥かに小柄な子が彼の目の前に仁王立ち、長い前髪で隠れてはいるがすごい形相で睨みつけている。
その近くにこれまた見知らぬ男が1人のめり込んでいる炎心をただじっと見つめていた。
「(カ、カオス…!!!)」
そしてこの状況に何も動じない春組の2人…咲恵は更に戸惑いまくった。
「遅い…」
ポツリと吐き出した言葉にかなりの念が込められている。
「よぉ!霖(りん)!遅くなってすまなかったなぁ!」
そんな姿を尻目ににっかりと笑い対応する伝轟。
「遅すぎマス。これで敵に襲来を受けたらどうするんデスか?怨みマスよ?」
早口でボソボソと返答をする霖と呼ばれる者。
「なぁに、霖と聚(しゅう)がここにいれば何とかなるだろ!」
「何とかなりまセン。そういうめちゃくちゃな考えやめてくだサイ。」
「霖ちゃんごめんね…こっちで色々と…」
友愛が間にはいって霖に謝った。
「分かってル。凱即(がいそく)が来て粗方話は聞いてル。」
相変わらず早口で返答をする霖。
「凱即は…?」
礼々は辺りを見渡して彼を探した。
「凱即君なら秋組に伝えに行ったよ。」
男が答えた。
「実は春にはもう1人いてね、それが凱即。事が起きた時直ぐに夏組にその事を知らせに行ってくれたの。」
友愛が咲恵に凱即について何も言ってなかったことを詫び、簡潔に教えてくれた。
「聚、そいつ助けなくていいカラ。」
そいつとは間違いなく炎心の事である。
「うん」
即答で返事をする聚。
「(即答っ………)」
伝轟と炎心とは全くと言っていいほどテンションが違う2人。
「そんな事より」
「(そんな事より!!!)」
「春が君デスね…?」
ちらりと視線を伝轟に担がれている春幸に向け、すぐに戻す。
「あぁ、春の所はもうボロボロだ。しばらくこっちで預かる事にしたんだが…」
「場所は確保してありマス。」
まるでそうなることが分かっていたのだろうか。
「おう!ありがとうな霖!!」
「早く行きまショウ。これ以上そのむさ苦しい腕に担がれている春が君が可哀想で見ていられまセン。」
「はっはっはっはー!!」
「その笑いやめてくだサイ。唾が飛んでマス。」
「(何この会話!!!!!!)」
咲恵は2人の温度差にパニックを起こした。
「2人はとにかくその傷を手当しないと。咲恵さん?…も限られた時間ではありますがゆっくりと休んでください」
こちらですと聚が案内を始めた。
伝轟と霖は何かを言いながら咲恵達とは真逆の方へ歩いていった。
炎心はそのままである。
「(炎心さんは大丈夫なのこれ…)」
「彼なら大丈夫です。いつもの事ですから」
聚は咲恵の心を見透かしたように独り言を呟く。
夏組との対面が衝撃すぎたが、夏組がいる所は春組がいた場所とは全く違う雰囲気である。何よりも違うのは気候と植物達。
気温は明らかに高く、歩いていると少しずつ汗が滲み始めた。生い茂る植物達は簡単に言えば南国に生息してそうなものばかり。
春の草花はそこまで主張してこなかったがここにある草花はどれもカラフルでハッキリした色合いである。
「(ここが…夏の世界)」
暑いのは嫌だが雰囲気は好き。
そんなことを考えながらなるべくこちらの歩幅に合わせて歩く聚について行った。
辿り着いた場所には神殿のような建物が建っていた。
「ここは春のところとほとんど同じなんだ…」
「さ、中へ。」
大きな扉を通り広間へ。
「友愛ちゃん、礼々君はすぐ治療するからここで待ってて」
「ありがとう」
「かたじけない」
笑顔で答える友愛も平静を装ってる礼々も見るからに疲れ切っていた。
「(…なにか声をかけた方がいいのかもしれないけれど…)」
なんて声を掛けたらいいのだろうか。
咲恵は少しの間だけ考え込んだ。
慰めの言葉?
労いの言葉?
「(春幸…春幸なら2人になんて声を掛けるの?)」
「咲恵さんはこちらへ。」
聚は再び歩きだす。
慌てて咲恵もついて行く。
「じゃあまた後でね咲恵!」
「うん…また」
気丈に振る舞う友愛。
「(結局言葉なんてかけられなかった…)」
そんな自分に落胆をしつつ広間を後にした。
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