42 / 631
第一部
高価な宝石
しおりを挟む
「宝石って高いよね~
私が持ってたのだって、
結構したからなぁ~
そういえばあれ、どうなったんだろう」
「身寄りがいなければ、
残余財産の国庫への帰属になるね」
横のテーブルにいた美樹本が、
本から目を離さずに言った。
「なにそれ」
「身寄りがいない場合の財産は、
国に従いますという事かな。
まあ、財産があればの話だけど」
美樹本は弁護士で、
別に思い残しがあるわけではなく、
再生の順番待ちでサロンにいる。
現在死神ディッセが、
彼から法律関係の教えを受けていた。
「安月給で貯金もないから、
そんな問題は心配ないけど、
じゃあ私の遺骨ってどうなってんの?」
「ああ、それは死神課で確認できますよ。
以前聞いたら、
俺達のは無縁遺骨だから、
合葬で散骨されてるそうです」
向井が言った。
「確かにここ何十年で無縁仏が増えてるので、
合葬墓も満杯で、
散骨にされてるところもありますね。
地域によってはビニール袋に入れて、
ゴミと一緒に処分されてるみたいですよ」
「うそ………でしょ?」
驚く早紀に美樹本は意味ありげに笑うと、
「僕も独り身なので亡くなった後のことは、
既に決めてましたから」
と言った。
「美樹本君って幾つ?
若いのにそんな先のことまで考えてたの? 」
早紀がビックリした表情になった。
「弁護士をしてると色々あるんですよ。
人間いつ何が起こるかわからないので。
ほら、こうやって、
死んじゃうこともあるじゃないですか。
でも僕もそろそろ、
消去課に進めるそうなんで、
決まれば皆さんともお別れになります」
「そうなの。寂しくなるなぁ。
来世では殺されない人生が送れるといいわね」
早紀の言葉に美樹本が片笑んだ。
「まあ、頑張ります」
美樹本はある事件の被疑者に刺され、
死亡している。
魂の治療後一年待って、
ようやっと消去課に回されるくらい、
死人の順番待ちもひっ迫していた。
冥王が消去課の人数も増やしたいと言っていたが、
今の状況では難しい。
「まり子さんも石が届いたし、
作品の完成も間近ですか? 」
向井が言うと、
「もうほとんどできてるんだけど、
あと少し欲しい石があるから、
それが手に入ったら完成させるわ。
そのあと、
次に進むつもりよ。
向井さんにも色々無理言っちゃって、
ご免なさいね」
まり子は微笑むと作りかけの作品を、
見せてくれた。
静かに布を取ると――――
「これって、宝石画ですか? 」
美樹本も椅子から立ち上がり、
まり子の横に立った。
「この世界にきて、
ジュエリーじゃない、
もう一つの宝石の可能性を残したくなっちゃったのね」
まり子がウフフと笑った。
「最初はデザイン画を描いてたんだけど、
考えたら職人さんがいないじゃない。
そんな時にふと思ったの。
これが作りたいなぁって……
死んだ世界も美しいでしょう? 」
高級な石をふんだんに使った冥界の世界。
砕かれた宝石の輝きの中に、
希少石が散りばめられていて、
何とも形容しがたい景色が表現されていた。
「あと、ここにどうしても必要な石を、
幾つか入れられたら仕上がるから、
ギャラリーが出来たあとに、
花村も連れて行くつもり。
あの人、私と一緒ならついてくるわよ。きっと」
「あはははは。凄い自信~」
早紀があきれ顔で笑った。
向井も笑いながら、
こうやって一人また一人と消えていくんだな。
そんな冥界の移り変わりも、
向井にとっては嬉しくもあり寂しくもある。
成仏はしてもらいたい気持ちとは裏腹に、
そんな思いもあり、
少ししんみりした面持ちで、
彼らの姿を眺めていた。
私が持ってたのだって、
結構したからなぁ~
そういえばあれ、どうなったんだろう」
「身寄りがいなければ、
残余財産の国庫への帰属になるね」
横のテーブルにいた美樹本が、
本から目を離さずに言った。
「なにそれ」
「身寄りがいない場合の財産は、
国に従いますという事かな。
まあ、財産があればの話だけど」
美樹本は弁護士で、
別に思い残しがあるわけではなく、
再生の順番待ちでサロンにいる。
現在死神ディッセが、
彼から法律関係の教えを受けていた。
「安月給で貯金もないから、
そんな問題は心配ないけど、
じゃあ私の遺骨ってどうなってんの?」
「ああ、それは死神課で確認できますよ。
以前聞いたら、
俺達のは無縁遺骨だから、
合葬で散骨されてるそうです」
向井が言った。
「確かにここ何十年で無縁仏が増えてるので、
合葬墓も満杯で、
散骨にされてるところもありますね。
地域によってはビニール袋に入れて、
ゴミと一緒に処分されてるみたいですよ」
「うそ………でしょ?」
驚く早紀に美樹本は意味ありげに笑うと、
「僕も独り身なので亡くなった後のことは、
既に決めてましたから」
と言った。
「美樹本君って幾つ?
若いのにそんな先のことまで考えてたの? 」
早紀がビックリした表情になった。
「弁護士をしてると色々あるんですよ。
人間いつ何が起こるかわからないので。
ほら、こうやって、
死んじゃうこともあるじゃないですか。
でも僕もそろそろ、
消去課に進めるそうなんで、
決まれば皆さんともお別れになります」
「そうなの。寂しくなるなぁ。
来世では殺されない人生が送れるといいわね」
早紀の言葉に美樹本が片笑んだ。
「まあ、頑張ります」
美樹本はある事件の被疑者に刺され、
死亡している。
魂の治療後一年待って、
ようやっと消去課に回されるくらい、
死人の順番待ちもひっ迫していた。
冥王が消去課の人数も増やしたいと言っていたが、
今の状況では難しい。
「まり子さんも石が届いたし、
作品の完成も間近ですか? 」
向井が言うと、
「もうほとんどできてるんだけど、
あと少し欲しい石があるから、
それが手に入ったら完成させるわ。
そのあと、
次に進むつもりよ。
向井さんにも色々無理言っちゃって、
ご免なさいね」
まり子は微笑むと作りかけの作品を、
見せてくれた。
静かに布を取ると――――
「これって、宝石画ですか? 」
美樹本も椅子から立ち上がり、
まり子の横に立った。
「この世界にきて、
ジュエリーじゃない、
もう一つの宝石の可能性を残したくなっちゃったのね」
まり子がウフフと笑った。
「最初はデザイン画を描いてたんだけど、
考えたら職人さんがいないじゃない。
そんな時にふと思ったの。
これが作りたいなぁって……
死んだ世界も美しいでしょう? 」
高級な石をふんだんに使った冥界の世界。
砕かれた宝石の輝きの中に、
希少石が散りばめられていて、
何とも形容しがたい景色が表現されていた。
「あと、ここにどうしても必要な石を、
幾つか入れられたら仕上がるから、
ギャラリーが出来たあとに、
花村も連れて行くつもり。
あの人、私と一緒ならついてくるわよ。きっと」
「あはははは。凄い自信~」
早紀があきれ顔で笑った。
向井も笑いながら、
こうやって一人また一人と消えていくんだな。
そんな冥界の移り変わりも、
向井にとっては嬉しくもあり寂しくもある。
成仏はしてもらいたい気持ちとは裏腹に、
そんな思いもあり、
少ししんみりした面持ちで、
彼らの姿を眺めていた。
1
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが
空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。
「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!
人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。
魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」
どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。
人生は楽しまないと勿体ない!!
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる