277 / 631
第七部
恐れる老人
しおりを挟む
「あぁ、間違いない。
あの後も何度もニュースで見た」
「生贄って………」
水沢がつぶやく。
「私も知らん」
「このことを何で警察に届けなかったんですか」
水沢の非難するような言葉に、
「あんた、この国の誰が信じられるんですか。
政府の人間ですよ。
あの時も二十人もの重病人が消えたのに、
怪我が回復したから他の場所へ移動したと言われ、
警察が何回も来て、
何か見なかったかとしつこく問いただされ、
最後には災害の後には泥棒が増えるから、
物取りが物色に来たんだろうと、
それで終わりだ」
水沢は青ざめて口を閉じた。
「誰が重病人が寝かされているテントに、
物取りに来るんだ?
私はあれからいつ殺されるのか、
ずっとおびえていた………
だが、闘わなきゃいけなかったんだ。
一人でも………」
三田の話に水沢は生唾を飲み込んだ。
十九年………いやそろそろ二十年前になるのか…
大沢が神のごとく現れ、
生放送で国民の前で災害を止めた姿を、
今でも忘れない。
あれは確かに神秘の国と呼ばれるに、
ふさわしい出来事だった。
あの大沢の姿はまさに神を思わせる演出だった。
でも、生贄って何?
この誘拐も生贄………?
生贄って言ったら、神への捧げものでしょ。
まさかいくら何でもこの時代に………
水沢は首を振り、
とらわれている人間を見た。
最初は助けを求めてドアを叩いていたものも、
この状況を理解してからは、
騒ぐことは無くなった。
ここに閉じ込められて二日? 三日?
子供が二人いるが、
どちらも十二歳くらいの少女。
私と同じ三十代は………サラリーマン風の男性が一人。
あとは殆どが七十代か…?
ここから脱出するにしても、
走るのは無理だ。
水沢は目を閉じて考え込んだ。
向井達は洋館の中に入り、
地下の部屋の前にいた。
「中には十人。
名前と照らし合わせても間違いないね」
トリアが向井のリングから、
浮かび上がるディスプレイを見ながら言った。
「あとはヴィヴィの出番ですね」
「それと向井君がミヒカから受け取った、
その身守り袋」
向井の言葉にトリアが胸元の巾着を見た。
「本当は記憶は消さないほうがいいんだけど、
こんなつらい記憶は持っていても、
生きる力にならないでしょう」
トリアが言った。
「ただ………一部のフリーランスが、
事件を追っているので、
それはそのまま追わせて、
下界のAIの動きも気になるって冥王がいうのよ」
「仕事が増えるだけなのに。
ということは………
中にいる水沢記者の記憶は残すんですか? 」
向井が驚いてトリアを見る。
「彼女が三田から聞いた話だけね。
三田から聞いたという部分と、
後は消しちゃう。
三田さんが水沢と闘う気力があれば、
自ずと動き出すと思うのよ。
生き地獄を味わった老人を、
無理に引きずりこむのは酷でしょ。
水沢は名物記者だし、
新聞社にまだ籍を置いてるから、
少しの期待ね。
面白い記事が出るかもしれないでしょ」
トリアが笑った。
「ここは佐々木の犯罪の痕跡も残ってますね」
向井はそういいながら、
残留思念を霊玉で消滅させていった。
「魂は再生されても、
苦しい思いは残ってしまうからね。
でも、放っておくと悪霊の餌食になるし、
この家自体は浄化して、結界を張る。
結界が効いている間は霊も人も近づけないから」
トリアがそんな話をしていると、
室内がざわめき始めた。
「冥王の登場かな? 」
トリアが言い、二人は室内に姿を消したまま入っていった。
あの後も何度もニュースで見た」
「生贄って………」
水沢がつぶやく。
「私も知らん」
「このことを何で警察に届けなかったんですか」
水沢の非難するような言葉に、
「あんた、この国の誰が信じられるんですか。
政府の人間ですよ。
あの時も二十人もの重病人が消えたのに、
怪我が回復したから他の場所へ移動したと言われ、
警察が何回も来て、
何か見なかったかとしつこく問いただされ、
最後には災害の後には泥棒が増えるから、
物取りが物色に来たんだろうと、
それで終わりだ」
水沢は青ざめて口を閉じた。
「誰が重病人が寝かされているテントに、
物取りに来るんだ?
