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第七部

恐れる老人

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「あぁ、間違いない。

あの後も何度もニュースで見た」

「生贄って………」

水沢がつぶやく。

「私も知らん」

「このことを何で警察に届けなかったんですか」

水沢の非難するような言葉に、

「あんた、この国の誰が信じられるんですか。

政府の人間ですよ。

あの時も二十人もの重病人が消えたのに、

怪我が回復したから他の場所へ移動したと言われ、

警察が何回も来て、

何か見なかったかとしつこく問いただされ、

最後には災害の後には泥棒が増えるから、

物取りが物色に来たんだろうと、

それで終わりだ」

水沢は青ざめて口を閉じた。

「誰が重病人が寝かされているテントに、

物取りに来るんだ? 

私はあれからいつ殺されるのか、

ずっとおびえていた………

だが、闘わなきゃいけなかったんだ。

一人でも………」

三田の話に水沢は生唾を飲み込んだ。


十九年………いやそろそろ二十年前になるのか…

大沢が神のごとく現れ、

生放送で国民の前で災害を止めた姿を、

今でも忘れない。

あれは確かに神秘の国と呼ばれるに、

ふさわしい出来事だった。

あの大沢の姿はまさに神を思わせる演出だった。

でも、生贄って何? 

この誘拐も生贄………?

生贄って言ったら、神への捧げものでしょ。

まさかいくら何でもこの時代に………

水沢は首を振り、

とらわれている人間を見た。

最初は助けを求めてドアを叩いていたものも、

この状況を理解してからは、

騒ぐことは無くなった。

ここに閉じ込められて二日? 三日? 

子供が二人いるが、

どちらも十二歳くらいの少女。

私と同じ三十代は………サラリーマン風の男性が一人。

あとは殆どが七十代か…? 

ここから脱出するにしても、

走るのは無理だ。

水沢は目を閉じて考え込んだ。



向井達は洋館の中に入り、

地下の部屋の前にいた。

「中には十人。

名前と照らし合わせても間違いないね」

トリアが向井のリングから、

浮かび上がるディスプレイを見ながら言った。

「あとはヴィヴィの出番ですね」

「それと向井君がミヒカから受け取った、

その身守り袋」

向井の言葉にトリアが胸元の巾着を見た。

「本当は記憶は消さないほうがいいんだけど、

こんなつらい記憶は持っていても、

生きる力にならないでしょう」

トリアが言った。

「ただ………一部のフリーランスが、

事件を追っているので、

それはそのまま追わせて、

下界のAIの動きも気になるって冥王がいうのよ」

「仕事が増えるだけなのに。

ということは………

中にいる水沢記者の記憶は残すんですか? 」

向井が驚いてトリアを見る。

「彼女が三田から聞いた話だけね。

三田から聞いたという部分と、

後は消しちゃう。

三田さんが水沢と闘う気力があれば、

自ずと動き出すと思うのよ。

生き地獄を味わった老人を、

無理に引きずりこむのは酷でしょ。

水沢は名物記者だし、

新聞社にまだ籍を置いてるから、

少しの期待ね。

面白い記事が出るかもしれないでしょ」

トリアが笑った。

「ここは佐々木の犯罪の痕跡も残ってますね」

向井はそういいながら、

残留思念を霊玉で消滅させていった。

「魂は再生されても、

苦しい思いは残ってしまうからね。

でも、放っておくと悪霊の餌食になるし、

この家自体は浄化して、結界を張る。

結界が効いている間は霊も人も近づけないから」

トリアがそんな話をしていると、

室内がざわめき始めた。

「冥王の登場かな? 」

トリアが言い、二人は室内に姿を消したまま入っていった。
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