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第一部
仕事待ちの幽霊
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翌日―――
向井はスパイスラテを飲みながら、
商店街を歩いていた。
霊魂の数もまばらになっている。
昨夜のうちに、
安達がかなり補導してくれたようだ。
素直じゃない彼らしいお礼の仕方だ。
残っている霊は、
何か強い思いがあるのだろう。
向井は仕事派遣希望の登録霊を見つけることにした。
いたらナンバープレートを渡して……
それ以外の霊は、
サロンに連れて行って……と、
タブレットを見ながら考えこんだ。
浮遊霊の殆どは光の渦が広がると、
それに吸い込まれるように冥界へと導かれていく。
ただし、家族への思いが強すぎるものや、
ストーカーなどの問題霊は拒絶反応が強い為、
保護課が強制的に連れて行き、
通常とそれ以外の霊で選別され、
残ったものが派遣希望として調査対象にされていた。
さてどうしたものか………
登録ナンバーだけでも二百はある。
自分一人で片づけられる数ではない。
タブレットを手に頭を抱える向井を、
少し離れた所から見ていた女が声をかけてきた。
「ねえ、お兄さん、新顔だよね。
その前のおっさんはどうしたの? 」
その声に振り向くと、
フリースペースのカフェテラスでくつろぐ、
五十歳前後の女性が手を振る姿が見えた。
「おっさん、くたばった? 」
口が悪いな。
向井はテーブルに近づくと言った。
「高田さんは二年前に任務終了で再生しましたよ」
「へえ~じゃあ、今はあんたが担当? 」
「そうです。ここ座ってもいいですか? 」
「どうぞどうぞ」
「向井です」
そういうと椅子に腰かけた。
「お兄さん男前だね。背高いし、若いよね」
「若くないですよ。三十ですから。
生きていれば三十二ですよ」
「まあ、あたしから見たら若者ですよ。
えっ、でも…じゃあ、あたし、
二年以上もおっさんに会ってなかったってこと? 」
彼女はそういうと改めて驚いた様子で言った。
死ぬと時間の感覚も曖昧になる。
「いつもこの辺にいるんですか?
会うの初めてですけど」
「まあ、あちこち移動してるからな~」
派遣霊も一つ所にとどまらないので、
こういう事もままある。
「あなたも派遣登録されてますよね」
「してますよ。
お兄さんが二年目という事は、
最後に仕事をしたのは三年前かなぁ~
まだもう少しやりたいんだけど、
仕事依頼が来ないのよ。
向井さんだっけ?
あんたサボってんじゃないの? 」
「あなたいつから登録されているんですか? 」
「あたし? 結構古いよ。
番号も三番だし。
永久欠番? 凄いよね~
野球知らない? 」
「知ってますよ」
そういうと向井はタブレットを確認した。
見ると一桁は三番のみ残っている。
本名は川野佐知。派遣名山川葵。
漫画家アシスタント。
派遣回数も十回?
大ベテランだな。
いったいいつになったら満足するんだ?
