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第八恋(1日目)

人生で一番長く二人で過ごした時間

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  現在、朝7時。 
  私は今、拓海君の家に来ている。拓海君に招かれたからだ。
 私は拓海君の父母親に挨拶をした。
「おはようございます。私を招いていただいてとても嬉しく思います。」
「いいえ、光希さんが拓海の現状を理解した上で付き合ってくれたことを大変嬉しく、有難く思っています。」
  拓海君のお母さんは丁寧に言葉を返してくれた。寂しさの篭った声で。
「母さん…………」
   私の隣には拓海君が居る。この風景を見れば誰だって結婚を申し出ている男女にしか見えないだろう。
「今日と明日私達夫婦は旅行に行ってきます。拓海との大切な一時をこの家で過ごしていただければ幸いです。」
 「ありがとうございます!」
 拓海君の両親は旅行に出かけて言った。
「取り敢えず、おはよう拓海君。」
「うん、おはよう。」
「朝食にしよっか。」
「どっちが作る?」
「折角だし、私が作った料理を食べてほしいから私が作るね。」
「じゃ、お願い。運ぶ時は言ってね。」
 私は拓海君が食欲がない可能性を考えて野菜を中心に朝食をつくった。
「ごめん運ぶの手伝ってもらえる?」
「了解!」


運び終えた後…………


「「いただきまーす!」」
二人して食事を始める。
「私の料理、不味くない?」
「不味かったら こんなにがっついてないよ。」
「いや、無理して頬張ってる可能性も否定はできないから……」
「まぁそうだけど、光希の料理が美味しいことは間違いない!」
 拓海君が親指を立ててくれた。
「そっか、ありがとう。」
 なんてことのない会話が続き朝食が終わった。
「食器洗ってくるから少し待ってて。」
「オッケー。」
  私は手早く食器を洗い後始末を済ませ、拓海君の傍に寄る。
「どうしたの?そんなにくっついて。」
「少しでも長くこの肌の温かさを感じていたいから。」
『僕が死ぬのはまだ先なんだけどなぁ………まぁいいや。』
「何か嬉しい。」
  そう言うと拓海君は私の肩を抱いてきた。私は拓海君に寄りかかる形になっている。
「今日は何をしたい?」
「拓海君がしたい事なら何でもいいよ。」
「じゃあ、散歩に行かない?こうしているのも悪くは無いけど、その………で、デートみたいな事をしようかなぁと」
「賛成!行き先とかは?」
「思うがままに行こう。時間は沢山あるからね。」
「じゃあ、ピクニックみたいな感じだね。お弁当持っていこうか?」
「そうだね、お弁当は僕が作るよ。」
「うん、お願いね!」
 私達は準備を終えて家を出発しました。
「近くの丘に登ってみようかな。」
「ああ。でも結構高いよ?体大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、体をぶん殴られるよりマシだよ。」
「それもそっか。」
   

暫く歩いて……………


「入口に到着ー。」
「じゃあ、早速登って行こう!」
  私達はずんずんと舗道された道を進んでいく。ただ、拓海君が少し辛そうだった。
「はぁ……はぁ………」
『参ったな、こんなに体力が無くなっていたなんて……』
「大丈夫?もっとゆっくり行こうか?」
「だ、大丈夫………そのまま進んで。あと少し登れば丘の上に着くから。」
「解った。けど、無理そうだったら言ってね。」
「うん、ありがとう。」
  そして私達は丘を登りきり、頂上についた。
「わぁ…………凄い。」
「ふぅ………。綺麗な景色でしょ?ここに来たかったんだ。」
「早速お弁当開ける?」
「花より団子みたいだね。良いよ、食べよう。」
「えへへー、お腹すいちゃったから。」
  私はお弁当箱を開けた。お弁当箱と言ってもバスケットなので、中身はサンドイッチだろう。
「わぁ!美味しそう!」
「うん、頑張っちゃったよ。」
  バスケットの中には色とりどりの具材が挟んであるサンドイッチが綺麗に沢山並べられていた。
「凄ーい!有難く頂くね!」
「うん、どうぞ召し上がれ。」
 一つ手に取り口に入れる。噛むたびに具材の美味しさが口いっぱいに広がり幾らでも食べられそうだ。
「美味しい?」
「うん!すごく美味しいよ!」
「ありがとう。」
  私達は暫くサンドイッチを食べて談笑していた。
  気がつけば日はかなり傾いていた。
「そろそろ帰らなくちゃね。」
「そうだねー。」
「…………何かあっという間だったね。」
「楽しい時間はあっという間だからね。」
「取り敢えず帰ろう。」
「うん。」
 私達は帰路についた。家に帰った時には薄暗くなっていた。既に夕食などは済ませ、後は寝るのみとなった。
「あの………拓海君………。」
「ん?」
「部屋って別々じゃなきゃ駄目?一緒に眠りたい。」
「光希さえ良ければ。」
「拓海君さえ良ければ。」
 お互いにクスッと笑った。
 拓海君が先に布団に入った。
「おいでよ。」
「うん……」
 私は内心『凄いはずかしぃ!』と心の中で叫んでいた。
「あったかい…………」
「このまま眠ったらまた明日は来るのかなぁって考えちゃうんだよね。」
「ーーーッ!」
「もう起きることは出来ないんじゃないかなとかね。」
  私は泣きそうになっていたが何とかこらえ言葉の続きを聞く。
「当たり前という事を幸せだと感じるのは当たり前じゃなくなってからなんだ。失って初めて知ることができる、不思議なものだよね。」
「……………」
「ごめん、無駄に長い話に付き合わせちゃって……寝て大丈夫だよ。」
  私は拓海君に思いっきり抱きついた。
「大丈夫だよ。明日はきっと来るから。私がきっと起こしてあげるよ!」
「ありがとう。おやすみなさい。」
「うん、おやすみなさい。」
 私は拓海君に抱きついたまま眠った。眠りにつく間際私の頬を涙が伝って行った。

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