『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第三部

特例新田誕生

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次の日―――

狭間がやってくると、

「向井君はこのまま一度、

冥王にお会いください。

案内はアートンがするので、

そこでお話があります。

牧野君と新田君はこっちへ」

向井は部屋を出たところで、

アートンに連れられ、

冥王の待つ執務室へと向かった。

部屋に入ると、

そこにはもう一人六十代位の男性がいた。

細身でピシッとスーツを着た執事のような印象だ。

「向井さんを連れてきました」

アートンはそれだけ言うと頭を下げ、

部屋を出て行った。

「君が向井君? 」

これが冥王?

想像と随分感じが違う?

向井は手招きする冥王の近くに歩いて行った。

「いい男だね~

今年は新田君といい豊作の年だな」

冥王が笑った。

えっ?

向井が戸惑っていると、

「冥王。彼、困ってますよ」

横の男性が助け舟を出した。

「初めまして。私は高田と言います。

君が来たことでやっと再生できて、ホッとしました」

「高田君の任務終了に伴い、

新しい派遣課調査員を待ってたんですよ。

タイミングよく君が来てくれて助かりました」

冥王はそういうと椅子から立ち上がり、

向井の手を握った。

「とりあえず高田君から話を聞いて、

引継ぎが済んだら、

詳しい話はそのあとします」

「じゃあ、向井君、こちらで話しましょう」

高田はそういうと、

「奥の部屋をお借りしますよ」

と冥王に言い、向井を連れて行った。


――――――――


冥王室は書庫と小さな応接室があり、

寝室は部屋を出た隣にあった。

高田は応接室のドアを開けると、

向井を入れた。

中にはローテーブルとソファーが置かれていた。

「どうぞ。腰を下ろしてください」

高田も真向かいでソファーに座ると、

タブレットを開いた。

「これはこのまま君に引き継いでいただきます。

この中に派遣霊とその記録が入っています。

仕事の内容は聞いていますか? 」

画面を見せながら話し始めた。

「はい。室長から大まかな説明は受けました。

死後の世界がこんな風になっているとは知らず、

ちょっと驚きましたけど」

「ははは。そうですよね。

私もビックリです」

二人は顔を見合わせ笑った。

「派遣課は特別室も担当するので、

そちらの方が大変かもしれません」

「特別室…ですか? 」

向井が怪訝そうに聞く。

「はい。詳しいことは冥王から説明があると思いますが、

特別室は少し、

神経をすり減らすことになるかもしれませんので、

覚悟しておいてください」

「はあ」

向井は首をかしげて返事をした。

「それとこれもお話しておいた方がいいかな? 」

高田は少しの沈黙のあと口を開いた。

「実は下界に、

黒谷という男性がいるんですが、

彼はちょっと普通と違う霊感の持ち主なので、

気に留める程度に覚えておいてください」

「霊感があるというのは、

姿を消しても、

俺達が見えるという事ですか? 」

「ん~そういうことかな。

消去が不十分で生まれ変わっていたので、

何度か消去を繰り返してみたんだけど、

彼は特殊でね。

消去しきれないので、

冥王にも報告はしてあるんですけど、

別段問題もないので、

監視対象としています。

多分私が再生されたと知ったら、

君に接触してくると思うから、

普通に相手をしていれば大丈夫です」

「どんな人ですか? 」

「国の移民対策でリストラになって、

仕事にあふれて、

その日暮らしをしている元自動車整備士です。

今三十一、二歳? だったかな。

短期バイトで築年数の古い団地に住んでいます。

ネットでも稼いでいるから、

何とか生活できている感じですね。

物にこだわらない面白い子ですよ」

「面白い子って、三十代ですよね」

「あはははは。子じゃないよね~

私はアラカンの六十二歳……

あっ、でもこの仕事も十五年だから、

生きていたら七十七歳。喜寿ですよ。

時間はあっという間ですね。

まあ、だから三十代なんて、

私からしたらまだまだひよっこって事ですかね」

高田が声を出して笑った。

「私はね。

多分、次が最後の再生だと思うんです」

「えっ? 」

向井が驚いて聞き返すと、

「魂というのにも寿命があってね。

古くなると再生できないので処分されるんです」

高田の話に言葉がでなかった。

「驚きますよね。

なので、冥王にも、

このままここにいてもいいと言われたんですけど、

この魂が生きられる最後のチャンスなら、

成仏して生まれ変わろうかなと思ったんです」

高田は優しく笑った。

彼の話す姿を見て、

向井は初対面なのに寂しさを感じた。

「あなたと仕事がしたかったです」

向井の言葉に、

「有難う」

高田は笑顔で言うと、

今抱えている案件の説明を始めた。

その後、

二人は応接室を出ると、

「お世話になりました」

「高田君も長い事ご苦労様でした」

冥王は相手を労うようにいい、

高田は部屋を後にした。

「さて、向井君には特別室の説明をするので、

そこに座ってください。

それともう一人の特例、

安達君についても君にだけ少し補足します」

冥王はそれだけ言うと、

静かに話し出した。
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