『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

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第一部

「ゾンビ少年と赤い神聖ばあ」

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休憩室に戻ると、

真紀子、源じい、田所は自室に戻ったようで、

ソファーに寝転がっていたのは、

安達が増えて若者三人だった。

コーナー型の大型ローソファーなので、

それぞれが大の字になって、

気持ちよさそうに寝ている。

向井は空いてる場所に腰を下ろすと、

冥王から渡された雑誌をめくった。

内容は―――

時は大正。

突如現れたゾンビに人々は襲われ、

大パニックになっていた。

その時登場したのが二人の戦士。

赤い羽織りを着た老婆とゾンビの少年。

少年はゾンビに襲われたものの、

何故かゾンビにはならず、

人間の姿のままの死人として、

ゾンビから人々を守っていた。

そしてもう一人。

老婆もまた、

魔を避ける特別な赤い羽織りを着て、

少年とともに戦っていた。

この二人の謎を含みながら、

話は続いていくのだが、

何せ短編なので、

重要なところは分からず、

続くような終わり方になっている。


なんだかよくわからないが、

確かに少し気になるかもな。

向井がそんなことを考えながら読んでいると、

上からのぞく新田の姿があった。

「なに? 漫画?  

それ冥王が毎月楽しみにしてるやつですよね」

「ああ、どうもこの中の物語の一つが、

気になっているらしくてね。

面白いから読めと渡された」

「で、面白かったですか? 」

新田はそういいながらソファーをまたいで、

横に座った。

「読んでみる? 俺にはよくわからない世界だけど、

俳優の新田君なら演じてみたくなるような、

話かもしれませんよ。

ただ主人公がおばあさんとゾンビ少年なんですよね」

「それはまた変わった設定ですね」

新田は雑誌を受け取ると、

読み始めた。

真剣に読んでいる新田を横目で見ながら、

向井はテーブルに残っていた、

コンビニのおにぎりを手に取った。

真紀子さんが片付けてくれたようで、

残ったサンドイッチやピザには、

ラップがかけられていた。

おにぎりを食べていると、

新田が雑誌を見ながら言った。

「ふぅ~ん。この続きってあるんですか? 」

「やっぱり気になる? 」

「含みのある終わり方なんで、

この後どうなったのかな? って」

「これね、今派遣霊の一人がアシスタントで、

続きを手伝ってるんですよ」

「へえ~」

「新田君は恋愛ものが多かったから、

こういうのってどうなのかな」

「いや、面白いですよ。

少年の年齢を少し上げてくれるなら、

演じてみたいです。

ただ今は役者よりこの仕事の方が、

やりがいはあるかもしれませんけど。

だって映画みたいじゃないですか」

「まあ、確かにね」

二人は同時にケラケラ笑った。

その笑い声に寝ていた三人が目を覚ました。

「なに? 」

牧野が目をこすりながら起き上がった。

「あっ、ごめん。起こしちゃった? 」

新田が言うと、

「何話してたの? 」

早紀が寝転がったまま聞いた。

「俳優の時より今の方がドラマみたいだって話」

向井が言った。

「あ~それ、なんか分かる~

俺も死んでるのに、

死んでるって実感があまりないもん。

映画を見てるみたいな感じ? 

悪霊に囲まれてるときだけ、

やっぱ俺死んでんじゃん? みたいな? 」

牧野が両手を上げて伸びをした。

「そういえば……俺が大きな役をもらったのって、

牧野君の年くらいだったな。

あの時はちょうど前厄でさ。

事務所が厄落としをするのしないので、

随分揉めたんだよなぁ~」

「ああ、役者さんはそういいますよね」

「何かあるの? 」

安達が聞く。

「役を落とすっていって、

俳優さんは厄落とししないのよね」

「まあ、迷信だけど、

俺は自分というより、

作品に関係している人に、

何かあったらめざめが悪いので、

きちんとやりましたよ」

「厄年って……死んでてもやったほうがいいのかな? 」

牧野がふと考え込むように言った。

「死んでるんだから、

厄なんてないでしょ? 」

早紀が言うと、

「ん~でもさ、悪霊にやられちゃうとか……?  

俺、生きてれば二十三歳だし……そろそろ厄じゃん? 」

「だったら、あたしだって生きてれば前厄? 」

「ばばぁだな」

「うるさい!! 」

早紀が牧野にクッションを投げつけた。

「そういえば……田所さんは死んでるのに、

厄落とししたとかしないとか?  

何か話を聞いたんだけど忘れてしまったな」

「そうか、田所に聞けばいいんだ」

牧野はサッと立ち上がると、

「消去課にいるよね」

部屋を出て行った。

「ちょっと待ってよ。あたしもいく~」

早紀もそのあとを追っていく。

「厄落としなんて気の持ちようだと思うけどね。

俺も腹減ったから、なんか食べよう」

新田がテーブルからサンドイッチを取ると、

口にくわえた。

その横で安達がTVを付ける。

画面からオープニングが流れるのを見て、

ああ、これがそのアニメか……

安達に買ってきたアニメグッズを思い出した。

向井が冷蔵庫からビールを持ってくると、

新田に渡した。

「飲む? 」

「有難うございます」

新田がプルトップを開けた。

真剣になって見ている安達から、

TV画面に視線を移すと、

「あっ、このアニメの原作。

俺にオファーがきてたんですよ。

この前、映画化されたでしょ。

まあ、死んじゃったんで、

結局出れませんでしたけど」

「そうなの? 」

向井が聞くのと同時に、

安達も振り返った。

ヒーローでも見るような憧れのまなざしだ。

「そんな目で見られてもね。

生きてれば主演だったのに、

ちょっと惜しかったかな。あははは」

新田がビールを飲みながら笑った。

向井もそのアニメを見ながら、

何気に時計を見る。

「最近はアニメも夜中なんですね。

明日も忙しいし、

今日は疲れたから……

ここで寝ちゃおう!! 」

ビールを飲み干すと、

ソファーに寝転がった。

「なんか学生時代を思い出しますね」

新田も横になると、

そのまま流れているアニメを見た。

「死んでここに来た時は、

この先どうなるんだ? と不安だったんですけど、

今は死人の人生も悪くないかも……と思ったりね」

「まあ、死んでしまったものは、

どうしようもないですからね」

向井も自分の死を、

客観的にとらえられるようになっていた。

「そうですよね」

二人はしみじみとそんなことを言いながら、

アニメを子守唄に、

いつの間にか眠りについていた。
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