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2章 オダ郡を一つにまとめる

106話 スエモリの戦い(後編)

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 城壁の後方で、弓兵隊の指揮を取るレーニン派の貴族の1人は、頭を抱えていた。

「馬鹿な!?何故、下から上に弓を当てられるのだ。それも頭上に突き刺さり絶命させるなど。並大抵の腕前では、ない。サブローに与する貴族にそんな強力な弓使いを擁するものがいるなど聞いたこともない。誰か敵の情報を知る者は居ないのか?」

「わかりません。どうやらサブローの後方に陣取る動物の毛皮を着込んだ異様な奴らの放つ弓の命中頻度が尋常ではないということしか」

「動物の毛皮を着込んだ異様な奴ら?そんな奴らを擁している貴族など居たか?いや、今はそんなことはどうでも良い!こちらの指揮系統が完全に乱される前に、こちらも弓で応戦して、相手を討ち取るのだ」

「それが相手がどう識別してるのか。指揮官ばかりが確実に狙われていて、もう既に指揮を取れるのは、貴方様を置いて他には、いません」

「何だと!?馬鹿な!?有り得ん!?こんなことが現実だと言うのか?」

「我々は、どうすれば良いですか?」

「今、城壁の最前線はどうなってるのだ?」

「敵のあり得ない攻撃によって、壊滅的な打撃を。相手がこの状況で縄梯子をかけて来ないのが不思議なくらいに」

「縄梯子をかけて来ないだと!?一体、何を考えているサブローとやらは?」

「指揮官様!報告します。三角屋根の付いた異様な物が城門に接敵」

 そう兵士が告げた瞬間、すごい大きな音がした後、城門が壊れて、間髪入れずに騎兵が雪崩れ込んできた。

「うわぁぁぁぁぁ」

「一体何が起こってるんだ!?」

「敵だ敵を食い止めるのだ!」

「おい、待て、何処に行く!?」

 様々な兵士の言葉が入り乱れる。

「我こそは、サブロー・ハインリッヒに仕える将軍ロー・レイヴァンドである。抵抗する者には容赦せん!」

「ひぃ!?サブローの右腕がここで現れるなんて、もうおしまいだ」

「ポンチョ隊、おいどんに続くでごわす」

「レイヴァンド卿の率いる精鋭部隊の援護のため、城壁を速やかに制圧、拠点を構築するのは、歩兵隊の役目と心得てください。では、皆さん師匠に続いてください」

「うおおおおおお!!!」

「オラオラ、貴族がなんぼのもんじゃ。死にたい奴からかかってこいや」

「なんなんだ。こいつらは!?こんな強い歩兵が居るなど聞いたことも。ガハッ」

 サブロー・ハインリッヒが選び抜いた歩兵隊の力は凄まじく、当初城壁を制圧するはずだったロー・レイヴァンドに、攻めを優先させることができた。

「フッ。若には本当にいつも驚かされるヤスの時もハザマオカの時も、そして今回も。後方は、ポンチョに任せて、我らは目標を変更する。狙うは、敵の副大将レーニン・ガロリング。全軍、続け~」

「あの騎兵隊をレーニン様の元に行かせるな。止めろ止めろ。グワァー」

 馬の突撃で簡単に吹き飛ばされていく、反乱軍の兵たち。

「これ以上、敵の侵入を許すな!弓から剣に持ち替えて、応戦するのだ!」

「皆さん、油断せずに対処するように、我々が負ければ、後方で控えるサブロー様に危険が迫ります」

「オラオラ。剣がなんぼのもんじゃ。こちとら、独自で使い慣れてない槍、毎日手に豆ができるまで振り回してんやぞ」

「なんなんだコイツらの訳のわからん強さは、必死で学んだ剣術が全く通用しない。いや、型にはまってないから防げ。グフッ」

「おっしゃあ。1人。次はどいつや。オラァ」

「何故?何故?何故?こうなった?何処で間違えた?貴族の在り方を根本から崩そうとするサブローに付かなかった時からか?誰か嘘だと言ってくれ。何故。何故。こんなに我らの屍が築き上げられている?レーニン様、早くお逃げ。ゴフッ」

「今の男で城壁の敵は最後でごわすな。半分は、セルと共に拠点の構築、残りの半分はおいどんに付いてくるでごわす。戦はまだ終わってないでごわすよ!」

「師匠、こちらはお任せください。レイヴァンド卿のこと、頼みます」

「承知でごわす」

 ポンチョ・ヨコヅナがそう言って、その場を後にすると残ったセル・マーケットは直ぐに指示を飛ばす。

「スナイプ殿に合図を。こちらに移動の後、各所の支援をと」

「はっ」

 弓鳴りの音を聞いて、スナイプ・ハンター率いる動物の毛皮を着込んだ兵たちが制圧の完了した城壁に駆けつける。

「流石の手際の良さだなセル殿」

「スナイプ殿の支援あってのこそです。補給は間に合ってますか?」

「少し遅れているな。ウマスキ殿に何もなければ良いが」

 そんな心配をよそにウマスキ・ダイスキののほほんとした声が聞こえる。

「もう。輸送先に行ったら誰もいないから心配したじゃないですか」

「ウマスキ殿、半日の遅れだぞ」

「スナイプ殿。そのことは、素直に謝ります。部隊を再編成していたので」

「もしかして、敵の奇襲を?」

「セル殿、心配してくれてありがとうございます。敵の奇襲ではなくて、今3日おきに届けているのを部隊を3つに分けることで、毎日届けられるように」

「ほぉ。それは朗報と同時に俺にもっと働けと?」

「スナイプ殿、別にそんなこと言ってないでしょ。物資の数を減らす代わりに毎日届けられるようにしただけなので、物資の総数は変わりませんよ」

「成程、今まで、考えながら無駄撃ちを避けていたスナイプ殿の負担を軽減しようと考えたのですね?」

「そうよ。毎日、少しでも矢が届くと知れば、気持ち楽になるでしょ?」

「いや、考えながら使えば良いことだからどっちでも別に構わん」

「ムキー。そう言う素直じゃないとこ。全然可愛くない!」

 こんな感じで、スエモリ城はレーニン・ガロリングの籠る城内を残すのみとなった。
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