98 / 631
第三部
密談
しおりを挟む
一時間前。
執務室で赤姫はソファーに座ると、
ふんぞり返るように冥王を見た。
「儀式の事でしたら、私の責任ではありませんよ。
少しお邪魔はさせていただきましたが」
「それくらい……私だって分かっておる。
私が怒っておるのは、
奴らが甘く見ていることだ。
AIだか何だかわからんが、
最高の贄だと言いつつ、
ロクでもない骸を押し付ける。
そのおかげで見ろ。
私はどんどん年を取る」
「贄も人なんですよ。
生きているんです」
「それが私に何の関係がある。
ギブアンドテイク。
人間どもはそういうんだろう? 」
「その姿が気に入らないなら、
私が若返らせてあげますよ」
冥王はそういうと、赤姫を元の美しい姿へと戻した。
「まあ、今はこれで許してやる。
だが、これ以上神を冒涜する行為を続けるなら、
この国を地獄に落とすと申しておけ」
赤姫は冥王に怒りをぶつけた。
この国の中央に全てが集中していることもあり、
東西南北にある結界は、
中央のみ穢れが進み、
そこから災害の波が全国へと浸透していた。
「年寄りの骸は私の栄養にはならん。
穢れのない贄でなければならんとは言わん。
だが、神は新鮮な血を好むんだよ。
ジジイ、ババアの血肉では若返られん」
「千年も生きたのなら、
もういいでしょう」
「何を言うか。私は神だぞ」
赤姫は怒って冥王を睨んだ。
「赤姫には生贄など必要ないでしょう」
冥王がため息まじりに言うと、
「抑々、私は贄をくれとは一言もいっておらん。
人間が勝手に願い、置いて行ったものを頂き、
その代価として奴らの願いを少しだけ聞いてやった。
そしたら見てみろ」
赤姫は鼻で笑った。
「あれをしろ。これをしろ。
何で己が欲望の為に、私が加担してやらねばならん。
しかも人工知能? あれは侮れん」
赤姫はいったん口を閉じると、
考えるように話し始めた。
「私にとってお荷物な贄ばかりよこしてくる。
今回などあの大沢の息子を選びよった。
更に、あんな恐ろしい魂のガキを、
私に押し付けようとするなど……
神は廃棄物処理所ではないぞ」
その話に冥王が声を上げて笑った。
「笑い事ではない。
AIどもは自分らに邪魔な人間を選び、
人間どもは年寄りを贄に送ってよこす。
これほど馬鹿にされて、
何故願いをかなえてやらねばならん。
そうであろう? 」
「人間がおろかな生き物なのは知ってるでしょう。
でもだからこそ、愛おしいとも言えます」
「そなたは人間が好きだからいい。
私にはどうでもいい存在だ」
「そうとも言えないでしょう?
あなたの為に祭りを開き、
あなたの好きな新鮮な果物や穀物を供え、
賑やかに祝ってくれているではないですか。
楽しそうにお祭りを見ている赤姫を、
私は知っています」
「ば、馬鹿を言うでない」
赤姫は顔を赤くして、横を向いた。
「そういう人間の為にも、
親しみやすい神でいるのも、
地主神の務めだと思いますが」
「ふん。今回も、
第五候補の中にはこの国のトップの名もあった。
大沢が自分の息子を贄にしたなら、
そいつが自ら贄になったのなら、
私も考えてやらんこともなかったが、
今度という今度は我慢ならん。
いくら贄をよこそうと、
こんなものでは長い結界は無理だな。
私も助けはしない。
ないの神も今回は助けはしないだろう。
お前にはそのことを言いに、わざわざ来てやった」
地震の神であるないの神は、
大災害の際の儀式に怒りを感じながらも、
冥王の頼みもあり、災害を収めた経緯がある。
「それはすいませんでした」
「……せっかく来てやったのに、セーズもティンもおらん」
「赤姫のお気に入りですからね」
冥王が苦笑した。
「私はいい男の生気をすうと力が湧くんだ」
「おかげで赤姫を担当させた死神は短命ですよ」
「所詮死神だろう」
「所詮ではありませんよ。
私にとっては可愛い子です。
トリアはあなたに生気を取られても元気なので、
彼女を担当させましょう」
「あの生意気な女は嫌じゃ」
「でも、赤姫は生き生きされてますよ。
トリアの力があなたの中に取り込まれて、
