『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第四部

影鰐

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「ほれ、これをやろう」

見ると小瓶の中で、

小さな黒い影のようなものがうごめいている。

「何ですか? これ」

その影をじっと見ていたトリアとアートンが、

同時に口を開いた。

「影鰐!? 」

「影鰐? ってなんですか? 」

「人の影を食って死をもたらす妖怪よ」

「えっ? 」

向井が赤姫を見た。

「こやつは半分だけじゃが、

特殊災害対策室の吉沢の影じゃ」

向井が驚きの表情のまま、視線を小瓶に移す。

「でも、海じゃないのに何で? 」

トリアが聞くと、

「河伯の奴が影鰐が流れ着いてきたって言ってな。

それで私がわざわざ会いに出向いてやったのよ」

赤姫はそういうと話し出した。


――――――――


「やっと来たか」

「おぬしが私に用があると、妖怪が呼びに来たのでの。

でなければこんなところまで来やせん」

河川エリアに立つ二人の神は、

川を覗いた。

「おぬしが影鰐か」

「赤姫様とお見受けします。ルカにございます」

「海の妖怪が何故にここにいる」

「近頃は海も汚れておりまする。

どこにいても住みにくいのは変わりませぬ。

ならば知り合いの多いこちらにと、

越してまいった次第でございます」

「そうか」

赤姫は表情も変えずに頷いた。

「わしの古くからの知り合いじゃ。

おぬしが見聞きしたこと、

赤姫に教えて差し上げるとよい」

「ん? 」

赤姫の顔が歪んだ。

「実は先程、赤姫様の祠で、

儀式を再開させるという話を耳に致しました」

「!! 」

「十八年前、そして二年前の結界は、

姫様の祠を中心に組まれております。

この中心部は開発が進み、

昔の結界も破壊され、

その資料も人間どもの手元にはない模様。

姫様の祠は中央を飲み込めるほどの力がございます。

ですが、今や不浄の土地の一つ。

更に儀式を行うことになりますれば、

人間だけでなく、

我らの身も危険。

姫様の力で、なにとぞお止め頂きたい」

「………」

赤姫の顔が怒りの表情に変わった。

「人間どもは、

どこまで私を愚弄すれば気が済むのだ!! 

このこと冥王は知っておるのか? 」

「はて、どうであろう。

だが、向井達もこの辺りを調査していたからな。

中断させる算段は付けておるのだろう」

河伯の言葉に赤姫も口を閉じた。


――――――――


「この影は、

その影鰐が吉沢からはがした半面じゃ。

これを持っている限り、

ここに奴が足を踏み入れることは、

ままならぬ。

おぬしらに預ける。好きにせい」

向井は瓶の中身から、赤姫に顔を向けた。

「これって、このままだと吉沢が死ぬんでしょうか」

「死にはせんよ。

影は影。日に当たれば新たな影が生まれる。

だがの。それには妖術がかけられておる。

それがある間は、吉沢はここには近づけん」

赤姫は片笑んだ。

「二年前に冥王には話をしておる。

あやつもバカではない。

何か考えはあるであろう」

「黒谷君は今どこですか? 」

「災害ボランティアで炊き出しに行った。

この付近のキッチンカーは、

みな出払っておるな。

今回は倒壊も少ない。

通勤通学も始まっておるから、

ライフラインも明日には通常に戻るだろうよ」

「そうですか」

向井は安堵した。

「赤姫には世話になったね。有難う」

トリアが言うと、

「なに礼には及ばぬ。

黒谷がいなくなったら、私が弁当にありつけぬ」

赤姫はそういうと笑いながら姿を消した。
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