一人で生きる

フルギノキフルシ

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04.

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「イチ俺の名前知ってたっけ」
「知らないわけないだろ。おまえ俺のことうっすら舐めてるよな」
 行くぞと言ったって庶民的な1LDKだから、ドアを開けたら隣がもう寝室だ。
 寝室に入って、僕はデスクを指さした。
「上から2番目」
 イチは上から2番目の引き出しを開けてため息をついた。僕からは顔が見えないけれど、しかめ面が想像される。パッケージの違うコンドームがみちみちと詰まっているのだから真っ当な反応だ。
「おまえ相変わらず怖いよ」
「あのときの箱は別に残してるけど見る?」
「バカ」
 僕は伸び上がって、肩越しにイチの手元を見た。イチは真ん中の列の上から3番目の箱を取って、中身をひとつ出した。
「その下」
 イチはもう一段下の引き出しを開けて、ローションのボトルを取った。振り向き、僕の脇を抜けて、ヘッドボードにボトルとコンドームを並べる。ベッドに腰かけて、おい、と言う。
「フミ、おまえ、こっち」
「うん」
 隣に座ってイチを見る。20歳のときと比べて、顎から肩にかけての線がずいぶんとぼけたけれど、やっぱりきれいだ。
 腰を抱かれてキスをする。押し倒されて、マットレスに体が沈んで、眉間に皺を寄せたイチが覆い被さってくる。できすぎている。ルームライトのリモコンを取った。何も見えないのはさみしいけれど、あまりはっきり見えて我に返られても困る。明かりを半分落とした。
 シャツのボタンを外される。気分を高めるために上半身は下着をつけていなかったので、そのまま胸が露出する。イチはため息もつかないし、鼻で笑いもしなかった。唇を固く結んで、裸の腹に指先で触れる。イチの指が僕の乳首や臍や脇腹をなぞる。僕は膝を立てて脚を開く。
 そのうち、イチは思い出したみたいに僕のシャツを脱がして、自分も上半身だけ裸になった。はじめてのときもその次もイチは上を脱がなかったから、生の胸や腹を僕はきちんと見たことがなかった。目の前にある鎖骨に親指を押し当てる。手首を掴まれて強引に引き剥がされる。そのまま手をイチの肩に持っていかれた。この肩にしがみついて好き放題泣きわめきたいとずっと思っていた。たぶん僕の人生で1番いいところなのに、ここでやりたいだけやれなかったらやりきれない。しばらく考えてから言った。
「ちんこ舐めていい?」
 イチは手を止めた。
「なんでよ」
「舐めたいから」
 イチの肩にあった手を腰に下ろしてしがみついた。口でベルトを外して前を開けて、その気になりかけているのを外に出す。熱とにおいとで頭がいっぱいになる。
「どこで覚えんだそんな」
「練習した」
 根本に唇を当てて、舌先で舐めながら、先端に向けて口をずらしていく。ときどき吸う。右手で陰嚢の裏を撫でて、左手の指を陰毛に絡める。亀頭にたどり着いたとき、先が濡れていて嬉しかった。舌の先を差し入れて舐めた。目を上げると、イチは左手を噛んでいた。調子に乗って、でも終わらせてしまわないように気をつけてしゃぶりついた。大きくて息が詰まるのがいい。イチはか細い声で、ちょっと待ってと言った。僕はイチを口から出した。
「待って、変な声出た」
「変な声出ないセックスなんてつまんないって」
 前にしたときだって、ああとかふうとか程度はイチも言ったはずだ。イチは下を穿き直しながら頭を振った。
「俺にさせてって」
 せっかく陶然としていたところだったのにもったいない。イチは僕のぺらぺらの胸をかき集めだした。揉むものなんかないぞと思っているうちに、それはそれで気持ちよくなってきた。イチは眉を寄せて、僕の左の乳首を指で摘まんだ。声が出そうになって、枕に顔を押しつけた。
「おまえこそ変な声出せよ」
 摘まんだ乳首を、イチは親指で押し潰した。そうされると、体中が気持ちよさ一本で貫かれてしまって考えることができない。僕は枕を掴んだ。
「やだ」
「やだってなんだよ」
「俺おっさんだもん」
「知ってるけど」
「イチのことヘテロと思ってないけど、それにしたってイチみたいなのは普通に若くてきれいなのが好き」
