ダンジョンライフ

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第13話

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突然の申し出に困惑する。
これを受けるか受けないかはともかく、理由も聞かずに断るのは心苦しい。

「どうしてだ?自分で言うのもなんだが32歳の.......それも男だぞ?」

当たり前の話だが、ダンジョンでPTメンバーは数週間、下手すれば数ヶ月行動を共にしなければならない。
男女でPTを組む場合、普通は恋人同士であるとか、そうでなくてもよっぽど信頼出来る相手でなければいらぬトラブルを招く可能性が高くなる。
にも関わらず、初対面の男にPTを申し込む等普通はありえないわけだ。

「えぇ!佐々木さん、32なんですか?!私と同じかちょっと上ぐらいかと.......ごめんなさい!」
「いや、若く見られて悪い気はしないからいいよ」

両親や達郎も言っていたが俺は大学生ぐらいに見えるらしい。

「それで、何か理由でもあるのか?」
「それがーー」

彼女の名前は神谷 涼子かみや りょうこ、19歳の大学2年生。

彼女の話はこうだ。
人の良い彼女の父親が知人の借金の連帯保証人になる。
しかし、その知人がその金を持ったまま行方不明に。
それを知った借入先の金融機関が返済を迫ってきたーーというものだ。

なんともありがちな話というか.......。
彼女の親父さんはその知人とやらに騙されたような形だが、契約書そのものに不備はなく、金融機関としては何としてでも回収せねばならない。
その為の連帯保証人だしな。

「その借金っていくらなのか聞いても良いか?」
「.......1億円.......です」
「1億?!」

うわぁ.......。
彼女の両親は青果店を営んでおり、その店も祖父母から受け継いだものらしい。
このままだと当然返済はできず、自己破産となれば資産は差し押さえられてしまう。
当然その青果店や土地は手放すことになる。
彼女はどうしてもそれだけは避けたいらしい。

「事情はわかった。となると君の狙いはーー」
「はい。スキルオーブです」

スキルオーブ。
使用することでスキルを獲得できるあれだ。
強力な魔物程そのドロップ率があがり、スキルランクも高くなる。
ただ、ホーンラビットやゴブリンから出る可能性もゼロではなく、世界で1億人以上の探索者がいる以上、既にそれなりの数のスキルオーブが確認されている。
日本のダンジョン協会におけるスキルオーブの買取額はランクにもよるが最低でも数百万円。
ダンジョン攻略に有用なものであれば数千万円から数億円の値がつく。

「それに、仮にスキルオーブが出なくても上級ダンジョンで取れる素材ならそれなりに稼ぐことができます」
「なるほどな」

スキルオーブが出る確率はダンジョンの難易度が高い程高くなるという統計が出ている。
それに、ドロップする魔石や各種素材も上級品の方が断然買取額は高い。
彼女が探しているのは上級ダンジョンでやって行けるパートナーだった。

「君の目的はわかったけど、それがどうして俺なのかがわからない」
「それは佐々木さんが強いからです」
「強い?俺がか?」

いや、実際に強いかもしれないが.......どういうことだ?

「はい。一目見た時から佐々木さんは強い人だと感じました。存在感というか.......とにかく少なくとも私とは別次元の何かを感じました」

そういえば達郎も似たようなことを言っていた。
詳しく話を聞くと、彼女は高校時代に薙刀をやっており、全国大会で優勝経験もあるらしい。
それが探索者資格を得るきっかけでもあると。
その経験からなんとなく自分よりも強いか弱いかはわかるとかなんとか。

「君の言う通りだとして、俺に何のメリットがある?こう言っちゃ悪いけど探索者にはなったがそこまで積極的に潜るつもりは実はないんだ。食っていくのにもお金にも困ってるわけじゃないしな」
「それは.......」
「それにダンジョンでのリスクも考慮しないといけない。仮にそれを考慮しないとしても、スキルオーブを金にしたいのは君の都合でしかない。ものによっては揉める可能性もあるぞ?」
「.......」

可哀想だが嫌な大人を演じて諦めて貰う他ない。
ここで引き受けてしまえば次に似たようなことになった時に断れなくなってしまう。

「ーーしてーー」
「え?」
「私のことを自由にして貰って構いません!それにまだ処女ですし!」
「は?」
「だからーー」
「ちょっと待て!聞こえてるから繰り返さなくて良い。というか、本気で言ってるのか?」
「私は本気です!冗談でこんなこと言いません」
「おいおいおい.......」

この子、目がマジだ。
ちょっとやばいな。
もし俺が断ったら他の誰かに同じような相談をするだろう。
相手が女性ならまだしもそうとは限らないし、父親の血をついでるというかなんとなく騙されそうな雰囲気もある。
最悪1人で無茶をするって可能性も.......。

俺のスキルオーブを売って金にしてそれを貸してやるか?
いや、それだと根本的な解決にはならない。
当面の問題は解決するかもしれないが、彼女の言い分を撤回させることは無理だ。
美人だし?正直好みだと言わざるを得ないが、こういう形は流石に望んでいないからな。

しかしどうする?
ここまで来ると引き受けた方が良い気もするがーー何か良い方法はないか?

どうにかして自然な形で借金がなくなれば良い。
一番良いのはその知人とやらから金を取り返すことだ。
ただ、いまいち現実的じゃない。
国内にいるならともかく、海外に高飛びされていれば探すのは無理だろう。
そうなると返済期限やどのような返済プランになっているかによるが、彼女の両親が余裕で返済できるほど稼ぐとか?
そういえば青果店を営んでいるとか言ってたな.......。

「なぁちょっと良いか?」
「はい!私を自由にーー」
「だあー!落ち着け。それはとりあえず置いておいて、提案があるんだが」
「提案ですか?」
「ああ、それはなーー」



~~~~~



「すごいすご~い!ここが龍一さんの農場ですか!」

俺は涼子を自分の実家まで連れてきた。
ここまで来る間に俺は彼女のことを名前で呼ぶように強く言われてしまったのでそうしている。
せめてもの仕返し?ではないが、龍一さんと呼ばせることに成功した、ふふん。

「別に対した規模でもないと思うが」
「そんなことないですよ!」

というか、涼子って初対面の時はもっと清廉なお嬢様なイメージだったけど、素だと結構アクティブというかなんというか。
それはともかく、俺が涼子をここに連れてきたのには理由がある。
別に何かいかがわしいことをするわけじゃないぞ?

俺が涼子を連れてきたのはこの農場で採れるあれーー魔野菜ーーを見せるためだ。

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