「あたしどうしてもしたい仕事があるのよね。
十二単とか、
中世ヨーロッパの建造物とか、
そういうのを描きたいんだけどさ」
「仕事を選びすぎなんじゃないですか? 」
「あのね~
あたしをサポートするのがあんたの仕事でしょ。
それができなきゃ、成仏しないからね」
「はいはい、分かりましたよ。
とりあえずあまり移動せずに、
この辺りにいてくださいね。
サロンでもいいですけど」
派遣プレートを持っている霊は、
冥界とつながっているので、
悪霊にやられることは少ない。
が、絶対安全とも言えないので、
出来ればサロンにいてくれると助かるのだが、
こういう霊に遭遇することもなくはない。
「あんなところ退屈だよ。
あたし旅行好きなんだもん。
でも、全国まわるのも飽きたし、
当分この辺りで遊んでるから、
ちゃんと探してよ」
文句を言う葵をあきれ顔で見ると、
向井は席を立った。
向井はスパイスラテを飲みながら、
商店街を歩いていた。
霊魂の数もまばらになっている。
昨夜のうちに、
安達がかなり補導してくれたようだ。
素直じゃない彼らしいお礼の仕方だ。
残っている霊は、
何か強い思いがあるのだろう。
向井は仕事派遣希望の登録霊を見つけることにした。
いたらナンバープレートを渡して……
それ以外の霊は、
サロンに連れて行って……と、
タブレットを見ながら考えこんだ。
浮遊霊の殆どは光の渦が広がると、
それに吸い込まれるように冥界へと導かれていく。
ただし、家族への思いが強すぎるものや、
ストーカーなどの問題霊は拒絶反応が強い為、
保護課が強制的に連れて行き、
通常とそれ以外の霊で選別され、
残ったものが派遣希望として調査対象にされていた。
さてどうしたものか………
登録ナンバーだけでも二百はある。
自分一人で片づけられる数ではない。
タブレットを手に頭を抱える向井を、
少し離れた所から見ていた女が声をかけてきた。
「ねえ、お兄さん、新顔だよね。
その前のおっさんはどうしたの? 」
その声に振り向くと、
フリースペースのカフェテラスでくつろぐ、
五十歳前後の女性が手を振る姿が見えた。
「おっさん、くたばった? 」
口が悪いな。
向井はテーブルに近づくと言った。
「高田さんは二年前に任務終了で再生しましたよ」
「へえ~じゃあ、今はあんたが担当? 」
「そうです。ここ座ってもいいですか? 」
「どうぞどうぞ」
「向井です」
そういうと椅子に腰かけた。
「お兄さん男前だね。背高いし、若いよね」
「若くないですよ。三十ですから。
生きていれば三十二ですよ」
「まあ、あたしから見たら若者ですよ。
えっ、でも…じゃあ、あたし、
二年以上もおっさんに会ってなかったってこと? 」
彼女はそういうと改めて驚いた様子で言った。
死ぬと時間の感覚も曖昧になる。
「いつもこの辺にいるんですか?
会うの初めてですけど」
「まあ、あちこち移動してるからな~」
派遣霊も一つ所にとどまらないので、
こういう事もままある。
「あなたも派遣登録されてますよね」
「してますよ。
お兄さんが二年目という事は、
最後に仕事をしたのは三年前かなぁ~
まだもう少しやりたいんだけど、
仕事依頼が来ないのよ。
向井さんだっけ?
あんたサボってんじゃないの? 」
「あなたいつから登録されているんですか? 」
「あたし? 結構古いよ。
番号も三番だし。
永久欠番? 凄いよね~
野球知らない? 」
「知ってますよ」
そういうと向井はタブレットを確認した。
見ると一桁は三番のみ残っている。
本名は川野佐知。派遣名山川葵。
漫画家アシスタント。
派遣回数も十回?
大ベテランだな。
いったいいつになったら満足するんだ?
「あたしどうしてもしたい仕事があるのよね。
十二単とか、
中世ヨーロッパの建造物とか、
そういうのを描きたいんだけどさ」
「仕事を選びすぎなんじゃないですか? 」
「あのね~
あたしをサポートするのがあんたの仕事でしょ。
それができなきゃ、成仏しないからね」
「はいはい、分かりましたよ。
とりあえずあまり移動せずに、
この辺りにいてくださいね。
サロンでもいいですけど」
派遣プレートを持っている霊は、
冥界とつながっているので、
悪霊にやられることは少ない。
が、絶対安全とも言えないので、
出来ればサロンにいてくれると助かるのだが、
こういう霊に遭遇することもなくはない。
「あんなところ退屈だよ。
あたし旅行好きなんだもん。
でも、全国まわるのも飽きたし、
当分この辺りで遊んでるから、
ちゃんと探してよ」
文句を言う葵をあきれ顔で見ると、
向井は席を立った。
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