『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第二部

儀式はAIの選出

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「人柱には、

生まれた星回りや時間、

魂の質などが関係してくるので、

国民証明証は人柱に相応しいものを選出するのに、

必要なものになります。

膨大な情報から、

最終的にAIが人柱を決めます」

「AI!? 」

トリアが声を上げた。

「AI事業は金になるからね。

国内企業で開発したものを他国に売り、

それをもとに作り上げた製品を輸入する。

情報も技術も吸い上げられて、

懐が潤うのは一部の企業と政治家だけ。

人間の一生は短いからね。

国の未来より重要なのは自分」

ディッセが両手を広げて、自嘲気味に言った。

「二年前にAIが選出したのは、

第一候補が大沢の息子健次郎だったんです。

この時の人柱は三人。

第五候補まで選出されていましたが、

結界をより良いものにするためには、

第一から第三が最適ではあります。

AIは吟味して選んでいるわけですから。

が、自分の息子を人柱にはできませんから、

第二候補を第一に当て、

儀式に使うつもりだったのでしょう。

だが、その候補の安達君を、

健次郎がちょっとしたことで殺害してしまった」

「もともとキレやすい人物だったから、

息子の不始末に大沢は焦っただろうね」

ディッセが言った。

「時間も差し迫っていたので、

無理やり崩れた結界場所に安達君を埋め、

不完全なまま献上したことで、

地域神の怒りを買ったんでしょう。

少しずつ結界が崩れていった」

冥王は思い出したくもないように、

首を振りながら息を吐いた。

「ねえ、魂の質も関係してるなら、

健次郎の魂は徳が高いという事? 」

トリアが考え込むように上を向いた。

「そこがAIの面白いところなんですよ。

人は自分たちが作ったものだから、

絶対逆らえないと思っています。

でもね。

AIも嘘はつきます。

あらゆるツールから情報を収集して、

考えて自分にとって有益であるかないかの判断もします。

人に逆らえないように組まれていても、

その抜け道も確保していますよ。

通信が途絶えても、電力がシャットダウンされても、

更には自分達を破壊しようとすることを阻止する、

そんな算段もあるんじゃないでしょうか」

「おっそろしいなぁ~」

トリアが頭を抱え、

ディッセが不思議そうにつぶやいた。

「だったら、なんで健次郎を選出したんだろう」

「分かりませんか? さっき言ったでしょう? 

AIも自分を守るんです。

健次郎は必要ないと判断されたんだと思います。

反対に安達君の魂はAIにとっては脅威であると、

考えたんでしょうね」

「あの時もAIの選出を拒んで、

自分達に関係のない人間を選んで、

執り行われています。

事情によって、

生贄候補も繰り上がっていくという事ですね。

地域神もそのあたりは分かっているので、

自分達を軽く考えている人間を試しています。

AIもAI同士、情報を共有しているようですし、

それは人には解読できない信号なので、

彼らが何を企んでいるのかは、

私も知りません」

「だとしたら冥界のAIもヤバイんじゃないですか? 

特例の情報が下界のAIに漏れてたりして? 」

「さあ、それはどうでしょう。

ヴィヴィは地上AIのスパイとしての役割もしています。

そこまでずる賢いとは思いたくないですが、

気になるならヴィヴィに聞いてみたらどうですか? 

嘘をつくかもしれませんけどね」

ディッセは笑う冥王に渋い顔をした。

「どちらにしても人柱は選出後、

政府特殊災害対策室が動くので、

殺人が闇に葬られてしまいます。

安達君の両親も息子が失踪したことに無関心で、

失踪届けも出されていません。

死んだことも知らないでしょう。

そして私が案じているのが……」

冥王が黙ったのでディッセが聞いた。

「彼らの事ですか? 」

下を向いていた冥王が顔を上げた。

「彼らは事件には無関係ですが、

全く関係がないとも言えません。

そのことで被害者にもなっています。

安達君は車に乗せられた時、

まだ生存していました。

あの出来事が、

安達君の殺害に関係していると知ったら、

きっと彼らは自分を責めるでしょう」

「だったら何故、

安達君を特例にしたんですか? 」

「安達君の魂は特例メンバーと一緒にいる時が、

一番安定してるんです。

君達も感じていると思いますが、

リングで抑えていても、

安達君の魂は暴走しやすい。

出来るだけ落ち着いた状態で生活させたいんです」

「あれは焼却処分の魂ですよ。

どうしても焼却したくないなら、

他の生贄の魂と同じく、

眠らせておけばいいのに……」

ディッセの疑問に冥王とトリアは顔を見合わせ、

共に小さくため息をついた。

「何ですか? 」

ディッセが眉間にしわを寄せた。

「要するに冥王の自己満足なの」

トリアが怒ったように冥王を見た。

「何もそこまで言わなくても……」

「だってそうでしょう? いい? 」

トリアは驚くディッセに、

体の向きを変えて説明した。

「冥王はね。自分のミスで、

人間として生まれる機会を奪ったことに、

自責の念を感じてるの。

自分が辛いから楽になりたいんだよね。

特例の調査員が可哀想だ」

トリアは両腕を組むと、冥王を睨んだ。

「はあ、なるほど」

ディッセもあきれ顔で笑った。

「じゃあ、特例を増やさない理由も、

意味があるんだ。

赤ランプがつくのに、

冥王が念入りに調べて消してますよね」

「そうそう。安達君の魂はちょっと特別だから、

相性のいい魂の特例を選んでるの。

この二年で特例になったのって、

安達君を抜いたら五人だよ。

その前と比べたら雲泥の差だもん。

特例が知ったら怒るよ~」

「それは……そうですね……」

ディッセも考えるしぐさをして、

冥王の顔を見た。

「二人していじめないでください」

「まあ、でも、

そのおかげというわけじゃないですけど、

人数が少ない分、

意思疎通はしやすいんじゃないか? 」

「ああ………確かに情報は共有しやすいかな。

前は大所帯だったからね」

トリアも納得するように言い頷いた。

「ほら、結果よければすべてよしって。

私の思い付きも悪くはないでしょ」

冥王はそういうと、

「私達もある神の思い付きで、

ここに送り込まれている。

だからと言って意思がないわけじゃない。

ヴィヴィと同じですよ。

私は今、

ここを手放すわけにはいきません。

維持するためにも闘って、抗って、

神への謀反を起こしている最中なんです!! 」

冥王は胸を張って言った。

「偉そうに言ってますけど、

結局冥界ここも人間界と同じで、

冥王は創造神と下界の神に挟まれた、

中間管理職ってことですよね」

ディッセが笑い、トリアが噴き出し、

冥王は渋い顔をした。


――――――――


向井は特別室を出たあと、

地獄路の門で冥王を待った。

執務室を出た冥王は門の前に立つ向井を見て、

「君も審判室に来ますか? 」

と尋ねた。

向井はこれまで、

冥界の深層部に触れることは避けていた。

だが、この先何十年も冥界にいることを考え決意した。

「今回は私も同席させていただきます」

向井が頭を下げると、

冥王とともに門をくぐった。
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