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第8話
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「また来いよ」
「おう。本当に再就職はしないのか?」
「今のところは考えてない。ここでの生活が充実してるしてるしな」
「そうか。じゃあな!しば太もまたな」
「わん!」
その後も達郎と昔話に花を咲かせ、しば太を存分にもふって帰って行った。
俺も久しぶりに会えて良かったと思う。
達郎の乗る車が走り去るのを見送る。
半年後、世界は劇的に変わるだろう。
地球全体が混乱し、犠牲も多く出るかもしれない。
だが、それは人類の自業自得とも言える。
「テトラ、俺は好きに生きるぞ。親父とお袋、しば太、達郎ーーせめて大切なものだけは守ってみせるさ」
そう言って横に座るしば太を撫でる。
綺麗な夕焼けが俺たちを赤く染めるのだった。
~~~~~
「しゃオラァ!テトラ見てるか?」
俺は勝利の雄叫びをあげた。
目の前には横たわる真っ白で巨大なドラゴン。
自身の持つ全ての力を使い切り、ボロボロになりながらも勝利を収めた。
ここは100階層ーー最終階層ーーだ。
その最奥に鎮座していたのが《ロード・オブ・ドラゴン アポカリプス》
ドラゴンの支配者、或いは王、或いは神。
そしてアポカリプスという名が示す通り、まさに人類への黙示録、終末を意味するにふさわしい存在だった。
片腕が吹き飛び、綺麗な部分がない程に傷だらけの体。
残りの生命力も一割以下、まさに満身創痍だ。
収納から最上級ポーションを取り出して無造作に体にぶっかける。
すると腕が傷口から生え、傷も瞬く間に治っていく。
「はぁ.......はぁ.......流石にしんどい」
傷や失った体力は戻りつつあるが、精神的な疲労はどうにもならない。
サムライオーガやブルーフェニックスの時も似たような状況になったが今回はそれ以上だ。
この巨体から繰り出される圧倒的なパワー。
スピードだけなら俺の方が上だったかもしれないが、攻撃に掠っただけでも大ダメージ必至だった。
最終的にはやつのブレスと俺の切り札がぶつかる形で決着したが、一歩間違えれば俺が死んでいた。
死んでも生き返るから別に良いじゃないかだって?
実は何やかんやで死に戻ったことがないんだよな。
だったらどうせなら完全攻略といきたいじゃないーー男の意地ってやつかな。
消えたドラゴンの後には家一軒もかくやというデカさの魔石と、割と大きめの宝箱が現れる。
「でっか.......あとは宝箱か」
宝箱が現れた時は中にスキルオーブやマジックアイテムが入っていることが多い。
ただ、今はそれを確認する気力もない。
「しかしなんとかなったな.......今日が12月24日、Xデイまであと一週間か」
もともと無理して攻略を進めていた訳ではなかったので、割とギリギリになってしまった。
テトラに格好悪いところを見せなくて済んだ。
「さて、のんびりしていてもしょうがないしお宝の確認でもしますか」
重い腰をあげて宝箱の元に向かう。
蓋を開けるとそこにはおそらくシリーズ装備一式に武器が数点、あとはスキルオーブとポーション類がいくつか入っていた。
「えっと、《神龍シリーズ》に《神剣アスカロン》《ロンギヌスの槍》《雷鎚ミョルニル》《神弓アルテミス》。スキルオーブは《時魔法》に《神龍化》、ポーションは《蘇生薬》か.......」
頭のおかしいレベルの欲張りハッピーセットだった。
鑑定すると時魔法がランクSで、それ以外は全てランクEX。
どれもがよく聞く神話に出てくる武器と同じ名称だな。
しかし残念なことに防具はともかく武器の方は俺のスキルだと使いこなせない。
ロンギヌスの槍とミョルニルは投擲武器としては優秀かもしれんが.......。
蘇生薬は寿命以外で死んだものを蘇生できるらしい。
魔法は使ってみないとわからないが、神龍化ってなんだ?
怖いもの見たさで使ってみるのもありか?
