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第一部

浮気の霊体

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そこへ工房から出てきた元秀が、

向井を見つけると声をかけてきた。

工房とギャラリーは、

まだ出来上がってはいないものの、

再生への道に進むために、

動き出す霊達も増え始め、

それぞれが皆、楽しそうだった。


「向井さん、冥王の話を聞いたら、

図案に起こしますから」

彼もここにきて心嬉しいようで、

よくしゃべるようになった。

これが本来の彼の姿なのかもしれない。

「悪いですね」

「そんなことないよ。

冥王の部屋に飾るものでしょ。

死んだ後の作品が、

冥界で残るなんて凄い事だからね。

だって、死んだあとじゃなきゃ、

このギャラリーを見られないんだよ」

「そういわれたらそうですね」

「だろ? 」

元秀が笑った。


その時、医務室に運ばれていく霊の叫ぶ声が、

サロンに響いてきた。

「なんだ? 」

サロンにいた霊がぞろぞろと、

出入り口から顔をのぞかせる。

向井も一緒に見ていると、

数か所刺されているのか、

身体のかけた霊体が運ばれる途中だった。

「痛ぇよ! 何とかしろよ! この野郎!! 」

「何者ですかね」

美樹本が言った。

「この騒ぎは何ですか? 」

向井が廊下に出て行く。

「なんだ、テメェ」

「随分刺されているみたいですけど、

これ除去霊じゃないんですか? 」

向井が運んでいる死神オクトに聞く。

「それがですね~

閻魔帳によると、

そこまでの問題霊ではないみたいで、

医務室で治療後、隔離サロンに運ばれて、

そこから消去に回されるそうです」

隔離サロンは除去されるほどでもないが、

問題のある霊を集めている部屋だ。

通常のサロンにいる霊は、

冥界内の決められた場所、

図書室や工房など、

自由に動ける場所もあるが、

隔離サロン霊にはない。

毎日ベルトコンベアの上に乗せられ、

次から次へと消去されていくので、

他の再生霊魂とは区別されている。


「ふぅ~ん」

向井はそういって、態度の悪い霊体の傷口に触れた。

「うわああああ~!! 何すんだよ! テメエ! ぶっ殺すぞ! 」

あまりの激痛にのたうち叫ぶ。

「ぶっ殺すだって~

ここは死人の集まりなのにね~」

早紀がふき出して笑い出した。

「で? 何で刺されたんですか? 」

向井が男に聞くが、

何も言わないのでオクトに視線を向けた。

「くだらない事ですよ。

浮気女が二人いて、

もめにもめて、

最後は奥さんにバレて、

刺されて殺されたんです。

自業自得ってとこですね」

「わぉ~冥王が好きそうな話ね。

泥沼の愛憎劇の末、

ラストは刺されて死ぬ……」

図書室から出てきた河原は、

楽しそうにニヤリと笑った。

「でも…見た目が良くないのが残念…」

早紀がため息をつく。

「あら、早紀ちゃん。

女にモテる男って、

存外顔は良くないものよ。

口が上手いの」

まり子がホホホと笑って、

サロンに戻っていった。

「なんだよ! てめえら! 見せもんじゃねえぞ!! 」

「そんな男、治療する必要ある? 」

早紀が冷めた目で見ていると、

横に立つ元秀も、

バカにしたように鼻で笑った。

「手足がバラバラだった俺に比べたら……」

「とにかくうるさいから、早く運んじゃって」

早紀の言葉に、オクトが申し訳なさそうに話した。

「それがさっきバス事故があって、

その霊体達が最優先なんで、

これは後回しなんですよ。

三途の川でも追い出されて、仕方なくこっちに。

迷惑かけてすいません」

その場にいたものはブーブー文句を言いながら、

部屋に戻っていった。
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