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番外編 騒ぐ下界
貧民街の現状
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向井達は中央の貧民街へ移動すると、
その街の様子を眺めた。
下区と貧民街の間に、
特定外国人街のコミュニティーができており、
犯罪に巻き込まれることを恐れ、
自国民はこの地区は遠回りをして移動している。
向井達が住宅地に入ると、
奥の平屋の並びの一つにトリアとオクトが、
老人と一緒に立っていた。
「遅くなってごめん」
ヴァンが近づくと老人が嬉しそうに声をかけた。
「あぁ、あんた達のお陰で本当に助かったよ。
やっと捨て地で暮らす決心がついた」
「それはよかった。ここにいてもいいことないからさ。
思い出は大切だけど、
生きてることはもっと大事だからね」
ヴァンは笑うと老人に言った。
「窪塚さんの平屋は築年数が古いけど、
災害後にリフォームされて大事に使われてるから、
室内も綺麗なんだよ。
だから知り合いの不動産屋にお願いしておいた」
オクトが説明した。
黒谷と仕事をするようになり、
冥界もかなり下界での伝手も出来た。
こっちは死神なので、
窪塚老人にまとまったお金が入るよう手配もした。
「こんな治安の悪いところで、
古い家なのに売れるもんかね」
窪塚の心配そうな顔に、
「大丈夫ですよ。
ここは中央の都なので、
それなりの価値はあります。
大切に住んでくださる方を探してくれるそうです」
オクトの説明に老人もホッとしたように笑顔になった。
「この辺りは貧民街でも、
見た所住民もいますし、普通に暮らせてるみたいですね」
向井が周辺の様子を窺いながら口を開いた。
昔ながらの平屋の家が立ち並び、
その奥は二階家が多く建つ新興住宅地だ。
ここだけ見れば、
黒地とは思えない空気が漂っている。
「この先は外国人街で、
治安の悪い場所もあるけど、
この一画は比較的安全な地域よね。
暮らしは大変だけど、
住むに困る地域じゃないから、
住宅も売れてる。
空からも光りが見られるし」
トリアも向井の横に来ると言った。
今や上区特別区以外は、
土地も家も安くなっているので、
購入して自ら手直しする者達も増えている。
「じいちゃんは必要なもん取りに来たんだろ?
俺達が荷物運んでやるよ」
牧野が老人に声をかけた。
「悪いね。今、鍵開けるから」
窪塚はそういうと引き戸を開け、
家の中に入った。
そのあとを追って、
「お邪魔しま~す」
牧野が玄関で靴を脱ぎ、
部屋に入って行った。
「全くあの子は。靴はちゃんと揃えなさい」
トリアが注意しながら牧野の靴を並べる。
「持っていくものと言っても、
大したものはないんだよ」
老人は奥の和室に行くと、
持ってきた段ボールを組み立て話した。
部屋の中は大型家具も少なく、
質素だ。
「大災害で両親も死んだからね。
あの時は死体が見つからない者も多かったし、
両親の骨は合葬墓になっているんだ。
家は残っても、
墓も潰れて流されてしまったから、
大事なものはこの位牌くらいかね。
俺は一人もんだから、
仏壇は魂抜きしたんだけどね」
窪塚はそういうと箱に着るものとアルバム、
カメラなどの機械を詰め込むと、
一番上にお位牌を置き、静かにふたを閉めた。
「あの時、俺は海外に赴任しててね。
それで一人助かったんだよ。
潰れかかった家だけど、
住めるくらいに手直しして、
その時に家の中のもんは大方処分した」
窪塚は辛そうに話しながら、
奥の寝室から何着か洋服を持ってくると箱に詰めた。
「じいちゃん、それは神様が生きろって言ってんだぞ。
こんなクソみたいな世の中だけど、
捨て地で人生楽しめってさ」
牧野が老人の横に屈むと笑顔で言った。
その顔に窪塚も笑う。
「有難う。そうだ。向こうで団地を紹介してもらったんだけど、
この家より綺麗で驚いたよ。
なのに、俺の安い年金でも住めるって言うし、
捨て地は色んな意味で行き届いているんだと思ったら、
安心した」
「捨て地は年齢、人種に関係なく、
全ての人が暮らしやすいように、
議員も動いてくれているんです。
気の合うお友達もできると思いますよ。
