四季夢

書楽捜査班

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第1章

明晰

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「あの新色コスメ買った?」

「まだー、てかさぁ~彼氏がさぁ~」

「昨日のあの番組観たか?」

「観たみた!くっそくだらねぇの!!」

「隣のクラスの新上さん?もうさ…あれみたいよ…」


休み時間、どうでもいい会話が聞こえてくるから嫌だ。
何故あんなに話ができるのか。
よく漫画とかである屋上とかでゆっくり静かに過ごせばいいと思うかもしれないが、どの場所も幸せオーラ全開の人達に占拠されてる。
だから結局は自分の席しか居場所はない。

今は高校2年で2学期の終わり頃。
もうすぐ進路を決め出す時期である。
正直とてもめんどくさい。

昨日もそんなことで親と喧嘩をした。
親の行きたい所と私が行きたい所が全く違うからだ。

エリート街道まっしぐらな親。
私姉妹の長女だからって
そんなくそみたいな街道に私も走らせようとしてる。
本当にごめんだわ。


……と、愚痴はこれぐらいにしておこう。



咲恵はイヤホンを耳につけ、机に突っ伏した。

が……すぐに起き上がることになる。

「咲恵ちゃーん!起きてぇ!!」

イヤホンをつけているにも関わらずよく耳に響く声。

咲恵はムクリと頭を起こし目線を上へとやった。

「あに(何)…?」

「あのねー!!!調理実習で!みたらし団子作ったんだー!!!」

三つ編みをわさわさ揺らしながら満面の笑みで語りかけてくる少女。言い終えるやいなや目の前にドンとみたらし団子が入った小さなパックを差し出してきた。

「………自分で食べなよ……」

面倒くさそうに咲恵は机に突っ伏す。

「…だって前にみたらし団子が好きって言ってたから。」

「…………言ったっけ…」

「うん!じゃあここに置いておくね!」

そうして机の端の方にみたらし団子を置いて去っていく音が聞こえた。


季節は冬。
からからと枯れ葉が風に舞う。
咲恵の住む地域は時々雪も降るがまだ予報はでていない。

ふっ、ふっ、と歩く度に白い息が漏れ出す。


「(今日もあの夢で思いっきり愚痴ろ…)」

学校にいる時とは違い咲恵は浮き足がたつほどテンションが上がっていた。


あの夢。

それは私だけが見ることが出来る特別なもの。








「ふぅん。それで?君は結局の所みたらし団子というものが好きだったのかい?」

「……まぁ…あんこよりは…」

「じゃあそれを彼女に教えたことはあったの?」

「……まぁ……なりゆきで…言った…かな……」

認めるのは悔しかったが咲恵は口を尖らせて応えた。

その様子を見てニッコリ笑う容姿端麗な男。

「そうか、とても良い友人を持っているんだね咲恵は。」

「とっ……!!!いやいやいや……ただ、授業中に教科書を貸しただけだし…」

咲恵が更に口を尖らせると男は口を手で覆いながら淑やかに笑った。

「ちょっと…笑いすぎ…」

「ふふ、すまない。」

全く申し訳なさそうでないが男は笑うのをやめてにこやかに言った。

「次は、ありがとうが言えるといいね。」

「うん…」


それからしばらく話はせずに景色を眺めた。

ここでは自然と素直になれる。
暖かな陽気と色とりどりの草花に囲まれてるからだろうか。
彼、春幸(しゅんれい)器の大きさに身を委ねているからだろうか。


「春幸が"現実"にもいてくれればなぁ…」

ポツリと呟く。

「私は来る時が来たらちゃんと咲恵を見守るよ。」

遠くを見つめながら春幸はそう応えた。


「はいはい、私の妄想の中でね」

咲恵は諦めたように手のひらをパタパタと振った。


「(自分の妄想力ほんとに凄いな…)」

そんな事を考えながらまた話をやめて景色を眺めた。



ここは特別な場所。

明晰夢。

誰かに話を聞いてもらいたくて作り上げた
咲恵の"居場所"である。

明晰夢とは自分の意識や意志を保ったまま見る夢のことで、上達すれば自分の思い通りに夢を操作することができる。

その日見た夢をノートに書き出していた咲恵が明晰夢を見ることができるようになるのに時間はかからなかった。


話を聞いて欲しい。



そう願った彼女の前に現れたのが
春幸だった。

新緑のような美しい髪色。その流れるように伸びている髪はひとつに束ね、煌びやかな装飾品が飾られている。
綺麗としか言いようがない顔立ちではあるがどこか悪戯な笑みを浮かべる。
とにかく彼は器が大きく、咲恵の心に溜まっていたドロドロとしたものを全て受け止めてくれた。
時にはズバッと言ってくるが基本咲恵主体で考えてくれる。

最初は家や学校での愚痴をこぼしまくっていたが今ではこうして他愛もない話をする事の方が多くなってきた。


「じゃあ、今日はもう帰るね。」

「そうか、今日も来てくれてありがとう」

「じゃね」





プツンと意識が戻る。


「現実世界へようこそ……」


そう自分に呟く咲恵であった。
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