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姑の暴言2
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カトリーナはなおも言ってきた。
『いくら傲慢とはいえ、王妃に迎えてしまった以上は仕方ないもの』
エレーヌの顔がこわばる。
もうそれは、とげがある程度ではなかった。
(カトリーナさまはやはり私が嫌いなの……?)
エレーヌは涙がにじんでくる目を伏せた。もうカトリーナを見ることができなくなってしまった。
カトリーナはそんなエレーヌにさらに冷たい言葉を投げかけてきた。
『本当はブルガンに帰ってほしいものだけど』
言葉が矢となってエレーヌに突き刺さる。
エレーヌから、ゲルハルトと過ごした幸せな時間の余韻が、吹き飛んでいた。エレーヌはうつむいて、呆然と絨毯を眺めた。
涙がこぼれそうになり、目をギュッと閉じる。
(姑とはこんなものかも知れない)
おとぎ話で意地悪な義母も王妃もたくさん読んできた。
そんなエレーヌの肩に、カトリーナは手を置いてきた。
『さっさとゲルハルトの子を身ごもることね。あなたの役目はそれだけです』
(えっ?)
『せいぜい役目を果たしなさい』
エレーヌはカトリーナの一つ一つの言葉に目を見張り、そして、意味を理解しようとした。しかし、すぐには頭は追いつかなかった。
(ゲルハルトさまの子……?)
エレーヌは自分の腹に思わず手をやった。
(カトリーナさまは、私たちが夫婦になったのを知って、ここに来たのだわ)
エレーヌの肩がふるふると震え始めた。
カトリーナはエレーヌの肩を撫でるように触れてきた。その手つきは、冷たい台詞とは裏腹に、優しいものだった。しかし、そのことに気づく余裕はエレーヌにはなかった。
『役目を果たしなさい、エレーヌ』
エレーヌはもう顔を上げることも出来ずに、うつむいて唇をギュッと噛んでいた。
「エレーヌ?」
カトリーナが声をかけてきたがエレーヌはじっと凝り固まって返事ができなかった。
「エレーヌ!」
その強い声にエレーヌは必死で顔を上げた。作り笑いを何とか浮かべた。
「カトリーナさま……」
カトリーナはエレーヌの笑顔にどこかほっとしたような表情を浮かべた。そして、それは優し気な笑みを湛えて、エレーヌを見てきた。
(カトリーナさま……、どうして、そんな優しい顔を向けてくださるの……。ゲルハルトさまと夫婦になったから……? 子のために……?)
エレーヌはひどく惨めな気持ちになりながらも、何とか笑顔を保った。カトリーナが部屋を去るまで、じっとその場に踏ん張って、笑顔を保ち続けた。
去り際に、カトリーナはエレーヌに言葉を残していった。
『ごきげんよう、みすぼらしく貧相な王女、エレーヌ』
その言葉は、エレーヌの心を完全に抉った。
カトリーナが部屋を去り、ドアが閉まったのち、エレーヌはついにガクッと絨毯に片膝をついた。
(みすぼらしく貧相な王女………!)
それはゲルハルトがエレーヌに言った台詞とそっくり同じだった。
エレーヌは絨毯に膝をつき、そのまま崩れ落ちた。
ハンナが駆け寄ってきて、気づかわしげな声をかけてくるも、エレーヌは目から涙がこぼれるのを止められなかった。
(みすぼらしく貧相な王女………! 私は今もまだ、みすぼらしく貧相な王女なんだわ)
ゲルハルトと一緒に過ごすようになって、ゲルハルトのエレーヌを大切に扱う様子に、エレーヌは自信を持ち始めていた。もう誰にも見向きもされない存在ではない、と自分のことを思い始めていた。
しかし、やはり、エレーヌはみすぼらしいままだったのだ。
エレーヌはやっと気づいた。
(私が身代わりの王女だとわかってるんだわ。だから、カトリーナさまは私を嫌ってるんだわ。貴族たちもみんな、それで私を嫌っているんだわ。偽物の王女は、いつまでたってもみすぼらしくて当然のこと………)
エレーヌは打ちのめされていた。
『いくら傲慢とはいえ、王妃に迎えてしまった以上は仕方ないもの』
エレーヌの顔がこわばる。
もうそれは、とげがある程度ではなかった。
(カトリーナさまはやはり私が嫌いなの……?)
