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第六部

生贄

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「俺もそこまで鈍くないですから、

冥王や特別室での大沢の様子をみても、

もしかしたらという推測はたてられます」

冥王は深いため息をつくと、

向井の顔を見た。

「そこまで分かっているなら、

説明しても大丈夫ですね」

「はい」

冥王は静かに話し始めた。

「まず大沢の祖父が見つけた、

その昔に行われていた儀式の文献から、

この国の転落は始まりました。

古来より人柱の風習が、

神への生贄とされていたことは、

誰もが知っている事実かもしれません。

現在では迷信だと言われていますが、

もしその文献が本当に存在したとしたら、

どうします? 

しかも権力に直結するものだとしたら。

人は試したくなるというものでしょう」

冥王は両手を結ぶと瞳を閉じた。

「大沢は祖父が行った儀式を知り、

そしてその文献に取り憑かれてしまった。

十九年前に起こった大災害の時に、

二十人もの国民を殺害し、

赤姫の守る祠を壊しその下に埋めました」

黙っていた向井の顔が青ざめた。

「それが向井君も知っている神秘の国事件です。

あの時の赤姫の怒りは凄まじく、

安達君の魂の事もあって、

私が地震の神であるないの神に、

無理を言って収めた経緯があるんです」

「つまりそれは、

人柱による鎮護ではないという事ですか? 」

向井が驚きの声を上げた。

「神も昔は贄による願いを聞いていました。

ただ、その願いが度を越したことで、

神の怒りをかい、

贄の献上は要らぬものとなったのです。

あの時私が鎮めさせたことで、

大沢を勢いづかせてしまったのでしょう」

冥王の沈黙に、

その場にいたものも黙り込んだまま動かなかった。

冥王は静かに話し始めた。

「今回ヴィヴィから報告があったのは、

次回の人柱候補が十人であるという事です。

儀式は数ヶ月先を予定しているそうですが、

既にAIにより選定されています。

それが………汚職政治家を含めた十人。

もちろんトップを生贄にはできませんから、

恐らくその下が、

さらに階級制をのぞいて繰り上がる事でしょう」

「だとすると、これから開発されるあの場所で、

十人の人柱をたてて、

今起こっている災害を止めるという事? 」

アートンが聞いた。

「多分そうなると思う。

地方で大きな結界を張れば、

儀式について内部でも、

知られることになるかもしれない。

だって、千人単位の生贄を考えていたわけだから」

トリアの言葉にその場にいたものは、

口を閉じて聞いていた。

「あの開発地域の取り壊しはこれから。

それに合わせて十人の生贄はさらわれて、

中央に拘束され人知れず殺されると思われる。

神の祠は八ヵ所。そこに一体ずつ埋め、

残り二体は団地とその奥にと、考えているはず。

近々何かの理由を付けて、

一時団地から人を追い払うことになると思います。

吉沢の影鰐なので、

部下が足を踏み入れる事には問題ないでしょうから」

長い沈黙が流れた。
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