この先の人生はやりたいことを見つけて、
過ごしてください」
向井も微笑んだ。
その街の様子を眺めた。
下区と貧民街の間に、
特定外国人街のコミュニティーができており、
犯罪に巻き込まれることを恐れ、
自国民はこの地区は遠回りをして移動している。
向井達が住宅地に入ると、
奥の平屋の並びの一つにトリアとオクトが、
老人と一緒に立っていた。
「遅くなってごめん」
ヴァンが近づくと老人が嬉しそうに声をかけた。
「あぁ、あんた達のお陰で本当に助かったよ。
やっと捨て地で暮らす決心がついた」
「それはよかった。ここにいてもいいことないからさ。
思い出は大切だけど、
生きてることはもっと大事だからね」
ヴァンは笑うと老人に言った。
「窪塚さんの平屋は築年数が古いけど、
災害後にリフォームされて大事に使われてるから、
室内も綺麗なんだよ。
だから知り合いの不動産屋にお願いしておいた」
オクトが説明した。
黒谷と仕事をするようになり、
冥界もかなり下界での伝手も出来た。
こっちは死神なので、
窪塚老人にまとまったお金が入るよう手配もした。
「こんな治安の悪いところで、
古い家なのに売れるもんかね」
窪塚の心配そうな顔に、
「大丈夫ですよ。
ここは中央の都なので、
それなりの価値はあります。
大切に住んでくださる方を探してくれるそうです」
オクトの説明に老人もホッとしたように笑顔になった。
「この辺りは貧民街でも、
見た所住民もいますし、普通に暮らせてるみたいですね」
向井が周辺の様子を窺いながら口を開いた。
昔ながらの平屋の家が立ち並び、
その奥は二階家が多く建つ新興住宅地だ。
ここだけ見れば、
黒地とは思えない空気が漂っている。
「この先は外国人街で、
治安の悪い場所もあるけど、
この一画は比較的安全な地域よね。
暮らしは大変だけど、
住むに困る地域じゃないから、
住宅も売れてる。
空からも光りが見られるし」
トリアも向井の横に来ると言った。
今や上区特別区以外は、
土地も家も安くなっているので、
購入して自ら手直しする者達も増えている。
「じいちゃんは必要なもん取りに来たんだろ?
俺達が荷物運んでやるよ」
牧野が老人に声をかけた。
「悪いね。今、鍵開けるから」
窪塚はそういうと引き戸を開け、
家の中に入った。
そのあとを追って、
「お邪魔しま~す」
牧野が玄関で靴を脱ぎ、
部屋に入って行った。
「全くあの子は。靴はちゃんと揃えなさい」
トリアが注意しながら牧野の靴を並べる。
「持っていくものと言っても、
大したものはないんだよ」
老人は奥の和室に行くと、
持ってきた段ボールを組み立て話した。
部屋の中は大型家具も少なく、
質素だ。
「大災害で両親も死んだからね。
あの時は死体が見つからない者も多かったし、
両親の骨は合葬墓になっているんだ。
家は残っても、
墓も潰れて流されてしまったから、
大事なものはこの位牌くらいかね。
俺は一人もんだから、
仏壇は魂抜きしたんだけどね」
窪塚はそういうと箱に着るものとアルバム、
カメラなどの機械を詰め込むと、
一番上にお位牌を置き、静かにふたを閉めた。
「あの時、俺は海外に赴任しててね。
それで一人助かったんだよ。
潰れかかった家だけど、
住めるくらいに手直しして、
その時に家の中のもんは大方処分した」
窪塚は辛そうに話しながら、
奥の寝室から何着か洋服を持ってくると箱に詰めた。
「じいちゃん、それは神様が生きろって言ってんだぞ。
こんなクソみたいな世の中だけど、
捨て地で人生楽しめってさ」
牧野が老人の横に屈むと笑顔で言った。
その顔に窪塚も笑う。
「有難う。そうだ。向こうで団地を紹介してもらったんだけど、
この家より綺麗で驚いたよ。
なのに、俺の安い年金でも住めるって言うし、
捨て地は色んな意味で行き届いているんだと思ったら、
安心した」
「捨て地は年齢、人種に関係なく、
全ての人が暮らしやすいように、
議員も動いてくれているんです。
気の合うお友達もできると思いますよ。
この先の人生はやりたいことを見つけて、
過ごしてください」
向井も微笑んだ。
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