「おまえほんと俺のこと見下してるな」
 イチが指先を押し付けてくる。もう仕方がない。声が出た。イチは笑ったように見えた。服の上から陰茎の形をなぞられる。
「触ってないのにがちがちにしてんの」
 僕はイチの太い腕にしがみついて、許してと言った。言ってみたら気持ちがよくて、お願いイチ許して助けてとすらすら出てきた。ずっとこうしたかったんだった。イチはまた頭を振った。
「優しくしたいのに」
「しないでよ」
「俺のためにだよ」
「知ってるよ。どうでもいいから脱がして。触って」
 イチは僕のズボンと下着をいっぺんに脱がした。勃起した性器が外に出たときに、イチはすげぇと言って、僕は空気が冷たくて気持ちいいと思った。
 イチの手が僕の陰茎を握って擦る。自分でするときもこうなんだろうかと思った。気を抜いたら射精しそうで、したところでたぶんもう1度できるけれど、我慢する方が気持ちがいいので我慢する。充分楽しんでから、ヘッドボードのローションを取った。
「イチも脱いで」
 膝を立てて、ローションで濡らした指で自分の入り口をなぞった。すぐに根本まで入った。イチはそこをじろじろと見ながら裸になった。いよいよ夢なんじゃないかという気がしてきた。イチに見られているつもりでひとりでするのが好きだ。
「勝手に満足すんなよ」
 イチは僕の足の先であぐらをかいて、コンドームをつけた。あんな大きいものが入るのかと思うと、夢でないなら死にそうだ。
「イチのも濡らして、おっきすぎるから」
 イチはコンドームを被せたペニスにローションをかけて、僕の脚を大きく開かせた。僕は腰を浮かせた。イチの先が僕に触れた。夢でいいと思った。息を詰まらせていたら、なあとイチが言った。
「ゴムの箱空いてたけど」
「道具にだって被せるんだよ衛生上」
「男じゃないの」
「イチほどいいちんこには相手にされない」
「へぇ」
 入られて悲鳴を上げた。反射的に逃げ出そうとしたら腰を掴まれて、まだ全部入ってないと言われた。イチは深い呼吸を繰り返しながら、僕をいちばん奥まで開いた。
「すっげ、ぎちぎち」
 脚の間にイチが収まっているのと、その手前で裸のペニスが真っ直ぐに立ち上がっているのとをいっぺんに視界に入れて、僕は嬉しくなった。嬉しくて笑っているだらしのない顔をイチに見られていると思うとたまらなかった。
 イチが動き出した。ひぃとかあぁとか呻くしかなかった。僕の体はイチを受け止めるのでいっぱいで、ほんの少し体勢を変えられるたびに抉れた。
 いつの間にかイチに向かって手を伸ばしていた。イチはそれを掴んだ。イチに引かれて僕は体を起こした。繋がったまま座って抱き合った。気持ちいいと言った。イチの口から甘ったるい息が出た。唇に唇を押し当てられた。
「ちんこ舐めた口だよ」
「俺のちんこだろ」
 イチの口の中に入ってきて僕の歯茎を舐めた。僕はイチの胸を指でなぞった。イチは震えた。そういえば頬を吸いたかったのを思い出したので、空いている手でそこをくるんで、いいと聞いた。いいと返ってきたので噛みついた。イチはわ、とかあ、とか言った。きれいな顔に痕がついた。
「イチ」
「なに」
「きもちいい」
 ベッドに押し倒されて突き上げられた。いい、助けて、きもちいい、許してイチとだらだら出てきた。イチは僕の顔と頭にやたらとキスをした。そのうち性器を掴まれて、先端をきつく握られた。
「やめて死んじゃう」
 本当に死んでしまうと思って言った。言ってから、別に死んでもいいなと思った。
「死なないって」
 イチはとても気持ちよさそうに見えた。僕は喘ぎながら泣いて、射精して、イチに射精してもらった。
 イチが体から出たあとも、僕はしばらく泣いた。イチはそれをじっと見ていて、僕がひとしきり涙を出しきってから頭を撫でてきた。
「なんで泣くの」
「泣きたいから」
 イチは首をかしげて僕を見た。キスされた。気持ちがよかった。こんなことが僕の人生に起きていいのか。
 僕は裸のまま、イチに背中を向けた。明日からどこに向かって生きていけばいいのか皆目わからない。そのうちイチは眠ったようで、僕らは朝まで一緒にいた。
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