「検分は後にして先に進むかな。テトラが言うにはこの先にあれがあるはず」
アポカリプスが守護するように鎮座していた先にある扉の中に入った。
そこには少し広めの空間が広がり、中心には転移結晶のようなものが中心に設置してある。
「これがダンジョンコアか」
そう。
これこそがこのダンジョンの心臓であるダンジョンコアだ。
これを破壊するとダンジョンは機能を停止し、外からの侵入者を全て排出して崩壊するらしい。
俺はダンジョンコアにそっと触れてみる。
するとーー
『龍一君、攻略おめでとう!テトラだよ!』
頭の中に天の声さんと同じように声が響く。
『あ、これはダンジョンコアに触れると自動的に君に聞こえるようにしてある録音音声だから返事をしても無駄だぞ!』
音声はまだ続く。
『君にお知らせだよ。このダンジョンは世界にダンジョンが現れると同時に自壊するようになっているから、このコアは壊さなくて大丈夫。それまでは君が自由に使ってね』
そうか。
まぁまた来るかはわからんが。
『まぁこれだけかな。それじゃ、楽しいダンジョンライフを!』
確かにこれだけだったけど、テトラの声が聞けてよかった。
「帰るか」
俺は転移結晶の機能も備えているダンジョンコアを使って、地上に帰るのだった。
~~~~~
2021年12月31日。
曰本では大晦日というやつで、俺も両親と共に年越しの準備や家の掃除をしている。
「龍一、そっちは終わったか?」
「あとちょっとで終わる」
「そうか。トイレが終わったら次は風呂を頼む」
「りょーかい」
トイレ掃除を終わらせて、その流れで風呂掃除に入る。
まだまだやる事はあるのだが、風呂掃除を終わらせたあと、一旦リビングで一息つく。
テレビの画面は年末年始によくある特番が流れていた。
台所では年越し蕎麦と翌日のおせちの準備を親父とお袋が仲良くやっていた。
体に大きな変化が訪れて以降、2人は以前よりも仲が良い。
元々良い仲の夫婦だったが、ココ最近イチャイチャ度がましたというか.......下世話な話をすると今更弟か妹ができそうな勢いなんだ。
「にしても、平和なもんだな.......あと数時間したらどうなるのかね」
年明けには世界中にダンジョンが現れる.......はずだ。
余りにも普段通りというかまったりしているというか。
テトラなら「やっぱりなしね!てへっ」とか.......ないよな?
その後、なんとかやるべき事は済ませ、恒例の歌番組を見ながら出来たての年越しそばをすする。
しば太を撫でながら両親と取り留めのない話をする。
そしてーー
23:59:30
23:59:31
23:59:32
.......
.......
.......
23:59:57
23:59:58
23:59:59
2022年1月1日0時0分ーー世界はダンジョンを知る。
「おう。本当に再就職はしないのか?」
「今のところは考えてない。ここでの生活が充実してるしてるしな」
「そうか。じゃあな!しば太もまたな」
「わん!」
その後も達郎と昔話に花を咲かせ、しば太を存分にもふって帰って行った。
俺も久しぶりに会えて良かったと思う。
達郎の乗る車が走り去るのを見送る。
半年後、世界は劇的に変わるだろう。
地球全体が混乱し、犠牲も多く出るかもしれない。
だが、それは人類の自業自得とも言える。
「テトラ、俺は好きに生きるぞ。親父とお袋、しば太、達郎ーーせめて大切なものだけは守ってみせるさ」
そう言って横に座るしば太を撫でる。
綺麗な夕焼けが俺たちを赤く染めるのだった。
~~~~~
「しゃオラァ!テトラ見てるか?」
俺は勝利の雄叫びをあげた。
目の前には横たわる真っ白で巨大なドラゴン。
自身の持つ全ての力を使い切り、ボロボロになりながらも勝利を収めた。
ここは100階層ーー最終階層ーーだ。
その最奥に鎮座していたのが《ロード・オブ・ドラゴン アポカリプス》
ドラゴンの支配者、或いは王、或いは神。
そしてアポカリプスという名が示す通り、まさに人類への黙示録、終末を意味するにふさわしい存在だった。
片腕が吹き飛び、綺麗な部分がない程に傷だらけの体。
残りの生命力も一割以下、まさに満身創痍だ。
収納から最上級ポーションを取り出して無造作に体にぶっかける。
すると腕が傷口から生え、傷も瞬く間に治っていく。
「はぁ.......はぁ.......流石にしんどい」
傷や失った体力は戻りつつあるが、精神的な疲労はどうにもならない。
サムライオーガやブルーフェニックスの時も似たような状況になったが今回はそれ以上だ。
この巨体から繰り出される圧倒的なパワー。
スピードだけなら俺の方が上だったかもしれないが、攻撃に掠っただけでも大ダメージ必至だった。
最終的にはやつのブレスと俺の切り札がぶつかる形で決着したが、一歩間違えれば俺が死んでいた。
死んでも生き返るから別に良いじゃないかだって?
