220 / 631
第六部
権力は甘い蜜
しおりを挟む
権力に取り憑かれ、
プライドをつぶされることを極端に嫌う大沢は、
いつまでこんなことを繰り返すつもりなのだろう。
向井はこぶしを握ると、
「命ってなんなんでしょうね」
うつむいたままぽつりと言った。
「俺は子供の頃、
命は自然と生まれてくると、
思っていました。
それは赤ん坊が生まれてくる家庭があり、
季節のたびに花が咲き、
道を歩けば鳥や虫もいて、
そんな光景が当たり前のように存在していたので、
命は誰にも平等に訪れるが、
反対に命の大切さや重さの話を、
真剣に考えたことはありませんでした」
冥王たちは黙したまま話を聞いていた。
「十五歳で両親を亡くして、
初めて命は儚くて重いと感じたくらい、
それまでは、
のほほんとした人間だったんです。
命は簡単に生まれないし、
大切なもので大事にしないといけないと、
その時感じました」
向井は一旦口を閉じると考え込み、
再び話し始めた。
「ディッセさんにはお話ししましたけど、
俺を引き取ってくれた伯父夫婦が亡くなった時に、
自分の存在は不幸を呼ぶんじゃないかと、
考えるようになりました。
なので、
あまり人と深くかかわることはせず、
付かず離れずの生活をしてきたんです。
そうしたら、
いつの間にか亡くなってここにいました」
向井はそこで少し笑みを浮かべ、
話を続けた。
「過酷な環境では、
俺と安達君では大きな違いはありますが、
その内にある痛みは似ています。
死んで冥界にきて、俺は人間をやり直しています。
安達君が『ここにいていいのかな』と言った時、
俺も同じことを感じていたので、
冥王が安達君を俺に頼むと言った言葉が、
理解できました」
「向井君………」
冥王が辛そうな顔をした。
「安達君が埋められているのは、
あの団地のどこかなんですね」
向井が聞いた。
「君には少し辛いだろうが、
安達君は二年前の生贄に選出されていました。
ただ、その前に健次郎に殺害され、
そのまま儀式に利用されたんです」
「………ミヒカさんに会った時、
赤姫さんに記憶は消されましたが、
微かですが、
彼女から流れてきた映像を思い出しました。
安達君が殺害された日、
俺は彼が乗せられていた車を見ていました。
そして牧野君も………」
向井はそこで口を閉じてから、
「牧野君が車に轢かれそうになったと言った時、
俺もその時の記憶が甦ってきました」
と言った。
「そのことで向井君達が、
責任を感じることはありませんよ」
冥王が言う。
「君たちは偶々遭遇し、
健次郎は安達君の姿も目にしたと、
思い込んでいたんでしょう。
君達こそ被害者なんですよ。
だから、
そのことで責めを受けることはないんです」
プライドをつぶされることを極端に嫌う大沢は、
いつまでこんなことを繰り返すつもりなのだろう。
向井はこぶしを握ると、
「命ってなんなんでしょうね」
うつむいたままぽつりと言った。
「俺は子供の頃、
命は自然と生まれてくると、
思っていました。
それは赤ん坊が生まれてくる家庭があり、
季節のたびに花が咲き、
道を歩けば鳥や虫もいて、
そんな光景が当たり前のように存在していたので、
命は誰にも平等に訪れるが、
反対に命の大切さや重さの話を、
真剣に考えたことはありませんでした」
冥王たちは黙したまま話を聞いていた。
「十五歳で両親を亡くして、
初めて命は儚くて重いと感じたくらい、
それまでは、
のほほんとした人間だったんです。
命は簡単に生まれないし、
大切なもので大事にしないといけないと、
その時感じました」
向井は一旦口を閉じると考え込み、
再び話し始めた。
「ディッセさんにはお話ししましたけど、
俺を引き取ってくれた伯父夫婦が亡くなった時に、
自分の存在は不幸を呼ぶんじゃないかと、
考えるようになりました。
なので、
あまり人と深くかかわることはせず、
付かず離れずの生活をしてきたんです。
そうしたら、
いつの間にか亡くなってここにいました」
向井はそこで少し笑みを浮かべ、
話を続けた。
「過酷な環境では、
俺と安達君では大きな違いはありますが、
その内にある痛みは似ています。
死んで冥界にきて、俺は人間をやり直しています。
安達君が『ここにいていいのかな』と言った時、
俺も同じことを感じていたので、
冥王が安達君を俺に頼むと言った言葉が、
理解できました」
「向井君………」
冥王が辛そうな顔をした。
「安達君が埋められているのは、
あの団地のどこかなんですね」
向井が聞いた。
「君には少し辛いだろうが、
安達君は二年前の生贄に選出されていました。
ただ、その前に健次郎に殺害され、
そのまま儀式に利用されたんです」
「………ミヒカさんに会った時、
赤姫さんに記憶は消されましたが、
微かですが、
彼女から流れてきた映像を思い出しました。
安達君が殺害された日、
俺は彼が乗せられていた車を見ていました。
そして牧野君も………」
向井はそこで口を閉じてから、
「牧野君が車に轢かれそうになったと言った時、
俺もその時の記憶が甦ってきました」
と言った。
「そのことで向井君達が、
責任を感じることはありませんよ」
冥王が言う。
「君たちは偶々遭遇し、
健次郎は安達君の姿も目にしたと、
思い込んでいたんでしょう。
君達こそ被害者なんですよ。
だから、
そのことで責めを受けることはないんです」
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが
空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。
「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!
人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。
魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」
どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。
人生は楽しまないと勿体ない!!
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる