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お引っ越し編
23・磨いて晩餐
しおりを挟む場所を移して煌びやかでとても広い食堂。
次々に運ばれていく前菜にスープにお高そうなお肉のワイン煮込み。
純白のテーブルクロスに、ピッカピカに磨かれたカラトリー。
そしてこざっぱりと着飾ったレクスと私。
向かい側にはマッシュさん。
「全く、これがウチのSランクの姿か? Sランク冒険者たるワシと晩餐しようというのにその格好は何だ」
との一言により、私達はマッシュさんのお屋敷にある大浴場にぶち込まれて丸洗いされた。
私達は正直お風呂が男女別と言う事にカルチャーショックを受けた。よくよく考えたら当たり前ではあるんだけど、レクスと別の場所で汚れを洗い流すって発想がなかなか思いつけなかった。本当に、性別が別って事を考えたら当たり前の事だったのに。レクスは私とは別の性別の人だって知っていたのに。
花の様な果実の様な、素敵な良い香りのする泡の出る液体で丁寧に洗われた髪は、ツヤッツヤのさらっさら。アキノ村では見た事がないくらいに泡立ち豊かな石鹸ですみずみまでさっぱりと身体中を洗い、金木犀の香りのする化粧水というので乾燥に備えお肌を保湿する。それが秋の女性の嗜みなんだとか。
メイドのお姉さん達が親切に色々教えてくれた。
その上、お土産だとそれらのお泊まりセットをたっぷり贈ってもらってしまった。
一応遠慮したのだけれど、私達からもムルーお嬢様を救って下さったせめてものお礼をさせて下さいって押し切られてしまった。
洗髪剤とか髪を保護する為の香油、化粧水、保湿クリーム、リップクリーム。
木枯らし吹く野外で辛うじて生き延びてきた私には過ぎるもの、まるで普通の女性みたいに自分を綺麗に磨くためのアイテム達。
容器からしてもう可愛い。
きらきら。
オシャレで素敵。
良いのだろうか。
私がこんなに素敵なものを使ってしまっても。
メイドさん達はにこにこと頷いてくれた。
だから私はちょっと勇気を出して精一杯の笑顔でお礼を言った。
これ位は当然です、とちょっとお姉さんみたいな大人っぽい、でも度胸がない私でも着て縮こまらない位に可愛い感じの、ちゃんとしたディナーでも着ていけるらしいややフォーマル? なワンピースも着付けしてもらって、何だかもうお嬢様みたいだ。
髪も丁寧に梳かしてもらって、上品に結い上げてもらって。それから薄らとお化粧までしてもらった。
メイドさん方は私がお化粧なんて今まで一度もした事がないって分かってたみたいで、懇切丁寧にやり方まで教えてくれて、それから私に似合うって言ってくれたお化粧のセットまでお土産にもらってしまった。
それらを軽量化魔法がかけられた可愛らしいショルダーバッグに詰め込んで、是非持ち帰って活用して、これからも素敵な彼氏さんをメロメロにしまくって下さいねって応援されてしまった。
私は真っ赤な顔で頷きまくって、それから最敬礼でお礼を言いまくった。メイドさん達は恐縮しながらも微笑ましげに見送ってくれた。
私史上最高にぴっかぴかに磨き上げられた状態でレクスと合流した。
「ごめんねレクス、お待たせしました」
「!!!」
途端に、緑の瞳をかっぴらいたレクスが一瞬にして素っ飛んできて私の両肩をつかんだ。
「これ以上可愛くなったら危険すぎる!!」
「えっ??」
「めちゃくちゃ可愛い。可愛いの可愛いが可愛すぎてヤバい。具体的には」
「おい止めろ。せめてメシ食ってからにしろ」
「はーい」
「???」
一体何の話をしてるのだろうか?
呆れた様子のマッシュさんに促されて食堂に案内される私達。
頭に疑問符が浮びまくっている私の手を取りすっとエスコートしてくれるレクス。
その所作は洗練されてて、顔の良さとスタイルの良さを引き立てる。
同じくマッシュさんに贈られたのだろうフォーマルな衣装が何だか物語に出てくる王子様みたいで、余りにも完璧な男の子に見えて気が引けてしまう。
凄すぎるひとの傍に私が居て良いのだろうか。
何時も何時だって隙あらば湧き上がってくる遠慮が性懲りもなく顔を出す。
「リコが世界一可愛いのはオレの世界の真理だけど、一応オレも着飾ったんだぜ。どうかな? リコにとって格好いいか? 惚れ直すか??」
褒めて褒めてという顔をしているレクス。
レクスはとっても凄いのに、一生懸命に一心にひたむきに、私を想ってくれている。私の逃げ腰な姿勢を見透かし、解きほぐそうとしてくれている。
じんわりと胸が温かくなった。
私はレクスの見た目の格好良さに圧倒されて、萎縮していた気持ちがほわっと解れて思わず微笑んだ。
「レクスは何時だって格好いいけど。王子様みたいで格好いい、です」
「なんで敬語」
「……なんとなく」
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