30 / 631
第一部
冥界の休憩室
しおりを挟む
数時間後――――
特例の休憩室に戻ると、
珍しく早紀と弥生がお茶をしていた。
「あっ、ケーキじゃん。
俺のもある? 」
牧野が言うと、
「皆さんの分もありますよ。
先程まで倉田さんがいて、
人気のケーキを持ってきてくれたんです」
弥生が立ち上がってお皿の用意をしてくれた。
背が高く気の強い早紀と比べると、
細くて繊細な女の子という印象だ。
「珈琲と紅茶はインスタントですけど、
お好きな方をどうぞ」
「倉田、何しに来てたの? 」
牧野が楽しそうにケーキの箱をのぞく。
その横で安達も嬉しそうに選んでいる。
「あんたがいつも遊び歩いてるから、
会わないだけでしょ。
定期的に戻ってきてるわよ」
ここ冥界は冥王がいる中央を中心に、
左右でサテライトオフィスがある。
倉田と岸本は北支部と西支部。
それぞれの近辺を担当しているため、
中央には時々戻ってくる。
オフィスにはそれぞれ、
死神が十二人ほど配置されているが、
中央に比べると静かなものだ。
「今日は報告と相談に来てたんです」
弥生がそういい、紙ナプキンをお皿に置いた。
「へえ~、あっ俺、ショコラがいい。
安達はどれにする? 」
「キャラメル」
「向井と佐久間はどれにする? 」
「なんでもいいよ」
二人は笑いながら見ていた。
「そうだ。今日はすき焼き弁当買ってきたので、
欲しい人は持っていっていいですよ」
「いいんですか?
じゃあ、私はこれで戻るんで、
田所さんと源じいと真紀子さんにも頂いていきますね」
「どうぞ」
向井はにっこり微笑むと、
恥ずかしそうにする弥生にお弁当を手渡した。
「失礼します」
弥生は頭を下げると、
部屋を出て行った。
「その笑顔。罪だなぁ~」
早紀はそういうと向井をじっと見た。
「何か俺、まずい事しましたか? 」
「佐久間さん、この人どう思います? 」
「処世術として笑顔を武器にする人はいますけど、
それができるほど、
向井さんは器用じゃないですからね。
まあ、私達は死人ですから、
ある意味、
鈍感というのも幸せかもしれませんね」
佐久間は席に着くと、
チーズケーキを皿に乗せた。
「何の話? 」
牧野がケーキを頬張りながら聞いた。
「お子様は黙って食べてなさい」
「なんだよ! 」
「ここはいつも賑やかだな~
さっき帰り際に倉田さんに会って、
ケーキがあるって言われたんだけど、
まだ残ってる? 」
新田が入ってきた。
「あるよ~ついでにすき焼き弁当もあるよ~」
「ついでってなんだよ」
早紀の言葉に牧野が怒ると、
「牧野君はお金を払っていないんだから、
怒っていいのは私と向井さんですよ」
「あら、ごめんなさい」
早紀が笑った。
死人も元は人。
こんな何気ない日常にホッとする。
向井はそんなことを思いながら、
「じゃあ、俺もケーキを頂こうかな」
と、彼らの輪の中へ入っていった。
特例の休憩室に戻ると、
珍しく早紀と弥生がお茶をしていた。
「あっ、ケーキじゃん。
俺のもある? 」
牧野が言うと、
「皆さんの分もありますよ。
先程まで倉田さんがいて、
人気のケーキを持ってきてくれたんです」
弥生が立ち上がってお皿の用意をしてくれた。
背が高く気の強い早紀と比べると、
細くて繊細な女の子という印象だ。
「珈琲と紅茶はインスタントですけど、
お好きな方をどうぞ」
「倉田、何しに来てたの? 」
牧野が楽しそうにケーキの箱をのぞく。
その横で安達も嬉しそうに選んでいる。
「あんたがいつも遊び歩いてるから、
会わないだけでしょ。
定期的に戻ってきてるわよ」
ここ冥界は冥王がいる中央を中心に、
左右でサテライトオフィスがある。
倉田と岸本は北支部と西支部。
それぞれの近辺を担当しているため、
中央には時々戻ってくる。
オフィスにはそれぞれ、
死神が十二人ほど配置されているが、
中央に比べると静かなものだ。
「今日は報告と相談に来てたんです」
弥生がそういい、紙ナプキンをお皿に置いた。
「へえ~、あっ俺、ショコラがいい。
安達はどれにする? 」
「キャラメル」
「向井と佐久間はどれにする? 」
「なんでもいいよ」
二人は笑いながら見ていた。
「そうだ。今日はすき焼き弁当買ってきたので、
欲しい人は持っていっていいですよ」
「いいんですか?
じゃあ、私はこれで戻るんで、
田所さんと源じいと真紀子さんにも頂いていきますね」
「どうぞ」
向井はにっこり微笑むと、
恥ずかしそうにする弥生にお弁当を手渡した。
「失礼します」
弥生は頭を下げると、
部屋を出て行った。
「その笑顔。罪だなぁ~」
早紀はそういうと向井をじっと見た。
「何か俺、まずい事しましたか? 」
「佐久間さん、この人どう思います? 」
「処世術として笑顔を武器にする人はいますけど、
それができるほど、
向井さんは器用じゃないですからね。
まあ、私達は死人ですから、
ある意味、
鈍感というのも幸せかもしれませんね」
佐久間は席に着くと、
チーズケーキを皿に乗せた。
「何の話? 」
牧野がケーキを頬張りながら聞いた。
「お子様は黙って食べてなさい」
「なんだよ! 」
「ここはいつも賑やかだな~
さっき帰り際に倉田さんに会って、
ケーキがあるって言われたんだけど、
まだ残ってる? 」
新田が入ってきた。
「あるよ~ついでにすき焼き弁当もあるよ~」
「ついでってなんだよ」
早紀の言葉に牧野が怒ると、
「牧野君はお金を払っていないんだから、
怒っていいのは私と向井さんですよ」
「あら、ごめんなさい」
早紀が笑った。
死人も元は人。
こんな何気ない日常にホッとする。
向井はそんなことを思いながら、
「じゃあ、俺もケーキを頂こうかな」
と、彼らの輪の中へ入っていった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる