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番外編 龍神向井

沈みゆく土地

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佐久間は魔境となった中枢部に立つと、

大きく結界を張った。

階級区とされる部分の半分が結界で覆われる。

地響きのような音とともにドームの蓋が完成し、

その上から悪霊を抑え込むように

トリアとシェデムが重ねて結界を張っていった。

中枢の建物は、

閉じ込められた状態になり、

結界区内にいた議員たちもパニック状態で、

倒れるものも続出。

モニターを見つめるトップたちは、

何が起こっているのか分からないまま、

部屋から出ることもできずに青ざめていた。


一人が確認の為、室内を出ようとしてその場で失神。

「おい! どうなってるんだ! 」

内線も通じず、

ネットからはAIの動画のみが映し出されている。

「これは何だ! 国土交通省、AI推進庁は何をしている! 

乗っ取られたでは済まされんぞ! 」

トップの声が室内に響くも、何もできない。

「おい! そのドアを壊しても構わん! 蹴破れ! 」

トップの怒声に近くにいた、

若い大臣が椅子を持ち上げる。

若いと言っても五十代だ。

椅子をドアに向かって投げつけると、

それは忽然と視界から消えた。

まるで見えない空間に吸い込まれるように消失した。

恐ろしい光景を目の前に、誰もが口もきけず、

腰を抜かして床に倒れ込む。

「………おい、誰でもいいドアノブを壊せ! 」

だが誰も動かない。

「私の言うことが聞けんのか! 」

顔を真っ赤に怒鳴り散らすトップに、

周りは疲れ切った様子で椅子に座った。

「だったらあなたがやったらいい」

「なんだと? お前………散々面倒を見て、

大臣にまでしてやってその言い草か! 」

「私は党は同じでも、あなたの派閥ではない。

オヤジは大沢ですからね。

大沢亡き後、あなたに拾われた形ですが、

私の家系はあなたの家とは、

比較にもならないほどの階級区出身です」

彼はそう言って人差し指を上に向け、

天上を見上げた。

その場にいた者達は二人の会話に青ざめたまま、

何も言わずに見ていた。

「この状況は私にとっては何の得にもならない」

彼はそういうと椅子の背にもたれかかり、

小さく笑った。

この男は利口なのか愚かなのか、

なんの成果も出さずとも、

黒地国民の支持率も高い。

大沢の前にこの国のトップとして、

長く君臨してきた人物の子息で、

現在の幸福庁の前身、国民幸福庁の長官も務めてきた。

怒りに全身を震わせるトップの姿に、

周りがピリピリしていると、

この建物の外を映し出すAIキャスターと画像が、

彼らの目に飛び込んできた。

「な、なんだ………何が起こったんだ………」

室内にいた者達の血の気が引いた。


向井は牧野とともに結界の中に入ると、

「俺はこれから少し幼稚な仕掛けをします。

牧野君はこの悪霊をできるだけ除去してください」

と言った。

「俺一人でこれ全部は無理だよ」

牧野が不満を垂れる様子に、

「この中を出来るだけ除去してくれれば、

それでいいですよ」

それだけいうと、向井はその身に龍神の姿を重ねた。
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