『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第三部

大沢の右腕

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「何だ」

「事件を起こした場所はこの時間、

普段なら人もいない裏口なんですが、

車に積み込んでいる時に男性に見られています」

「!! 」

「見たと言っても車だけだと思いますが、

この少年がトップクラスの関係者でしたら、

後々問題になるかもしれません。

警察にも緘口令を敷くことになります」

「……全く、なんでこんなことになった。

今が一番大事な時だと言っておいただろう」

大沢はベッドの中で頭を抱えた。

「記者はいないだろうな」

「大丈夫です。

何かあっても口止めはできています。

ビルの裏口は階級制のものも多く出入りされるので、

監視は一部のみで、

ドローンもありませんので、

すべてチェックして消去しました」

「発端は? 」

「少年と健次郎さんの肩が触れて、

手にしていたケーキの箱を落とされたんです。

今日は麻友さんの十二歳のお誕生日で、

特注のケーキだったらしく、

どうしてもご本人が受け取りに行くというものでしたので、

私もおともしてまして、

それでキレて少年を殴ったら運悪く壁に頭をぶつけて」

「そうか、今日は麻友の誕生日か」

大沢は孫の顔を思い浮かべた。

「それだけならよかったんですが」

「どうした」

「健次郎さんがその少年を見て、

そばに来るなとか化け物とか叫びだして、

そのあとは半殺し状態で、

私と近くにいたSPも手が付けられなくて」

「変に霊感があるのも問題だな。

あいつはアンナの血を濃く受け継いでいる。

恐らくその少年は変な霊を付けていたんだろう」

健次郎はアンナ以上に霊感が強い。

と言っても、霊感体質は大したことはないが、

気分にむらがあり、

むしゃくしゃすると、

それを止めることが出来ずに、

暴行事件を起こしてはもみ消しをしてきた。

今度はそれが行き過ぎて殺人になってしまったわけだ。

「健次郎はこの国を担っていかなければならん。

大沢帝国をこんなことで崩すわけにはいかん。

その少年と男の始末は吉沢に任せる。

奴に連絡すれば、

すべて丸く収めてくれるだろう。

お前も吉沢も健次郎に尽くすことが、

自分の身を守ることだと肝に銘じておけ」

「………はい」

本橋の返事に、

「お前には不満もあるんだろうが、

健次郎に何かあれば、

この国は潰れる。いや、私が潰す」

潰す? 

本橋は電話口で眉間にしわを寄せた。

「本橋……

お前とお前の家族が一生海外で暮らすというなら、

何をしても構わんよ」

それだけ言って電話は切れた。

十七年ほど前のあの出来事に、

大沢はどんなマジックを使ったのか、

人柱など知る由もない本橋は、

黙ったままスマートゴーグルを握りしめた。


――――――――


健次郎の車が走り去るのを見て、

トリアがいつになく難しい顔つきになった。

「ねえ、今あの男、

こっち見て驚いてたよね。何で? 」

「あの男って、大沢健次郎? 」

黒谷が言うと、

「大沢の息子か……」

向井は少し考えこむと、

「俺は姿を消していなかったので、

恐らく俺の姿を認識できたってことでしょうね。

霊光アンナの甥ですし、

シールドが効かないという事は、

多少霊感もあるんでしょう。

黒谷君に驚くことはないでしょうからね」

「どこかで会ったことあるの? 」

トリアが聞いた。


向井は自分の死に至る事柄を忘れている。

無関係の被害者でありながら、

安達事件にかかわってしまった事実。

冥王の言葉をトリアは思い出していた。

【あの出来事が、

安達君の殺害に関係していると知ったら、

きっと彼らは自分を責めるでしょう】


静思する向井は口を開いた。

「副大臣ですよ。接点なんかありませんよ。

だから、考えているんですけど……

う~ん、思い出せません」

「あんな男を私に献上しようとしたのじゃぞ。

はあ、冗談じゃない」

「献上? 」

赤姫の怒りに向井と黒谷が聞き返したので、

「ああ、何でもない何でもない」

トリアはそういうと赤姫を宥めた。

「あれじゃなくてよかったでしょ」

「あれは嫌じゃ。だが、他も嫌じゃ」

「まあまあ」

二人のやり取りを聞きながら、

向井と黒谷は首を傾げた。
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