『アンダーワールド』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

文字の大きさ
上 下
25 / 631
第一部

冥王室

しおりを挟む
特例の休憩室を出て長い廊下を抜けると、

その先に冥王室がある。

重厚なドアは、

和製アンティーク風な作りだ。

向井はドアの前で止まりノックすると、

冥王の返事も待たずに入室した。

「失礼します。お呼びでしょうか」

「来た来た。ちょっと聞きたいことがあって」

冥王は本から目を離さずに、

手だけ振って向井を呼んだ。

「なんですか? 」

向井がデスクに近づくと、

「これなんだけどさ~

続きみたいな終わり方なんだよね」

「なんだ。漫画の話ですか」

「これって、続き描くんだよね。

気になっちゃってね」

向井があきれたように雑誌を見ると、

「松田雪江……?   

あれ、この作家さんは本名で描いてるのか」

「えっ、なになに?  

向井君はこの作家さん知ってるの? 」

冥王は子供のように目を見開いて、

顔を近づけてきた。

「知ってるもなにも、派遣霊の一人が仕事してますよ」

「えっ? ほんと? 誰? 誰? 」

「言ったってわからないでしょ? 」

「何を言っているのかな? 私は冥王ですよ。

君たちの仕事はきちんと見てます。

で? 誰? 」

怪しいなぁ~……

向井は疑わしそうな顔をした。

「山川葵さんて、

漫画アシスタント界では、

レジェンドらしいですよ」

「えっ? 山川が彼女のアシスタントしてるの? 

もしかして、この続きだったりするのかな? 」

向井は帰ってきた言葉の方に驚いた。

「冥王が山川さんを知っているほうが、

俺にはびっくりなんですが」

「だから、言ったじゃないですか。

私はきちんと仕事を把握してますよって」

訝し気な顔のまま向井は答えた。

「多分この続きだと思いますよ。

なんか、読者アンケートの結果がよかったので、

長編で続きを描くそうです」

「おお~やはり、

私も一票投じたのに二位だったんですよね。

そうかそうか。ではこの続きが読めるのか。

楽しみだなぁ」

冥王は嬉しそうに言うと、

「山川はもう成仏したと思ってたけど、

まだ漫画描いてたんだね」

「あの人、二十年以上だって知ってますか? 」

「えっ? 二十年? もう、そんなになるのか。

なかなか来世に行かないよね」

「そう思うなら、何とかしたらどうですか? 」

「まあ、彼女が納得するまでは難しいかな。

別に困ることもないし、いいんじゃない。

それより」

「それよりって」

向井があきれたような顔をした。

「まあまあ」

冥王がなだめる様に笑った。

「この続きなんだけど、

私が先に、

ちょこっと読むことできないかね~」

「できるわけないでしょ。

来月号に掲載予定だそうですから、

待ったらいいじゃないですか」

「そうなんだけど、

異世界に飛ばされそうなところで終わってるから、

気になってしまって」

「大体、どんなお話なんですか?  

大正ロマンのファンタジーだそうですけど」

「これが面白いんですよ。

主人公の還暦のおばあさんとゾンビの少年が、

ゾンビ退治の旅をするんだけど」

「はっ? 」

向井は素っ頓狂な声を上げた。

年寄りとゾンビ少年でゾンビ退治?  

それで異世界にも行くのか?  

凄い設定だな。

「まあ、とにかく向井君も担当したんなら、

読んでみなさいよ」

そういうと雑誌を向井に渡した。

「もしこれが連載になったら嬉しいね。

来月も雑誌宜しくお願いしますよ」

冥王はそれだけ言うと、

戻っていいよと手を振った。

向井は頭を下げると帰り際に、

“気取ったポーズの写真が”

トリアの言葉を思い出し、

壁にある写真に目をやった。

確かに、現冥王に比べると……

トリアが嫌がった気持ちを察し、

フッと笑った。

そしてドアの前でピタッと足を止めると、

「そうだ。

冥王、あなたがソファに敷いているそのキルト。

真紀子さんが休憩室用に作ったものですよ。

次から代金頂きますからそのつもりで」

「えっ? みんな使ってるし、私も欲しいです」

「だったら、材料費と手数料いただきます。

タダじゃないんですからね」

「心が狭いな~時には寛大さも必要ですよ」

「それをあなたが言うとは」

向井はそれだけいうと部屋を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

幼馴染の勇者が一般人の僕をパーティーに入れようとするんですが

空色蜻蛉
ファンタジー
羊飼いの少年リヒトは、ある事件で勇者になってしまった幼馴染みに巻き込まれ、世界を救う旅へ……ではなく世界一周観光旅行に出発する。 「君達、僕は一般人だって何度言ったら分かるんだ?!  人間外の戦闘に巻き込まないでくれ。  魔王討伐の旅じゃなくて観光旅行なら別に良いけど……え? じゃあ観光旅行で良いって本気?」 どこまでもリヒト優先の幼馴染みと共に、人助けそっちのけで愉快な珍道中が始まる。一行のマスコット家畜メリーさんは巨大化するし、リヒト自身も秘密を抱えているがそれはそれとして。 人生は楽しまないと勿体ない!! ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

処理中です...