若返ってます」
「そ、そんな世辞をいっても結界の事は変わらんぞ」
「分かってますよ。
いずれ儀式は中止させようと思っていますから、
そうしたら残りの結界が崩されないよう、
冥界でチェックさせていただきます。
あなた以外の地域神は、
自分で選べない贄は邪魔でしかないそうですから、
人間には期待しないと言っていました。
ただし、あなたと同じでお祭りのお供えがあれば、
それが一番嬉しいそうです」
「欲のない。だから下界の神は馬鹿にされるんだ」
「誰もバカになどしていません。
少なくとも冥界のものは、
あなたに敬意を払っていると思いますよ」
その言葉に赤姫はふと先程の事を思い返し、
冥王を見た。
「そういえば……さっき私をババア呼ばわりしたガキがいた。
あいつが新しい特例か? 」
「牧野君ですか。面白い子でしょ」
「面白い? あいつは言葉を知らん。
他の神に会わぬことを願ってやる。
代わりに私の担当にあのイケメンを置け」
「新田君ですか……彼はダメですよ」
「なぜだ。特例は生気を取られても問題ないだろう」
「そうなんですけどね。彼は下界では有名人なので」
「だったら他のイケメンを差し出せ。
そしたらトリアとのコンビを許してやろう」
「う~~~~ん…仕方がない、
特例のイケメンホープを担当にしましょう。
彼は派遣課なので下界にいることも多いですからね」
「新田と同じくらいいい男か? 」
「いい男ですよ」
「……ふむ。では、それで手を打とう」
こうして向井が知らぬうちに、
冥王と赤姫の密談は終わった。
執務室で赤姫はソファーに座ると、
ふんぞり返るように冥王を見た。
「儀式の事でしたら、私の責任ではありませんよ。
少しお邪魔はさせていただきましたが」
「それくらい……私だって分かっておる。
私が怒っておるのは、
奴らが甘く見ていることだ。
AIだか何だかわからんが、
最高の贄だと言いつつ、
ロクでもない骸を押し付ける。
そのおかげで見ろ。
私はどんどん年を取る」
「贄も人なんですよ。
生きているんです」
「それが私に何の関係がある。
ギブアンドテイク。
人間どもはそういうんだろう? 」
「その姿が気に入らないなら、
私が若返らせてあげますよ」
冥王はそういうと、赤姫を元の美しい姿へと戻した。
「まあ、今はこれで許してやる。
だが、これ以上神を冒涜する行為を続けるなら、
この国を地獄に落とすと申しておけ」
赤姫は冥王に怒りをぶつけた。
この国の中央に全てが集中していることもあり、
東西南北にある結界は、
中央のみ穢れが進み、
そこから災害の波が全国へと浸透していた。
「年寄りの骸は私の栄養にはならん。
穢れのない贄でなければならんとは言わん。
だが、神は新鮮な血を好むんだよ。
ジジイ、ババアの血肉では若返られん」
「千年も生きたのなら、
もういいでしょう」
「何を言うか。私は神だぞ」
赤姫は怒って冥王を睨んだ。
「赤姫には生贄など必要ないでしょう」
冥王がため息まじりに言うと、
「抑々、私は贄をくれとは一言もいっておらん。
人間が勝手に願い、置いて行ったものを頂き、
その代価として奴らの願いを少しだけ聞いてやった。
そしたら見てみろ」
赤姫は鼻で笑った。
「あれをしろ。これをしろ。
何で己が欲望の為に、私が加担してやらねばならん。
しかも人工知能? あれは侮れん」
赤姫はいったん口を閉じると、
考えるように話し始めた。
「私にとってお荷物な贄ばかりよこしてくる。
今回などあの大沢の息子を選びよった。
更に、あんな恐ろしい魂のガキを、
私に押し付けようとするなど……
神は廃棄物処理所ではないぞ」
その話に冥王が声を上げて笑った。
「笑い事ではない。
AIどもは自分らに邪魔な人間を選び、
人間どもは年寄りを贄に送ってよこす。
これほど馬鹿にされて、
何故願いをかなえてやらねばならん。
そうであろう? 」
「人間がおろかな生き物なのは知ってるでしょう。
でもだからこそ、愛おしいとも言えます」
「そなたは人間が好きだからいい。
私にはどうでもいい存在だ」
「そうとも言えないでしょう?
