365 / 631
第十部
向井の彼女
しおりを挟む
「そんなの、あの顔だけでも我慢できるじゃん。
おつりがくるよ。
私だったら離さなかったな」
「ふふふ………でも亡くなっちゃったのよね」
彼女はドリンクを手に窓の外を眺めた。
「私、最初はそれすら知らなかったのよ。
彼、友人は和泉さんだけで、
身内もいないじゃない。
その和泉さんともここ数年は、
連絡を取っていなかったらしいの。
それで会社の人が全部やったんですって。
後から私の住所が書かれた手帳を見つけて、
社員の人が連絡くれたけど………
和泉さんも驚いてたし、怒ってた。
こんなことになるなら、一緒にいればよかった」
由姫はそういうと、
涙を流してドリンクに口を付けた。
向井はゆっくり彼女に近づくと、
背後から抱きつき、
耳元で何かを呟いてカフェを出て行った。
由姫は何かを感じたのか、
振り返り辺りを見回す。
「なに? どうかした? 」
連れの女性が声をかけた。
「あ………な、なんでもない。
彼のこと思い出してたからかな。
今そばにいた気がして」
「やだ、向井君の幽霊? 」
「幽霊でもいい………もう一度だけ会いたい………」
彼女はそういうと泣きながら笑った。
安達はその女性を見つめながら、
向井を追ってカフェを出た。
向井はカフェの前のガードパイプに腰かけて、
安達を待っていた。
「安達君を驚かせちゃいましたね」
向井は静かに笑った。
「まさか、こんなところで会うとは思わなかったから、
ビックリしました」
「向井の好きだった人? 綺麗だね。
俺、ドキドキしちゃった」
「そう? 彼女が知ったら喜ぶな」
向井が笑った。
「ねえ、なんでごめんって謝ったの?
向井が死んじゃったから? 」
「………そうだね。このごめんには、
色んな意味があるんだ。
生きているうちに伝えなきゃいけなかったことも。
死んで気づいても遅いんだけどね」
向井はそういうと、
「安達君も生きてたら、好きな人が出来て、
一緒に映画見たり、遊園地に行ったり、
楽しい事が出来たのにね」
と安達を見た。
「えっ? 彼女? 無理だよ~」
安達が真っ赤になって顔を振る姿に、
可愛いな~と向井は笑うと、
「おやつ買って帰ろうか」
と一緒に歩き出した。
安達は彼女の涙を見たので、
向井の今の気持ちをじ~っと見ながら、
一人考えていた。
ごめん………
ごめんの中には、
ありがとうも好きもあるという事を、
向井の顔を見て初めて知った。
「安達君どうしたの? 」
早紀がボ~ッとしている安達に声をかけた。
「なんでもない。これ、美味しいね」
安達はそういうと向井を見て笑った。
――――――――
「おっ、いいもん。食べてるな」
休憩室に入ってきて虎獅狼が言うと、
ぞろぞろと図書室組が入ってきた。
「疲れたでしょう。
おやつに和菓子を買ってきたので、どうぞ。
今お茶淹れますね」
向井と一緒に早紀も、
「手伝う」
と立ち上がった。
おつりがくるよ。
私だったら離さなかったな」
「ふふふ………でも亡くなっちゃったのよね」
彼女はドリンクを手に窓の外を眺めた。
「私、最初はそれすら知らなかったのよ。
彼、友人は和泉さんだけで、
身内もいないじゃない。
その和泉さんともここ数年は、
連絡を取っていなかったらしいの。
それで会社の人が全部やったんですって。
後から私の住所が書かれた手帳を見つけて、
社員の人が連絡くれたけど………
和泉さんも驚いてたし、怒ってた。
こんなことになるなら、一緒にいればよかった」
由姫はそういうと、
涙を流してドリンクに口を付けた。
向井はゆっくり彼女に近づくと、
背後から抱きつき、
耳元で何かを呟いてカフェを出て行った。
由姫は何かを感じたのか、
振り返り辺りを見回す。
「なに? どうかした? 」
連れの女性が声をかけた。
「あ………な、なんでもない。
彼のこと思い出してたからかな。
今そばにいた気がして」
「やだ、向井君の幽霊? 」
「幽霊でもいい………もう一度だけ会いたい………」
彼女はそういうと泣きながら笑った。
安達はその女性を見つめながら、
向井を追ってカフェを出た。
向井はカフェの前のガードパイプに腰かけて、
安達を待っていた。
「安達君を驚かせちゃいましたね」
向井は静かに笑った。
「まさか、こんなところで会うとは思わなかったから、
ビックリしました」
「向井の好きだった人? 綺麗だね。
俺、ドキドキしちゃった」
「そう? 彼女が知ったら喜ぶな」
向井が笑った。
「ねえ、なんでごめんって謝ったの?
向井が死んじゃったから? 」
「………そうだね。このごめんには、
色んな意味があるんだ。
生きているうちに伝えなきゃいけなかったことも。
死んで気づいても遅いんだけどね」
向井はそういうと、
「安達君も生きてたら、好きな人が出来て、
一緒に映画見たり、遊園地に行ったり、
楽しい事が出来たのにね」
と安達を見た。
「えっ? 彼女? 無理だよ~」
安達が真っ赤になって顔を振る姿に、
可愛いな~と向井は笑うと、
「おやつ買って帰ろうか」
と一緒に歩き出した。
安達は彼女の涙を見たので、
向井の今の気持ちをじ~っと見ながら、
一人考えていた。
ごめん………
ごめんの中には、
ありがとうも好きもあるという事を、
向井の顔を見て初めて知った。
「安達君どうしたの? 」
早紀がボ~ッとしている安達に声をかけた。
「なんでもない。これ、美味しいね」
安達はそういうと向井を見て笑った。
――――――――
「おっ、いいもん。食べてるな」
休憩室に入ってきて虎獅狼が言うと、
ぞろぞろと図書室組が入ってきた。
「疲れたでしょう。
おやつに和菓子を買ってきたので、どうぞ。
今お茶淹れますね」
向井と一緒に早紀も、
「手伝う」
と立ち上がった。
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが
空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。
「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!
人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。
魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」
どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。
人生は楽しまないと勿体ない!!
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる