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第六部

鬼の目にも涙

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「………冥王の言葉で分かりました。

もし、その時俺が気づいていたら、

安達君は助けられていたかもしれなかった。

そういう事ですね」

「君が気づいたところで、

反対に二人とも人柱にされていたかもしれません。

健次郎は短絡的殺人者ですよ。

過ぎたことを考えても仕方がありません」

冥王の目が辛そうに歪んだ。

「俺はずっと考えていたんです。

特例の基準を。

冥王は安達君を思い俺達を選んでいますよね」

「………」

向井は黙る冥王に小さく微笑んだ。

「冥王。俺は責めているわけではありません。

安達君にとっていい環境は、

即ち俺達にとってもいい環境なのですから。

俺はここで人として、

やり直せるチャンスをくれた冥王に、

感謝こそすれ、

恨むなんてありません。

反対に俺のことを考えてくださり、

幸せに思っています」

向井はそういって深く頭を下げた。

「………」

冥王が声を詰まらせ涙を流した。

暫く肩を震わせ泣く冥王を、

黙って見ていたが、

ディッセがその空気を破るように口を開いた。

「これぞ鬼の目にも涙? 」

「えっ? 」

全員がディッセを見る。

「せっかくのいい話が台無しじゃない」

シェデムがいい、皆の顔が笑顔になった。


それから少しの間平穏な日々が続き、

向井と真紀子が買い出しから帰ってくると、

冥王が楽しそうにサロンから出てきた。

「なんだかご機嫌ね」

真紀子は手芸品の袋を手に笑って見ていた。

「おお~お二人お揃いでお出かけでしたか? 」

冥王が走って近づいてきた。

「冥王が欲しいって言ったベッドカバーの生地を、

買ってきたんです」

真紀子が言って袋を見せた。

「それはすいません」

「本当ですよ。別に枕とお揃いじゃなくても、

いいじゃないですか」

向井が文句を言うと、

「嫌です。雰囲気が変わってしまうでしょう」

「抑々休憩室のクッションを、

勝手に持っていったのは冥王でしょう」

「…………向井君が作ったわけじゃないでしょ。

真紀子さんお願いしますね」

「ちょっと時間かかりますよ」

真紀子が笑いながら言う。

「いいですいいです。やっぱ、

お気に入りのものに囲まれるって、

気分がいいですからね~」

冥王がにこやかに笑うと、

自分の右手を二人の前で振った。

「ん? 」

見ると、サムリングが嵌められている。

「ああ、インペリアルトパーズの指輪、

作ってもらったんですね」

向井が言った。

「あら、インペなの? 凄い」

真紀子もじっと指輪を見た。

「弥生ちゃんに聞いたら右手の親指は、

リーダーシップだというじゃないですか。

だからサムリングにしました」

「冥王にピッタリ」

真紀子が笑った。
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