実は何やかんやで死に戻ったことがないんだよな。
だったらどうせなら完全攻略といきたいじゃないーー男の意地ってやつかな。
消えたドラゴンの後には家一軒もかくやというデカさの魔石と、割と大きめの宝箱が現れる。
「でっか.......あとは宝箱か」
宝箱が現れた時は中にスキルオーブやマジックアイテムが入っていることが多い。
ただ、今はそれを確認する気力もない。
「しかしなんとかなったな.......今日が12月24日、Xデイまであと一週間か」
もともと無理して攻略を進めていた訳ではなかったので、割とギリギリになってしまった。
テトラに格好悪いところを見せなくて済んだ。
「さて、のんびりしていてもしょうがないしお宝の確認でもしますか」
重い腰をあげて宝箱の元に向かう。
蓋を開けるとそこにはおそらくシリーズ装備一式に武器が数点、あとはスキルオーブとポーション類がいくつか入っていた。
「えっと、《神龍シリーズ》に《神剣アスカロン》《ロンギヌスの槍》《雷鎚ミョルニル》《神弓アルテミス》。スキルオーブは《時魔法》に《神龍化》、ポーションは《蘇生薬》か.......」
頭のおかしいレベルの欲張りハッピーセットだった。
鑑定すると時魔法がランクSで、それ以外は全てランクEX。
どれもがよく聞く神話に出てくる武器と同じ名称だな。
しかし残念なことに防具はともかく武器の方は俺のスキルだと使いこなせない。
ロンギヌスの槍とミョルニルは投擲武器としては優秀かもしれんが.......。
蘇生薬は寿命以外で死んだものを蘇生できるらしい。
魔法は使ってみないとわからないが、神龍化ってなんだ?
怖いもの見たさで使ってみるのもありか?
「検分は後にして先に進むかな。テトラが言うにはこの先にあれがあるはず」
アポカリプスが守護するように鎮座していた先にある扉の中に入った。
そこには少し広めの空間が広がり、中心には転移結晶のようなものが中心に設置してある。
「これがダンジョンコアか」
そう。
これこそがこのダンジョンの心臓であるダンジョンコアだ。
これを破壊するとダンジョンは機能を停止し、外からの侵入者を全て排出して崩壊するらしい。
俺はダンジョンコアにそっと触れてみる。
するとーー
『龍一君、攻略おめでとう!テトラだよ!』
頭の中に天の声さんと同じように声が響く。
『あ、これはダンジョンコアに触れると自動的に君に聞こえるようにしてある録音音声だから返事をしても無駄だぞ!』
音声はまだ続く。
『君にお知らせだよ。このダンジョンは世界にダンジョンが現れると同時に自壊するようになっているから、このコアは壊さなくて大丈夫。それまでは君が自由に使ってね』
そうか。
まぁまた来るかはわからんが。
『まぁこれだけかな。それじゃ、楽しいダンジョンライフを!』
確かにこれだけだったけど、テトラの声が聞けてよかった。
「帰るか」
俺は転移結晶の機能も備えているダンジョンコアを使って、地上に帰るのだった。
~~~~~
2021年12月31日。
曰本では大晦日というやつで、俺も両親と共に年越しの準備や家の掃除をしている。
「龍一、そっちは終わったか?」
「あとちょっとで終わる」
「そうか。トイレが終わったら次は風呂を頼む」
「りょーかい」
トイレ掃除を終わらせて、その流れで風呂掃除に入る。
まだまだやる事はあるのだが、風呂掃除を終わらせたあと、一旦リビングで一息つく。
テレビの画面は年末年始によくある特番が流れていた。
台所では年越し蕎麦と翌日のおせちの準備を親父とお袋が仲良くやっていた。
体に大きな変化が訪れて以降、2人は以前よりも仲が良い。
元々良い仲の夫婦だったが、ココ最近イチャイチャ度がましたというか.......下世話な話をすると今更弟か妹ができそうな勢いなんだ。
「にしても、平和なもんだな.......あと数時間したらどうなるのかね」
年明けには世界中にダンジョンが現れる.......はずだ。
余りにも普段通りというかまったりしているというか。
テトラなら「やっぱりなしね!てへっ」とか.......ないよな?
その後、なんとかやるべき事は済ませ、恒例の歌番組を見ながら出来たての年越しそばをすする。
しば太を撫でながら両親と取り留めのない話をする。
そしてーー
23:59:30
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.......
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23:59:57
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2022年1月1日0時0分ーー世界はダンジョンを知る。
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