『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第一部

優香登場

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廊下の騒ぎがおさまるのと同時に、

工房から妖鬼と花村が、

何やら楽しそうに話しながら出てきた。

「じゃあ、下絵が出来たら作業を始めるから」

「俺の腕も役立ちそうで嬉しいよ」

妖鬼が手を振り去っていくと、

花村がサロンに戻ってきた。

「随分楽しそうだったけど、工房はどうでした? 」

向井が花村に声をかけた。

「妖鬼君のおかげで、

私の思う通りの作業場になって助かったよ。

彼、宮大工としての腕も立派だよね。

関所にある深彫りの装飾は、

妖鬼君の作品なんだってね」

花村が驚いたように話した。

「ああ、そういえば、

図書室にある和室の透かし深彫りも、

妖鬼さんが仕上げたって言ってました」

花村が納得するように頷いた。

「さっき工房に冥王が来てね。

私と妖鬼君に自分の思いをたっぷり話されて、

おかげで冥王が描くイメージも分かったよ」

「全く、あの人は…………

冥王のものは後回しだって言ったんですけどね」

「いやいや、

それが彼の話を聞いたら、

私も妖鬼君も楽しくなっちゃってね。

メインは龍で衝立がいいそうだよ」

そういって一枚の紙を見せてくれた。

「酷い絵ですね。これ冥王が描かれたんですか? 」

「まあ、子供の落書きのようだけど、

細かいところにチェックが入っていて、

設計図みたいでしょ。

どんな思いでこれを描いていたんだろうと考えたら、

妖鬼君と笑っちゃってね」

「確かに」

二人は冥王が机に向かって、

真剣にお絵描きしている姿を思い浮かべて、

笑いが止まらなくなった。

「冥王は面白い方だよね」

「そうですね。

ある意味素直なんで、

扱いやすいとも言えますけどね」

「酷いなぁ~」

「あははは。

でも閻魔様のイメージが違うのは事実でしょ? 」

「うんうん」

花村も楽しそうに頷くと、

「この作品は仕上げ彫りまで時間がかかりそうだから、

すぐにでも始めないと」

と言いながら、部屋の奥に消えていった。

さて、俺も仕事をするか。

「と、その前に…マッサージチェアーでほぐしていこう」

向井は肩をもみながら、

トレーニングルームに向かった。


二ヵ月後―――

工房がおおよそでき上ってきたところで、

花村や元秀が自分の作業スペースに移っていき、

まり子はサロンの方がはかどると言って、

妖鬼に特注でテーブルを作ってもらい、

そこで作業をしていた。

そんな霊達が活動的になっている時、

セイがサロン担当の死神カトルセと一緒に、

大画面をもってサロンに入ってきた。

「これ何? 」

コックコートを着た女性が、

食堂から走ってやってきた。


元パティシエの優香は再生を待つ間、

食堂で創作デザートを作っていた。

「うまくできたらレシピを残すから、

ここのコックに作ってもらって、

メニューに入れてよ」

優香は国内の洋菓子コンクールで優勝。

海外でも、

技術部門で優勝するほどの腕の持ち主だ。

派遣登録はしなかったものの、

冥界で新しいデザートを残してから、

再生すると言ってレシピを考えていた。

牧野や安達はスイーツ男子なので、

喜んで協力しているようだ。


「くるみ君の記者会見があるんですよ~

『ザ・ダンス』の制作発表が~

で、このサロンでも見れるようにと、

モニターの設置をしようという事になって」

「へえ~ サロンの霊達も、

TVが見られるようになるんだ。いいね~」

くるみの合格が決まってからのセイは、

皆にくるみの凄さを話して回りながら、

サロンにも大画面をと室長に言って、

許可を取っていた。

舞台中継も放映されるそうで、

セイが一番はしゃいでいるのかもしれなかった。


「あっ、向井さん、新しいデザート出来たから、

いつでもいいから食堂に来て~」

優香が手を振りながら小走りでやってきた。

向井は工房を出てきたところで足を止めた。

「牧野君たちが食べてるんじゃないの? 」

優香は腕組みをして、背の高い向井を見上げた。

「試食は向井さんや新田君の方が的確だから。

牧野君たちは何でもおいしいって言うんだもん」

「あははは。でも、

優香ちゃんのデザートはどれも美味しいから、

冥王も喜んでますよ」

「そっか。まいったなぁ~

私が再生するまでに、

ここでしか食べられない新作、

作りたいんだよね~

私は霊魂だから、

食べても味覚がいまいちなんだよね。

味の決め手は、

向井さんたちにかかってるんだからね」

「それはプレッシャーだなぁ。

心して試食しないといけないね」

「じゃあ、食べに来てよ。

あっ、佐久間さ~ん」

優香は手を振って駆けだしていった。

「元気だなぁ~」

向井は笑いながら見ていた。
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