四季夢

書楽捜査班

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第1章

束の間

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「だいがくじゅけん…?」

春幸がキョトンとした顔で咲恵を見つめる。
神殿の様なその場所は咲恵にとってのいつもの場所。
いくつもの白い石が転がっていて、
2人はそれぞれが座りやすい石に座って話をしていた。

「そう、大学受験。色んな分野があって専門的に勉強する所だよ。」

「ほう…」

「(絶対分かってないよね…)」

「それで、その大学も既に母君に決められていると?」

咲恵の顔が一気に曇る。

「うん…そこで勉強して、卒業したらエリートな会社に務めて母親に貢ぐんだ」

春幸は顎に手を置いて咲恵を見つめた。
咲恵はどこも見ていない虚ろな表情だ。

「咲恵には行きたい大学とやらがあるんだね?」

話す前に先に言われて思わずドキッとする。


「…でも、無理だから。考えないようにしてる。考えるだけ無駄だし」

ドキドキが次第に落胆へと変わっていく。

「そうかな?まだその事を母君には話していないのだろう?」


「当たり前じゃん!!話したって…」

「話してみる価値は充分あると私は思うが。」


「そんなん……変わらないよ…」

「変わらないかもしれない、けど何か変わるきっかけに繋がるかもしれないよ?」

「なんだか曖昧だなぁ…もう」

「すまない」

春幸が申し訳なさそうに笑う。

「でも、きっと変わらない。何も起きないよ…」

咲恵は少し寂しそうに笑った。

「咲恵」

真っ直ぐな声に突き動かされ春幸の方を向く。
少し距離を置いて座っていたが、ゆっくりと近づき咲恵の目の前までやってきて立膝をついた。
そうするとちょうど顔と顔の高さが一緒になった。

「冬は必ず春になるから」


咲恵の頭をポンと手を置きにっこり笑う。
その笑顔が優しくて、暖かくて…泣きそうになった。

それを笑いながら必死で誤魔化そうとする。

「本当…意味わからないよ春幸は…」

「要は私はいつでも君の味方だってこと」

その言葉を聞きながら
暖かい風、優しい草花の香りを感じた。


「(変わりたいな…)」

そう思わせた。








あの夢を見た時からずっと考えていた。
この状況が変えられたらと。

母親と関係改善できたら…
妹とも表沙汰で仲良くできる。
自分の進みたい道へ行ける。



季節はもうすぐ春。
大学の進路はどうするか…学校では既に話が上がってる。

変わりたい。

話せば状況が変わるのでは…?

無理だ…。

押し問答が自分の中でずっと続き、悶々としていた。



「咲恵ちゃん?」

その声にハッとして我に返る。

「……」

いつもの三つ編みをぶら下げ、焼きそばパンを頬張りながら心配そうに咲恵を見つめる。
最近になって一緒に昼ごはんを食べる仲になった。
とは言っても、咲恵的にはご飯時になると勝手について来ると子しか思ってないが。

「大丈夫…?」

「別に…」

咲恵も持っていたサンドイッチを頬張る。

「もうすぐ大学決めないとだよねぇ~」

その言葉に反応したがそんな姿を見せないように平静を装ってモグモグと食べ続けた。

「……」

「私さっ!大学行けるか分からないんだ~親がダメって言うかもしれなくて…」

明るく話すがどことなく寂しさも感じられた。

「………ふーん」

「でもさ、行きたい大学があってね!お願いはしてみようかなって!ダメかもしれないけど言ったら変わるかもって思って!」

鼻を鳴らしてその子は話した。


「そう……」


「咲恵ちゃんは??行きたい大学あるの??」


一瞬言葉に詰まったが、うんとだけ呟く。

「そっか~、行けるといいね」

「行けないよ。」

「…行けないの?」

「親が行かせてはくれないから。親が全部決めるから。何もかも。」

そう話す自分が情けなくなり、同時に笑えてしまった。
だが、そんな咲恵の姿を見てもその子は笑わなかった。

「そっか…じゃあ一緒だね!」

「はっ?」

「行きたい大学行けない組!」

「…っ」

咲恵は呆れてものも言えなかった。

「同じ悩みを持つと同志よ~大変だよねぇ~」

頬をパンパンに膨らませてウンウンと頷く。

「ばっ……あんたと一緒にしないでよ!!」

「今度親睦会やろっ!どうやって親にうんと言わせるか話し合おう!」

「人の話聞いてる!?…親睦会って……」

吹き出してしまった。
あまりのくだらなさに。

「あはは!!笑った!!咲恵ちゃん以外にもツボが浅い!」

その子は嬉しそうに笑っていた。

「(なんでこの子はそんな嬉しそうに笑うんだろう?)」

そんな姿を見て尚更咲恵も笑ってしまった。


その時ふと春幸の言葉を思い出す。


『次はありがとうが言えるといいね』


「…みたらし団子…ありがとう……」

その子は笑うのをやめた。
ふと口からこぼしたは言いものの、だいぶ前の話を突然話してしまった咲恵は恥ずかしさで頭に血が登ってしまった。

「どういたしまして」

にっこり、優しく笑いながらその言葉に応えてくれた。
咲恵も嬉しさのあまりどうしたらいいのかわからなくなって今度はしばらく2人でこっそり笑いあった。

「咲恵ちゃんにお礼言われちゃったぁぁー!!」

その子は嬉しさのあまり唸りながら机を叩き始めた。

「それはやめろ」

咲恵は冷静に戻った。
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