エレーヌは涙がにじんでくる目を伏せた。もうカトリーナを見ることができなくなってしまった。
カトリーナはそんなエレーヌにさらに冷たい言葉を投げかけてきた。
『本当はブルガンに帰ってほしいものだけど』
言葉が矢となってエレーヌに突き刺さる。
エレーヌから、ゲルハルトと過ごした幸せな時間の余韻が、吹き飛んでいた。エレーヌはうつむいて、呆然と絨毯を眺めた。
涙がこぼれそうになり、目をギュッと閉じる。
(姑とはこんなものかも知れない)
おとぎ話で意地悪な義母も王妃もたくさん読んできた。
そんなエレーヌの肩に、カトリーナは手を置いてきた。
『さっさとゲルハルトの子を身ごもることね。あなたの役目はそれだけです』
(えっ?)
『せいぜい役目を果たしなさい』
エレーヌはカトリーナの一つ一つの言葉に目を見張り、そして、意味を理解しようとした。しかし、すぐには頭は追いつかなかった。
(ゲルハルトさまの子……?)
エレーヌは自分の腹に思わず手をやった。
(カトリーナさまは、私たちが夫婦になったのを知って、ここに来たのだわ)
エレーヌの肩がふるふると震え始めた。
カトリーナはエレーヌの肩を撫でるように触れてきた。その手つきは、冷たい台詞とは裏腹に、優しいものだった。しかし、そのことに気づく余裕はエレーヌにはなかった。
『役目を果たしなさい、エレーヌ』
エレーヌはもう顔を上げることも出来ずに、うつむいて唇をギュッと噛んでいた。
「エレーヌ?」
カトリーナが声をかけてきたがエレーヌはじっと凝り固まって返事ができなかった。
「エレーヌ!」
その強い声にエレーヌは必死で顔を上げた。作り笑いを何とか浮かべた。
「カトリーナさま……」
カトリーナはエレーヌの笑顔にどこかほっとしたような表情を浮かべた。そして、それは優し気な笑みを湛えて、エレーヌを見てきた。
(カトリーナさま……、どうして、そんな優しい顔を向けてくださるの……。ゲルハルトさまと夫婦になったから……? 子のために……?)
エレーヌはひどく惨めな気持ちになりながらも、何とか笑顔を保った。カトリーナが部屋を去るまで、じっとその場に踏ん張って、笑顔を保ち続けた。
去り際に、カトリーナはエレーヌに言葉を残していった。
『ごきげんよう、みすぼらしく貧相な王女、エレーヌ』
その言葉は、エレーヌの心を完全に抉った。
カトリーナが部屋を去り、ドアが閉まったのち、エレーヌはついにガクッと絨毯に片膝をついた。
(みすぼらしく貧相な王女………!)
それはゲルハルトがエレーヌに言った台詞とそっくり同じだった。
エレーヌは絨毯に膝をつき、そのまま崩れ落ちた。
ハンナが駆け寄ってきて、気づかわしげな声をかけてくるも、エレーヌは目から涙がこぼれるのを止められなかった。
(みすぼらしく貧相な王女………! 私は今もまだ、みすぼらしく貧相な王女なんだわ)
ゲルハルトと一緒に過ごすようになって、ゲルハルトのエレーヌを大切に扱う様子に、エレーヌは自信を持ち始めていた。もう誰にも見向きもされない存在ではない、と自分のことを思い始めていた。
しかし、やはり、エレーヌはみすぼらしいままだったのだ。
エレーヌはやっと気づいた。
(私が身代わりの王女だとわかってるんだわ。だから、カトリーナさまは私を嫌ってるんだわ。貴族たちもみんな、それで私を嫌っているんだわ。偽物の王女は、いつまでたってもみすぼらしくて当然のこと………)
エレーヌは打ちのめされていた。
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