信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
上 下
93 / 140
2章 オダ郡を一つにまとめる

93話 4郡会談

しおりを挟む
 タルカ郡のデイル・マルの元に、ナバル郡のドレッド・ベアの代理としてサム・ライ、チャルチ郡を治めるアダムス・プリスト、その弟でマリーカ郡を治めるリチャード・パルケスが集まった。

「ヒヒッ。この度はきてくれて感謝するよ。アダムスにリチャード」

「ハインリッヒ卿のことで、火急の要件と聞けば、来るしかあるまい。あの御仁は、危険ゆえな」

「相変わらず白々しいねマル卿。こちらの弱みを陛下に告げると脅しつけておいて」

「ヒヒッ。脅しつけたなど心外ですなぁ。この国が禁止している宗教を熱心に」

「弟が申し訳なかった。それぐらいにしてくれるかデイル様」

「ヒヒッ。リチャード君もアダムス君みたいに従順じゃ無いと。うっかりと話しちゃうかもしれないねぇ。ヒヒヒ」

「ハァ。失礼しましたデイル様」

「わかれば良いんだよリチャード君、早速本題にはいるとしようかなぁ。陛下の御前で、うちを一方的に悪者にしたオダ郡のクソガキに痛い目にあってもらおうと思っていてねぇ。内乱に乗じて、攻めることにしたよ。ヒヒッ。アダムス君とリチャード君は、ドレッド殿と共にハザマオカを迂回して、攻め込んでもらおう。ハザマオカは、こちらに任せてもらうよ。ヒヒッ」

「デイル様、お一人で大丈夫ですか?」

「アダムス君の心配は有難いけどねぇ。ハザマオカは、何が起こるかわからないからねぇ。これも僕の優しさとおもってくれたまえよ」

「どうせ、こちらに任せて自分は睨み合いでもして、口実を作る算段なだけでしょ」

「ハァ。リチャード君、僕を目の敵にするのはやめたまえよ。うっかり口を滑らせて、あんなことやこんなことまでぶちまけちゃうかもしれないよ?それでも良いのかなぁ?ヒヒッ」

「リチャード、お前は言われたことだけをやっていれば良いのだ!一々、口を出すな無礼者!」

「兄さん。わかったよ」

「アダムス君、弟の躾は頼むよ。じゃないとあのことを陛下にうっかりと話してしまうからねぇ」

「承知しました」

 リチャード・パルケスは、体裁を守るあまり、時世の読めない兄の説得は不可能だと感じた。
 かと言って、兄を簡単に見捨てる事もできない。
 デイル・マルに良いように使われて、捨て駒として使われることを許容して良いのか。
 そこで、リチャード・パルケスはキチョウ・プリストの言っていた言葉を思い出す。
 サブロー・ハインリッヒが私の思う人であれば、今味方についた人を悪く扱いはしないと。
 しかし、それは兄を見捨てる事と同じ。
 果たして、本当にそうであろうか。
 兄を助けるために敵方とあえて通じることもできるのでは無いか。
 いや、やはり不義には変わり無いか。

「リチャード、さっさと来い!」

「今行くよ兄さん」

「全く、トロ臭くて、ダメな弟を持つと兄は苦労する」

「アダムス君、本当のことを言ったら彼が可哀想じゃ無いかい。ヒヒヒ」

「いえ、この馬鹿には一度きちんと上下関係を叩き込む必要があります。デイル様の言葉に口答えせぬように」

「ヒヒッ。徹底的に頼むよ。アダムス君には期待しているからねぇ」

「有難き幸せ。陛下の御前では、あの体たらく失礼した。我が家の汚点のことを黙っていてくださり、本当に感謝しております」

「良いんだよ。今思えば、あれは出来レースみたいなものさ。クソガキがどうやって宰相殿を味方に付けたのかは知らないけどねぇ」

「全くです。しかし、陛下の言葉を違えて協力するのだ。ベア卿の強力なカードは、よほど信頼できるのであろうなサム殿」

「アダムス殿。期待して良い。それに我らは血判状で結ばれた兄弟となった。生きるも死ぬも同じぞ。協力は惜しまん。今、内乱に荒れるオダ郡へと攻めかかれば、その地を得られよう」

「では、頼んだよサム殿」

「そちらも二の足は踏まぬように」

「わかった。わかった」

 こうして、アダムス・プリスト、リチャード・パルケス、サム・ライが席を外す。

「ヒヒッ。ハザマオカの前線に派兵した駒に働いてもらうとしますかねぇ。リゼット君に指令を届けてもらえますかな?」

「イエッサ!」

 オダ郡、ハザマオカに急造された城の牽制のため、国境線の兵士詰所を任されているリゼットの元に、本部からの指令が届けられる。

「ふむ。ふむ。な、なんと!?ハザマオカに駒を動かせと。しかし、あそこは首を飛ばす風が吹く地。対策が無ければ、駒が減るだけですが。まぁ、駒の心配など必要ありませんな。わかりました」

 デイル・マルは、厳格な上下関係で民を縛る独裁者である。
 領主のデイル・マルが王。
 イエスマンである幹部が監視員。
 その下に兵士、奴隷兵、駒であり、彼らには尊厳が与えられない。
 即ち生きるも死ぬも王であるデイル・マルの機嫌次第なのである。
 その中でも駒というのは特に酷い扱いで、家族を人質に使い捨てにできる人間たちのことを指している。

「喜べお前たち。我らが王から命令が降った。こちらからハザマオカを攻める。駒共、栄えある先陣を任す。大いに働くのだ。逃げ出そうとしたり、敵に降ろうとすれば、どうなるかわかっておろうな」

 リゼットは、こう脅して、駒共をハザマオカへと進ませたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...