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番外編 西支部

玉木の後悔

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玉木の後悔に母は、

「もうこれだけ生きられたから十分よ」

かかりつけ医に何とかお願いして、

治療費は高額になったが、

最期は静かに息を引き取った。

そして個体識別番号不明のまま焼却され、

骨は樹木葬にした。

戸籍なんかすでに役立たず。

今ここで自分が殺されたとしても、

もう何もない。

ただ、最後に一矢を報いたかったのだ。


「水沢さん、聞いてるか?

遅いかもしれないが、

俺も今から闘う!

君が姿を見せないのは、

捨て地にポイント釣りのスパイがいるからなのも知っている」

その話に捨て地で何人かがビクッとした。


「あははは。ホント、人間て笑える~」

牧野が話を聞きながら捨て地の人間を見た。

「笑ってるけど、牧野君も人間だからね」

ティンが苦笑した。

男の話は続いた。


「俺は今から捨て地に入る。

俺が所属していた新聞社は大沢幹事長の頃から、

○○党と蜜月関係にあった。

チップの事も天下りも裏金も個人情報漏洩も、

全て知っていて見て見ぬふりをしてきた。

人生は短い。味方もいない中で、

命をかけてまで闘うなんて馬鹿げている。

でも俺は変わる。

捨て地住民とともに闘うよ。

結果変わらなくても闘う」

玉木は自分を遠目に見ながら、

カメラを回すメディア、動画アーティスト、

スマートゴーグルをかける者達を見回した。

彼らにとって俺が言ってることなど、

一ミリも伝わらないのも分かっている。

国に逆らって殺されるなんて、

馬鹿のやる事だと笑われていることも知っている。

それでも闘っている人がいるなら、

自分もそうしようじゃないか。

そんな事を思う玉木をライフルが狙っていた。

防衛戦闘部隊が心臓と眉間に照準を合わせていた。

玉木は中央に立ち水沢に向かって話す。

「この国はこのままいけばいずれ沈む。

だから俺も抗ってみようと思う。

権力者におもねるものにも興味はない。

連絡が欲しい」

玉木はそういって自分を見つめる者達を一瞥し、

捨て地に向かった。

「おい、そこに行けばお前はもう罪人だぞ」

警官の一人が声をかけた。

「何の罪なんですか。政権に逆らうと罪人なんですか。

選ぶ権利も自由もないんですか。

黒地で顔色窺って暮らすのにも疲れました。

捨て地に弾かれたら俺はそれだけの人間てことですから」

玉木が歩き出す姿を皆、固唾を呑んで見ていた。

奴が入れるなら、

俺も、

私も、

入れるんじゃないか? 

中の様子と情報が分かれば賞金が貰える。

SNSに流せば、

俺は、

私は、

一躍有名人なんじゃないの? 

そんな事を考えている者達の周囲に悪霊が集まって来た。


「ゲッ、何あの塊」

牧野が様子を窺いながらうんざりした顔をした。

「まずはあれを除去しないとね」

ティンが言ったところで、

狙撃手が玉木にライフルを放った。

その瞬間、

向井の中の龍が現れ、玉木を包んだ。

銀龍は弾丸を消滅させると、

狙撃手へ向けて炎の刃を放った。

突如現れた龍に野次馬達の体が、一瞬恐怖で固まる。

龍は中央人を威嚇するように動き、

玉木を守りながら捨て地へと消えた。

玉木も少し怖かったのだろう。

ホッとした表情で立ち止まると息をついた。

それを見ていた者達が、

我先にと撮影しながら捨て地に走ってきた。

瞬間、弾かれるもの、消去されるものが、

見物人の眼前でふるい落とされた。

黒地に悲鳴が響き渡る。

散々経験してきただろうに、

それでもその状況を見たことのない者達は、

恐怖で顔が引きつっていた。
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