私はあれからいつ殺されるのか、
ずっとおびえていた………
だが、闘わなきゃいけなかったんだ。
一人でも………」
三田の話に水沢は生唾を飲み込んだ。
十九年………いやそろそろ二十年前になるのか…
大沢が神のごとく現れ、
生放送で国民の前で災害を止めた姿を、
今でも忘れない。
あれは確かに神秘の国と呼ばれるに、
ふさわしい出来事だった。
あの大沢の姿はまさに神を思わせる演出だった。
でも、生贄って何?
この誘拐も生贄………?
生贄って言ったら、神への捧げものでしょ。
まさかいくら何でもこの時代に………
水沢は首を振り、
とらわれている人間を見た。
最初は助けを求めてドアを叩いていたものも、
この状況を理解してからは、
騒ぐことは無くなった。
ここに閉じ込められて二日? 三日?
子供が二人いるが、
どちらも十二歳くらいの少女。
私と同じ三十代は………サラリーマン風の男性が一人。
あとは殆どが七十代か…?
ここから脱出するにしても、
走るのは無理だ。
水沢は目を閉じて考え込んだ。
向井達は洋館の中に入り、
地下の部屋の前にいた。
「中には十人。
名前と照らし合わせても間違いないね」
トリアが向井のリングから、
浮かび上がるディスプレイを見ながら言った。
「あとはヴィヴィの出番ですね」
「それと向井君がミヒカから受け取った、
その身守り袋」
向井の言葉にトリアが胸元の巾着を見た。
「本当は記憶は消さないほうがいいんだけど、
こんなつらい記憶は持っていても、
生きる力にならないでしょう」
トリアが言った。
「ただ………一部のフリーランスが、
事件を追っているので、
それはそのまま追わせて、
下界のAIの動きも気になるって冥王がいうのよ」
「仕事が増えるだけなのに。
ということは………
中にいる水沢記者の記憶は残すんですか? 」
向井が驚いてトリアを見る。
「彼女が三田から聞いた話だけね。
三田から聞いたという部分と、
後は消しちゃう。
三田さんが水沢と闘う気力があれば、
自ずと動き出すと思うのよ。
生き地獄を味わった老人を、
無理に引きずりこむのは酷でしょ。
水沢は名物記者だし、
新聞社にまだ籍を置いてるから、
少しの期待ね。
面白い記事が出るかもしれないでしょ」
トリアが笑った。
「ここは佐々木の犯罪の痕跡も残ってますね」
向井はそういいながら、
残留思念を霊玉で消滅させていった。
「魂は再生されても、
苦しい思いは残ってしまうからね。
でも、放っておくと悪霊の餌食になるし、
この家自体は浄化して、結界を張る。
結界が効いている間は霊も人も近づけないから」
トリアがそんな話をしていると、
室内がざわめき始めた。
「冥王の登場かな? 」
トリアが言い、二人は室内に姿を消したまま入っていった。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
独り日和 ―春夏秋冬―
八雲翔
ライト文芸
主人公は櫻野冬という老女。
彼を取り巻く人と犬と猫の日常を書いたストーリーです。
仕事を探す四十代女性。
子供を一人で育てている未亡人。
元ヤクザ。
冬とひょんなことでの出会いから、
繋がる物語です。
春夏秋冬。
数ヶ月の出会いが一生の家族になる。
そんな冬と彼女を取り巻く人たちを見守ってください。
*この物語はフィクションです。
実在の人物や団体、地名などとは一切関係ありません。
八雲翔
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる