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平和と無知
ある日のこと(無知)
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「拓人ーーー!!!」
いつものあさが来たと実感する様な大声で僕は起こされた。
「なんでございましょうお嬢様……こんな朝早くから……」
「暇なのよ!朝早くに起きても何もすることがないわ!」
また始まった………お嬢様の無茶ぶりである。無茶ぶりはいつもの事ながら、今回は随分と朝が早いのである。
「お暇なのでしたらもう一度眠られた方がいいでしょうに………」
「二度寝出来たら苦労しないわよ!眠くないの!」
「私は眠ぅございます……おやすみなさ……い……」
「寝かせるわけないでしょうが!起きなさい!」
お腹の上にのしかかられ、息が止まる。何とかギブアップの意志を示すと、お嬢様は降りてくれた。
「シ……死ぬかと思った………」
「参ったか!さっさと出かける用意をしなさい!」
「お出かけになられるのですか?昨日あれほど家にいると仰っておられたではありませんか……」
「気分が変わったのよ。家にいても何もすることがないじゃない?だったら出かけた方がその時間を有意義に使える気がするのよ。拓人も少しは運動したらどうなの。お腹のお肉たるんでるんじゃないの?」
「その心配はありません。お嬢様のせいでストレスや重労働で十分痩せておりますし、たるんで等おりませんので」
「むむぅ………とにかく!早く行くわよ!40秒で支度しなさい!」
「ハイハイ分かりました」
いつもの様に出かける支度をする。もちろんの事だが、お嬢様の方が時間はかかる。「早くしろ」と命じておきながら自分は支度に長々と時間をかけるのだから呆れ返ってしょうがない。
「お待たせしたわ。行きましょう」
「御意」
金木犀の咲き乱れる屋敷の花道を僕とお嬢様は2人で歩く。雨でも降ろうものならばすぐに散ってしまう金木犀だが、今年は異様に雨が少なく綺麗に咲いていた。
「金木犀の香りがするわね」
「それはまぁ、これだけ咲いていればいやでも香るとは思うのですが……」
「金木犀の花言葉は知ってるかしら?」
「はい、たしか……気高い人、気品のある人だったと思います」
「その通りよ!よく分かってるじゃない!」
「それがどうかなさいましたか?」
「どうかって………私みたいだってことに決まってるじゃない?気品があって気高くて美しい女性なんて私くらいしかいないわ」
「いえ、もっと気品のある方々はいらっしゃいますよ。お嬢様は5段階にしたら2くらいだと思います」
「なんですって!?」
またいつものように口喧嘩をしながら散歩をする。
「だいぶ進んできましたね」
「見て拓人!猫がいるわ!とっても可愛い」
猫は人懐っこいようでお嬢様に抱き上げられると嬉しがっていた。
「左様でございますね。野良猫なのでしょうか?それとも飼い猫なのでしょうか?」
「・・・」
「お嬢様……?」
私の言葉を前にお嬢様は黙り込んでしまった。何かを思い詰めた表情で……
「ねぇ……拓人。生物の根幹は命でしょう……?」
「はい、そうですね。序に、生物は全て生きる。そして生かされる。枯れる事の無い生命はありません。」
「私は………この猫を抱いて思ったわ………とても温かいこの身体の中枢に1つの小さな名状しがたいものがある。綺麗なのか醜いのかわからないものがこの猫だけでなく私達の身体にもあって、それが………得体の知れない何かが私達を動かしている……」
そこまで言うとお嬢様は猫を腕の中から離した。
「お嬢様。私にはやはりお嬢様の仰りたいことが分かりません」
「それでいいのよ、拓人。それもまた得体の知れない私の、貴方の何かによるシナリオなのかもしれないわ……」
お嬢様は涙を拭き、その場を後にした。お嬢様は帰り道に私に仰った。
「拓人。私には貴方が見えない、貴方はどうかしら……?」
私には応えることは出来なかった。理解出来ないというのも確かに頭の内にあった。しかし、お嬢様のその言葉に乗せて齎された笑顔が、私に答えを求める事を拒否していた様に思えたからだ。
