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お引っ越し編
22・見えない声
しおりを挟む「えっ」
ノヴェンさんは通信魔法を展開させている。
「カイエ防護魔法管理局に結界強化の伝令を。
Aランク冒険者は全員、本部にて待機。
飲食は控えめに、酒は厳禁だ。
Bランク冒険者は何時もの組み方で3人組を作って偵察を。
分かっているだろうが、発見しても決して手を出さない事!
それ以下のランクは連絡なくば自宅待機」
マッシュさん配下の魔法使いの女性は「私、屋敷の結界強化してきます」と走り去っていった。
大人達が物凄くぴりぴりとした雰囲気を放っている。ノヴェンさんはきびきびとマッシュさんに問う。
「マッシュさん、即ギルドに帰りたいんで馬借りて良いですか」
「二頭だな。良かろう」
「有り難うございます」
「レクスくんとリコさんは2時間ほどここで警戒しててくれる? それくらいで次の護衛を派遣できると思うから」
「構いませんよ」
「今日はドラゴン討伐したばかりなのに、連戦させてごめんなさいね。今から2時間分の護衛代は後日支払います。魔王対策費用は国から頂けるので」
矢継ぎ早に2人は言うと、慌ただしく屋敷を後にした。
レクスは静かに警戒態勢。
私もとりあえずお屋敷全域にミツバちゃんの結界を展開して貰った。お屋敷本来の決壊もあるけど、お給料貰ったお仕事なので一応ね。
場にはレクスと私とマッシュさん。
奇しくも私以外魔法の適性が低いメンバーだ。
それから疲れ果ててベッドで眠るムルーちゃん。
マッシュさんはムルーちゃんにたくさん謝ってたくさん抱き締めた後、眠るムルーちゃんの手を握っている。
「魔王って本当に居るんだな」
「ほんと、架空の存在だと思ってたよ」
「残念ながら本当に“秋”には魔王は居るぞ。ワシも数回目撃した事がある」
「えっ、そんなに身近な存在なんですか」
「ていうか、なんでこのタイミングで魔王ってのが出てくるんだ?」
「魔王はな、つまりは魔族の王だ。ここ“秋”においては魔族が生成されると何処からともなく魔王がやって来て、魔族をさらってしまうのだ。お仲間集め、なんだろうな」
「お伽噺みたく魔王軍とか作ってるんでしょうか」
「さあな。現状、軍勢と呼べる程の勢力ではないと“千秋の奥方”は仰ったらしいが」
「仲間だけで集まってる分には別に良いんじゃないか? こちらに仕掛けないなら好きにしたら良い」
「そうは言うがな」
レクスとマッシュさんのお話は続いているけれど。
「!!?」
私はふいに視線を感じた。
……生まれたて、救えなかった。
そんな声が聞こえた。
声の方を向こうとする、ほんの刹那。
ああ、みつけた。
何かに驚いた声。
視線は確かにリコを突き刺していた。
けれど振り返ったら、もう気配は消えていた。
ごくごく薄い気配だった。
まるでそう、リコの猫たちが人目を避けている時の様な微弱な気配。
いや、それらよりもより淡い、夢幻。
「リコ?」
「……何か淡い気配が。でも消えちゃった」
「もしや魔王か? 何か他に情報は」
「感知したのは気配と声だけ。姿は見てません。救えなかったって言ってました」
「そうか。それは魔王の可能性が高いな。撤退したか。まあ、万が一がある。1日くらいは警戒しておくべきか」
マッシュさんは配下の魔法使いの女性に通信魔法をして貰って、どこか、恐らくは冒険者ギルドに連絡を入れていた。どうやらギルド側もマッシュさんと同じ意見らしい。
それから指定の時間通りに護衛の人達がやって来て、私達は無事にお役御免になった。
「今日オレ達頑張ったから肉食おうぜ! ちょっと高いのな」
「うん。今ちょっと私達お金持ちだから、思い切って奮発しちゃおう」
「お前らワシを馬鹿にしとるのか? それくらい家で食ってけ。先輩が良い肉を食わせてやろう。良い商談もあるからの」
「え、良いんですか」
「つまらん遠慮するな。ここは先輩の顔を立てんか」
「有り難うマッシュさん! ご馳走になります!」
タダほど恐いものは無い。
私達はそれを学ぶ良い機会を得てしまった。
や、最終的に別に損はしなかったんだけど。
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