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第2章
熱 Ⅱ
しおりを挟む「夏の兄貴ぃ、まさか春の旦那が死ぬわけねぇっすよ!」
「こ、この声は…」
礼々が何かを察する。
やっと砂埃が晴れてくると2つのシルエットが見えてきた。
「や…はり…」
なんだか予想が当たって欲しくない言い回しに聞こえる。
友愛もその姿がはっきり見えると大きく手を振った。
「あっ!夏が君!!とえんちゃん!!」
どっしりと鍛えられた身体に赤い髪。
もう1人もそこそこ鍛えられた身体をしていて、額に布を巻いている。
とにかく見ているだけでも暑くなりそうな気がした咲恵。
手を振る友愛に手を振り返す赤髪の男。
「よう!友愛!と礼々!」
「友愛の姉貴ぃ!!」
もう1人の男も元気に振り返していた。
「いや、こんな呑気になってる場合じゃねえな。春幸は?」
「うん…あっちに」
友愛が2人と話込みながら春幸の所へ案内した。
しばらく礼々と待つことになる。
「あの、礼々…」
「さん」
「あ、礼々さん」
「なんだ」
「あの2人は…?」
腕組をして目を閉じていた礼々はゆっくりと目を開け、視線を咲恵に移した。
「夏が君だ。読んで字のごとく夏を起こす者。」
「夏…」
咲恵は少し納得した。
「(見た目が…夏っぽかった)」
しばらく沈黙が流れる。
2人はなんだか気まずくて友愛に早く戻ってきて欲しい気持ちでいっぱいであった。
「さ、ささっきは…その…」
突然どきまぎしながら礼々が話し始める。
「つっ…!!その…悪かった…」
咲恵もすぐ察しがつき、
「い、いや…気にしないでください…」
と両手を小刻みに振りながら応える。
「それに疑われて当然ですし…」
ははっとはにかみながら話す咲恵を見て、礼々はため息をついた。
「こんな事が起こるのは初めてでな。正直気が動転していた。…いや、こんなの言い訳にすぎないな…」
あぁ~~と焦ったように頭を掻く礼々。
「とにかく!!必ず春が君を復活させる方法を見つける。そして事の真相を明らかにする。貴様にも手伝ってもらうからな!」
「もちろんです。春幸を助けられるならなんだってやります。」
「しゅっ…!!!」
その名前をうっかり口にしてしまいそうになり慌てて礼々が口を抑える。
「(気安い…気安すぎる…!!!なんて奴だっ…!!)」
怒りのバロメーターが一気に上がる。
しかしそれと同時にふと思い出すものもあった。
--------
それは咲恵との一件があった後の事。
話を聞いた礼々は咲恵のあまりの無礼な言動に怒り狂った。
この神聖な場所に人間を入れることは禁忌である。
以前から礼々ももちろん反対していたし、咲恵の春幸に対する言動が気になって仕方がなかった。
「だから!!!人間をここに呼ぶ事自体間違っていたのです。なんて無礼な生き物なのですか!!もう金輪際ここへ呼ぶ事はおやめください!!!」
大昔から醜い人間が争いを繰り返してきたことを知っている。
だから礼々は人間に対してあまり良い印象がないのもあり怒りのバロメーターが上がりまくっていた。
「そうだね礼々。あんな事を言われたのは初めてだったよ」
そんな礼々をよそに何かを思い出したかの様にクスッと笑う春幸。
「でも美しくもある。あの子が笑い、怒り、そして涙する姿がとても愛おしく思えてしまうんだ。何故だろうね。」
何も答えられずに黙り込む礼々。
「とても無礼なことを彼女はしている。だが許して欲しい礼々。私の最初で最後のわがままだ、すまない」
わがままなんて春幸の口から出るとは思わなかった。
「もうすぐ、私達の季節が来る。咲恵に早く届けたいものだ」
とても穏やかな口調だった。
--------
「(わがまま…か…本当に最初で最後になってしまう…のか…?)」
いつの間にか怒りのバロメーターは息を潜めていた。
「まったく…もう少し、あなたのわがままに付き合いますよ…」
「…?」
咲恵の反応を見て礼々は自分の思っていたことが口からただ漏れていたことに気づいた。
そして慌てて咳払いや発声練習で何事も無かったかのように振舞った。
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