そして……その三日後、鳳正院家の邸宅は再び襲われることになるーーー
いつものあさが来たと実感する様な大声で僕は起こされた。
「なんでございましょうお嬢様……こんな朝早くから……」
「暇なのよ!朝早くに起きても何もすることがないわ!」
また始まった………お嬢様の無茶ぶりである。無茶ぶりはいつもの事ながら、今回は随分と朝が早いのである。
「お暇なのでしたらもう一度眠られた方がいいでしょうに………」
「二度寝出来たら苦労しないわよ!眠くないの!」
「私は眠ぅございます……おやすみなさ……い……」
「寝かせるわけないでしょうが!起きなさい!」
お腹の上にのしかかられ、息が止まる。何とかギブアップの意志を示すと、お嬢様は降りてくれた。
「シ……死ぬかと思った………」
「参ったか!さっさと出かける用意をしなさい!」
「お出かけになられるのですか?昨日あれほど家にいると仰っておられたではありませんか……」
「気分が変わったのよ。家にいても何もすることがないじゃない?だったら出かけた方がその時間を有意義に使える気がするのよ。拓人も少しは運動したらどうなの。お腹のお肉たるんでるんじゃないの?」
「その心配はありません。お嬢様のせいでストレスや重労働で十分痩せておりますし、たるんで等おりませんので」
「むむぅ………とにかく!早く行くわよ!40秒で支度しなさい!」
「ハイハイ分かりました」
いつもの様に出かける支度をする。もちろんの事だが、お嬢様の方が時間はかかる。「早くしろ」と命じておきながら自分は支度に長々と時間をかけるのだから呆れ返ってしょうがない。
「お待たせしたわ。行きましょう」
「御意」
金木犀の咲き乱れる屋敷の花道を僕とお嬢様は2人で歩く。雨でも降ろうものならばすぐに散ってしまう金木犀だが、今年は異様に雨が少なく綺麗に咲いていた。
「金木犀の香りがするわね」
「それはまぁ、これだけ咲いていればいやでも香るとは思うのですが……」
「金木犀の花言葉は知ってるかしら?」
「はい、たしか……気高い人、気品のある人だったと思います」
「その通りよ!よく分かってるじゃない!」
「それがどうかなさいましたか?」
「どうかって………私みたいだってことに決まってるじゃない?気品があって気高くて美しい女性なんて私くらいしかいないわ」
「いえ、もっと気品のある方々はいらっしゃいますよ。お嬢様は5段階にしたら2くらいだと思います」
「なんですって!?」
またいつものように口喧嘩をしながら散歩をする。
「だいぶ進んできましたね」
「見て拓人!猫がいるわ!とっても可愛い」
猫は人懐っこいようでお嬢様に抱き上げられると嬉しがっていた。
「左様でございますね。野良猫なのでしょうか?それとも飼い猫なのでしょうか?」
「・・・」
「お嬢様……?」
私の言葉を前にお嬢様は黙り込んでしまった。何かを思い詰めた表情で……
「ねぇ……拓人。生物の根幹は命でしょう……?」
「はい、そうですね。序に、生物は全て生きる。そして生かされる。枯れる事の無い生命はありません。」
「私は………この猫を抱いて思ったわ………とても温かいこの身体の中枢に1つの小さな名状しがたいものがある。綺麗なのか醜いのかわからないものがこの猫だけでなく私達の身体にもあって、それが………得体の知れない何かが私達を動かしている……」
そこまで言うとお嬢様は猫を腕の中から離した。
「お嬢様。私にはやはりお嬢様の仰りたいことが分かりません」
「それでいいのよ、拓人。それもまた得体の知れない私の、貴方の何かによるシナリオなのかもしれないわ……」
お嬢様は涙を拭き、その場を後にした。お嬢様は帰り道に私に仰った。
「拓人。私には貴方が見えない、貴方はどうかしら……?」
私には応えることは出来なかった。理解出来ないというのも確かに頭の内にあった。しかし、お嬢様のその言葉に乗せて齎された笑顔が、私に答えを求める事を拒否していた様に思えたからだ。
そして……その三日後、鳳正院家の邸宅は再び襲われることになるーーー
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