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第1章
宝石 Ⅱ
しおりを挟む「しん…だ…?」
状況を飲み込むのを拒否している自分がいた。
「友愛、こいつだ。こいつが春が君を…」
「違うよ…」
「まだ言うのか…!!!」
「これ…夢だよね…?明晰夢…だよね?」
咲恵が自分に言い聞かせるように呟く。
「明晰夢は…私の描いたものだから…私の思う通りのはず…」
春幸が死んだ?
私が殺した?
私がそう望んだから…?
「まだしらを切るつもりか…」
礼々が再び咲恵を睨みつける。
「礼々。しっ」
友愛と呼ばれた少女が礼々を嗜めながら咲恵に近づく。
その事に気づかないくらいに彼女きは錯乱していた。
「違う…死んだなんて…死なんて私は望んでないのに…」
「咲恵」
目の前に立つと咲恵の服の裾を引っ張った。
「行こう?」
「友愛!!お前何を言っているんだ!!!!!こいつが殺したんだぞ!?!?」
そんな礼々の怒号も気にせずに友愛は咲恵の服を引っ張りある場所へと連れていった。
瓦礫の山を通り過ぎる。
荒れ果てた森。
咲恵は目を背けた。
受け入れられない。
しばらく歩いていると友愛の足が止まる。
自然と咲恵も止まる。
「あそこ」
その声に導かれるように…半ば強引に焦点を合わせる。
開けた場所に【彼】はいた。
咲恵は口を震える両手で覆った。
震えが止まらない。
「う…そ…」
横たわる身体。
眠っているかのように目を閉じている。
「しゅ…んれい…?」
横たわる彼の前まできて、しゃがみこむ。
そこにいるのは春幸だった。
「春幸…」
違う。
「こんなの…違うよ…冗談は…やめてよ…」
彼がいつもの様に笑いながら謝ることはない。
「嫌だ…こんなの望んでない…!!嫌だ!!いやぁぁぁ!!!!」
彼の亡骸を抱きしめた。
酷く冷たい。
確かに生は無かった。
それでも受け止められない。
「覚めて…夢から起こして…覚めろよ!!覚めて!!」
涙が彼の頬に落ちていく。
徐々に身体が彼の死を受け入れようとしている。
「咲恵。これは夢じゃないんだよ?」
その姿を見ていた友愛がようやく口を開いた。
「これは全部現実なんだよ?…春が君はその事をまだ告げていなかったんだね…」
「…現実だなんて…ありえない…これは私の夢だ…」
「私達は四季を起こす者 」
「……違う」
「春が君、春幸様は春を訪れさせる者」
「…嘘はやめて」
友愛が切なそうに笑う。
「嘘じゃないんだよ…?だって…人間界に春来なかったでしょ?」
立て続けに話す。
「春が君が死んでしまったからなんだよ?春を訪れさせる者がいなければ…春は人間界には訪れない。」
「…………」
「これは現実なんだよ…?」
「じゃあ…どうして私はここに来ることができたの…?」
友愛の言葉がしばらく詰まる。
「それは私達にも分からないんだ…ごめんね…」
「ただ確かなことはある。咲恵、貴様が春が君を殺したという事だ。」
礼々の怒りに震える声が咲恵に襲い掛かる。
「今すぐ春が君から離れろ…貴様を殺してやる…!!!!」
ツカツカと歩く音と同時に鞘から剣を抜く音が聞こえた。しかしその音が近づいても咲恵が動くことはなかった。
「礼々だめっ!!」
友愛が礼々に掴みかかり咄嗟に彼の頭の上の団子を掴む。
「っ!離せ!!!友愛!!そこを掴むな!!!!」
「やだ!!早くその剣をしまってよ!!分かってるでしょ…!?春が君を殺したのは…咲恵じゃない!!」
「うるさい!!ありえん…そんなことありえんのだ!!!!」
必死に友愛を引き剥がそうとする礼々。
「春が君を殺したのは…冬が君だもん!!!」
礼々がさらに激高する。
「戯けたことを言うのはよせ!!!!戯けが…」
友愛の右ストレートが礼々にヒットし、勢いよく倒れ込む。
「戯けじゃないもん!!戯けって言った奴が戯けなんだもん!!」
「ゆ…うあ貴様っ…」
「だって…だって…冬が君の匂いがしたんだもん。」
友愛が悲しそうに俯く。
その言葉を聞いて礼々も黙ってしまった。
「…礼々も分かってたでしょ…?春が君の【心】を抜き取った所にあった氷の跡。」
「しかし…しかし…」
礼々がそれでも足掻こうとする。
が、しばらくして観念したように振り上げていた剣を降ろし、切り出した。
「何故…春が君を殺す必要があるんだ…争うものなど何も無い…ましては…どの季節の者よりも気心が知れた仲だったではないか…!!!!」
「分かんないよ…でももしかしたら…【心】は抜き取られただけで壊されてないかもしれない…」
「しかしそんな確証は…」
「ない…でも、もしも壊されてなかったら…奪われた心を取り戻せば…」
「目覚めるかもしれないと…?」
礼々は少し興奮した様な、安堵したような表情を見せた。
友愛はゆっくり咲恵の方に向き直す。
「だから咲恵も一緒に【心】を探しに行こ?」
咲恵はその話を聞き、少しだけであったが安堵した。しかし力なく首を横に振る。
「私なんて力になれない…しかも私が犯人ってのはある意味合ってるかもしれない…彼に言ってしまったのだから。」
咲恵は春幸からそっと離れ、立ち上がった。
「殺してくれてもいい、消えろって言ったことは確かだから。ごめんなさい、貴方達の大切な人を殺してしまって。」
その言葉を聞くと友愛が無言で咲恵の所まで歩き出す。
礼々は息を飲んだ。
「(自分に終わりを告げよう)」
咲恵は目を瞑った。
もしこれが夢で殺されて覚めたら自分で終わりにしよう。
そんなことを考えながら。
「許さない。」
目の前まで来ると友愛は呟いた。
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