あなたの為に祭りを開き、
あなたの好きな新鮮な果物や穀物を供え、
賑やかに祝ってくれているではないですか。
楽しそうにお祭りを見ている赤姫を、
私は知っています」
「ば、馬鹿を言うでない」
赤姫は顔を赤くして、横を向いた。
「そういう人間の為にも、
親しみやすい神でいるのも、
地主神の務めだと思いますが」
「ふん。今回も、
第五候補の中にはこの国のトップの名もあった。
大沢が自分の息子を贄にしたなら、
そいつが自ら贄になったのなら、
私も考えてやらんこともなかったが、
今度という今度は我慢ならん。
いくら贄をよこそうと、
こんなものでは長い結界は無理だな。
私も助けはしない。
ないの神も今回は助けはしないだろう。
お前にはそのことを言いに、わざわざ来てやった」
地震の神であるないの神は、
大災害の際の儀式に怒りを感じながらも、
冥王の頼みもあり、災害を収めた経緯がある。
「それはすいませんでした」
「……せっかく来てやったのに、セーズもティンもおらん」
「赤姫のお気に入りですからね」
冥王が苦笑した。
「私はいい男の生気をすうと力が湧くんだ」
「おかげで赤姫を担当させた死神は短命ですよ」
「所詮死神だろう」
「所詮ではありませんよ。
私にとっては可愛い子です。
トリアはあなたに生気を取られても元気なので、
彼女を担当させましょう」
「あの生意気な女は嫌じゃ」
「でも、赤姫は生き生きされてますよ。
トリアの力があなたの中に取り込まれて、
若返ってます」
「そ、そんな世辞をいっても結界の事は変わらんぞ」
「分かってますよ。
いずれ儀式は中止させようと思っていますから、
そうしたら残りの結界が崩されないよう、
冥界でチェックさせていただきます。
あなた以外の地域神は、
自分で選べない贄は邪魔でしかないそうですから、
人間には期待しないと言っていました。
ただし、あなたと同じでお祭りのお供えがあれば、
それが一番嬉しいそうです」
「欲のない。だから下界の神は馬鹿にされるんだ」
「誰もバカになどしていません。
少なくとも冥界のものは、
あなたに敬意を払っていると思いますよ」
その言葉に赤姫はふと先程の事を思い返し、
冥王を見た。
「そういえば……さっき私をババア呼ばわりしたガキがいた。
あいつが新しい特例か? 」
「牧野君ですか。面白い子でしょ」
「面白い? あいつは言葉を知らん。
他の神に会わぬことを願ってやる。
代わりに私の担当にあのイケメンを置け」
「新田君ですか……彼はダメですよ」
「なぜだ。特例は生気を取られても問題ないだろう」
「そうなんですけどね。彼は下界では有名人なので」
「だったら他のイケメンを差し出せ。
そしたらトリアとのコンビを許してやろう」
「う~~~~ん…仕方がない、
特例のイケメンホープを担当にしましょう。
彼は派遣課なので下界にいることも多いですからね」
「新田と同じくらいいい男か? 」
「いい男ですよ」
「……ふむ。では、それで手を打とう」
こうして向井が知らぬうちに、
冥王と赤姫の密談は終わった。
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
遥かなる物語
うなぎ太郎
ファンタジー
スラーレン帝国の首都、エラルトはこの世界最大の都市。この街に貴族の令息や令嬢達が通う学園、スラーレン中央学園があった。
この学園にある一人の男子生徒がいた。彼の名は、シャルル・ベルタン。ノア・ベルタン伯爵の息子だ。
彼と友人達はこの学園で、様々なことを学び、成長していく。
だが彼が帝国の歴史を変える英雄になろうとは、誰も想像もしていなかったのであった…彼は日々動き続ける世界で何を失い、何を手に入れるのか?
ーーーーーーーー
序盤はほのぼのとした学園小説にしようと思います。中盤以降は戦闘や魔法、政争がメインで異世界ファンタジー的要素も強いです。
※作者独自の世界観です。
※甘々ご都合主義では無いですが、一応ハッピーエンドです。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる