『アンダーワールド・番外編』冥王VS人間~魑魅魍魎の戦が今始まる~

八雲翔

文字の大きさ
上 下
221 / 330
番外編 冥界の逆襲

特例の誕生秘話

しおりを挟む
「多分、向井さん達は、

このまま冥界に残ることになると思うよ」

「えっ? 」

向井は手に持っていた霊玉を、

悪霊に向けて放ちながらアートンを見た。

「特例の数が少ないでしょう。

冥王は今の状態がベストだと思ってるから、

新しいスタッフを入れない。

まぁ、黒谷君のような特別な能力があれば別だけど、

そうじゃない限りは特例の赤ランプは消してるから」

アートンの話に向井も静かに笑った。

「大体特例が出来たのって、

今から百数十年前? 

あの大戦の後らしいんだ。

トリアの時には寿命を待たずに亡くなった魂は、

鬼籍の記録に合わせて、

その時まで壺で眠ってたらしいから」

「という事は、今の冥王が特例を作ったという事ですか? 」

向井が驚いて足を止めるとアートンを見た。

「あ~そうだね。向井さんが知ってるあの大沢の祖父?

彼が戦後の復興に人柱を行ったのが始まり。

僕はその当時を知らないから詳しくは分からないけど、

あの時は縊鬼の数も多かったし、

トリアも他の死神と、

この国の機密書物を調査してたから、

色んなことが重なって、

儀式が抜け落ちていたらしい」

「………特別室が出来たのもその時ですか? 」

向井が考え込みながら聞くと、

「いや、それはもっと古い。

トリアの代にはあったから、

歴史の教科書でしか知らない人物もいたらしいよ」

「そうなんですね」

アートンの話に頷いた。

「特別室に大沢家が来るようになって、

当時使われていなかった御託宣室が動き出したんだ」

「それは儀式を行ったことで、

ジオードが動き出したってことですか? 」

「そうなるね。

冥界と下界のジオードがリンクしてたって言う証拠。

少し前まで御託宣室が動いてたのは、

ミデンが転送ミスで欠片を下界に残してたから。

今は御託宣室も閉ざされてるでしょう」

「あ………そうですね。

消えたわけじゃないんですよね」

向井もすっかり忘れていたので、

思い出すように上を向いた。

「昔から多くの国で人間を神にささげる儀式は、

行われてきたんだけど、

神はそんなものを必要としてないからね。

特にうちの冥界では忌み嫌うんだよ。

冥王見ればわかるでしょ」

アートンが言った。

「という事は俺は当分このままという事かな」

「そうなるね。

冥王もまだ二百年。

仕事はきつくても僕達死神も消えることはないから、

特例も魂の消滅まで働かされるかもね」

嫌な顔をする向井にアートンは笑った。


冥界に戻ると、

休憩室から賑やかな声が聞こえてきた。

「丁度夕食の時間だね」

アートンが言いながら霊銃を返却すると、

「下界はどうだった? 」

カトルセが言った。

「変わらないよ。

真っ黒の中で普通に生活してる」

アートンがサインしながら笑った。

「悪霊は毎日膨れ続けてるから、

気長に除去していきます」

向井も笑うとチェックを入れた。

「チビ達はもう夕食食べてるの? 」

「これからだよ。

多分ホットプレートで焼いてるんだと思うよ」

賑やかなチビ達の声にカトルセが言った。

「俺達が最後ですか」

「そうだね。俺も今日は真紀子さん達と、

コンテストの会議をしてたからさ」

「おっ、もう内容は決まってるんだ」

アートンが笑いながら振り返った。

「まぁね。今回は真紀子監督が、

色々考えてるみたいでさ」

カトルセも楽しそうに話した。

「二週間しか時間がないから大変だよ」

そこに妖鬼が三人を見かけて近づいてきた。

「そっちはどう? 」

アートンが聞くと、

「うちは田所さんが監督で坂下さんがいるから、

スポ根にするってさ。

俺もバレーボールの練習させられてる。

悪霊退治なのにさ」

妖鬼のため息に向井達は笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...