『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第三部

密談

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一時間前。

執務室で赤姫はソファーに座ると、

ふんぞり返るように冥王を見た。

「儀式の事でしたら、私の責任ではありませんよ。

少しお邪魔はさせていただきましたが」

「それくらい……私だって分かっておる。

私が怒っておるのは、

奴らが甘く見ていることだ。

AIだか何だかわからんが、

最高の贄だと言いつつ、

ロクでもないムクロを押し付ける。

そのおかげで見ろ。

私はどんどん年を取る」

「贄も人なんですよ。

生きているんです」

「それが私に何の関係がある。

ギブアンドテイク。

人間どもはそういうんだろう? 」

「その姿が気に入らないなら、

私が若返らせてあげますよ」

冥王はそういうと、赤姫を元の美しい姿へと戻した。

「まあ、今はこれで許してやる。

だが、これ以上神を冒涜する行為を続けるなら、

この国を地獄に落とすと申しておけ」

赤姫は冥王に怒りをぶつけた。

この国の中央に全てが集中していることもあり、

東西南北にある結界は、

中央のみ穢れが進み、

そこから災害の波が全国へと浸透していた。

「年寄りの骸は私の栄養にはならん。

穢れのない贄でなければならんとは言わん。

だが、神は新鮮な血を好むんだよ。

ジジイ、ババアの血肉では若返られん」

「千年も生きたのなら、

もういいでしょう」

「何を言うか。私は神だぞ」

赤姫は怒って冥王を睨んだ。

「赤姫には生贄など必要ないでしょう」

冥王がため息まじりに言うと、

「抑々、私は贄をくれとは一言もいっておらん。

人間が勝手に願い、置いて行ったものを頂き、

その代価として奴らの願いを少しだけ聞いてやった。

そしたら見てみろ」

赤姫は鼻で笑った。

「あれをしろ。これをしろ。

何で己が欲望の為に、私が加担してやらねばならん。

しかも人工知能? あれは侮れん」

赤姫はいったん口を閉じると、

考えるように話し始めた。

「私にとってお荷物な贄ばかりよこしてくる。

今回などあの大沢の息子を選びよった。

更に、あんな恐ろしい魂のガキを、

私に押し付けようとするなど……

神は廃棄物処理所ではないぞ」

その話に冥王が声を上げて笑った。

「笑い事ではない。

AIどもは自分らに邪魔な人間を選び、

人間どもは年寄りを贄に送ってよこす。

これほど馬鹿にされて、

何故願いをかなえてやらねばならん。

そうであろう? 」

「人間がおろかな生き物なのは知ってるでしょう。

でもだからこそ、愛おしいとも言えます」

「そなたは人間が好きだからいい。

私にはどうでもいい存在だ」

「そうとも言えないでしょう? 

あなたの為に祭りを開き、

あなたの好きな新鮮な果物や穀物を供え、

賑やかに祝ってくれているではないですか。

楽しそうにお祭りを見ている赤姫を、

私は知っています」

「ば、馬鹿を言うでない」

赤姫は顔を赤くして、横を向いた。

「そういう人間の為にも、

親しみやすい神でいるのも、

地主神の務めだと思いますが」

「ふん。今回も、

第五候補の中にはこの国のトップの名もあった。

大沢が自分の息子を贄にしたなら、

そいつが自ら贄になったのなら、

私も考えてやらんこともなかったが、

今度という今度は我慢ならん。

いくら贄をよこそうと、

こんなものでは長い結界は無理だな。

私も助けはしない。

ないの神も今回は助けはしないだろう。

お前にはそのことを言いに、わざわざ来てやった」

地震の神であるないの神は、

大災害の際の儀式に怒りを感じながらも、

冥王の頼みもあり、災害を収めた経緯がある。

「それはすいませんでした」

「……せっかく来てやったのに、セーズもティンもおらん」

「赤姫のお気に入りですからね」

冥王が苦笑した。

「私はいい男の生気をすうと力が湧くんだ」

「おかげで赤姫を担当させた死神は短命ですよ」

「所詮死神だろう」

「所詮ではありませんよ。

私にとっては可愛い子です。

トリアはあなたに生気を取られても元気なので、

彼女を担当させましょう」

「あの生意気な女は嫌じゃ」

「でも、赤姫は生き生きされてますよ。

トリアの力があなたの中に取り込まれて、

若返ってます」

「そ、そんな世辞をいっても結界の事は変わらんぞ」

「分かってますよ。

いずれ儀式は中止させようと思っていますから、

そうしたら残りの結界が崩されないよう、

冥界でチェックさせていただきます。

あなた以外の地域神は、

自分で選べない贄は邪魔でしかないそうですから、

人間には期待しないと言っていました。

ただし、あなたと同じでお祭りのお供えがあれば、

それが一番嬉しいそうです」

「欲のない。だから下界の神は馬鹿にされるんだ」

「誰もバカになどしていません。

少なくとも冥界うちのものは、

あなたに敬意を払っていると思いますよ」

その言葉に赤姫はふと先程の事を思い返し、

冥王を見た。

「そういえば……さっき私をババア呼ばわりしたガキがいた。

あいつが新しい特例か? 」

「牧野君ですか。面白い子でしょ」

「面白い? あいつは言葉を知らん。

他の神に会わぬことを願ってやる。

代わりに私の担当にあのイケメンを置け」

「新田君ですか……彼はダメですよ」

「なぜだ。特例は生気を取られても問題ないだろう」

「そうなんですけどね。彼は下界では有名人なので」

「だったら他のイケメンを差し出せ。

そしたらトリアとのコンビを許してやろう」

「う~~~~ん…仕方がない、

特例のイケメンホープを担当にしましょう。

彼は派遣課なので下界にいることも多いですからね」

「新田と同じくらいいい男か? 」

「いい男ですよ」

「……ふむ。では、それで手を打とう」

こうして向井が知らぬうちに、

冥王と赤姫の密談は終わった。
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