上 下
74 / 99
2章 オダ郡を一つにまとめる

74話 ルルーニ・カイロという男

しおりを挟む
 ルルーニ・カイロが話を始める。

「あの、宿屋の主人とは、いつからこのような関係に?」

「お前の話とは、関係ないと思うが気になるか?」

「気にならないかと言えば嘘になります。元マジカル王国の魔法師と近衛騎士といえば、父を含め徹底的にやられたことがあります。遺恨なく匿えていることに」

「それなら知ってるのはワシだけだからな。此度、お前に教えたのは、敵地に1人で乗り込んできたお前の胆力を見込んでのことだ。このことを爺様に話すつもりなら話しても構わん。信じないだろうがな。ハッハッハ」

「ガロリング卿のことをよくご存知ですね」

「どうせ、母を引き込んだのも。この地を売り渡す相手への貢物だろうしな。爺様の中で、俺も必要のない人間となったわけだ。無論、こちらも親族だからとて容赦するつもりはないがな。寧ろ、消化試合でつまらないと思っていたぐらいだ。お前ほどの男と母が本気で立ち塞がってくれるのなら楽しめるというものよ」

「これは手痛いところを突かれました。俺が危惧していたのもまさにそれです。マーガレット様は、戦場で死ぬことを望んでおられます。我が子のために」

「であるか。それゆえ、遠慮して欲しいということなら飲めんぞ」

「何故!?」

「それは、母の覚悟を無にする行為ゆえよ。それに、母のことをナバルのドレッドに渡したくないのならお前が頑張るしかあるまい。努力なくして、掴める幸運などなかろう」

「ぐぐぐ。具体的に貢物として渡されるであろう人物まで特定しておられましたか」

「予想を立てただけのこと。しかし、タルカが黙っておるであろうか。いやはや楽しみよ。こちらの思惑通りに進む展開は、策を巡らした甲斐があるというもの」

 ルルーニ・カイロは、嬉々として話すサブロー・ハインリッヒに内心恐怖を抱いていた。
 祖父であるレーニン・ガロリングを許すつもりはないと平然と言い、母や自分と戦うことに全くの躊躇がないところ。
 タルカが黙っていないことを見越して、策通りだと言ってのけたこと。
 自分が思うよりもサブロー・ハインリッヒという男は、底が知れないのではないか。

「フハハハ。思案していることを当ててやろうか?自分が思っていたよりもワシの底がわからないと思ったのだろう?」

「!?」

 言い当てられたことにルルーニ・カイロは驚いていた。

「油断は大敵だぞカイロ卿。いや、ルルーニよ。お前は、ワシと2人きりで話すことで、お前は勝手に重荷を外して、理解してくれると思ったのだ。ワシは、母の想いを尊重する。その上でこちらも本気で戦う。それがワシなりの応えかたよ。お前がどうしても母を助けたいのなら、頭で考え、それに従い行動すれば良い。それとも何か?ワシは、本気で戦うに値せんか?」

「ハインリッヒ卿。いえ、サブロー様は、本気で戦うに値する方です。俺は俺の望む未来のためにこの知をマーガレット様のために使い、サブロー様と戦いましょう」

「フッ。迷いは晴れたようだな。話がそれだけならこれで失礼する。爺様が祭りの翌日に攻めてくるのでな」

「!?貴方という人は、どこまで。ですが安心してください。明日までは大丈夫です。マーガレット様が止めると言っておられましたので」

「そうか母上が。余韻を楽しむ時間をくれるとは、舐められたものだ。と悪態を付ければ良かったのだが領民たちに今日ばかりはゆっくりして欲しかったのも事実。母の御厚意に素直に感謝するとしよう。ルルーニよ。ワシは、お前が母の再婚相手なら嬉しいのだがな」

「!?ご、御冗談を。俺なんかマーガレット様にふさわしくありませんよ」

「フッ。ワシはこう見えて人を見る目は人一倍あるつもりだ。信じすぎて、気付かぬうちに裏切られていることはあるがな」

「俺なんかに勿体無い言葉です。その後半の方がよく聞こえなかったのですが何か言いましたか?」

「いや、ワシの独り言よ。気にするな。では、戦場でまみえることを楽しみにしている。ルルーニ。御武運を」

「こちらこそ。サブロー様。御武運を」

 2人が離していた時間は1時間程度だったがルルーニ・カイロは、サブロー・ハインリッヒに背中を押される形で迷いを振り切り、マーガレット・ハインリッヒのために覚悟を決めた。
 サブロー・ハインリッヒもまたルルーニ・カイロという底の知れない男が見せた歳相応の油断が人を想う気持ちから来ていたことを知り、嬉しかった。

 フッ。
 氏郷の奴に娘のふゆを嫁に娶らせる約束をした日を思い出す。
 アイツは、手柄を立てるまで、遠慮しますなどと言って、14歳での南伊勢における国司の北畠きたばたけとの初陣で、見事、期待に応えて、戦後に娶ってくれた。
 仲睦まじくて、ワシも嬉しかったものだ。
 ワシがいる間に側室を設けたとの話は聞かなかったがワシが死んでもアイツは義理を通し続ける男だろう。
 信頼の足る人間に娘を託せたことは幸いよな。
 ワシは、母にどうなって欲しいのだろうな?
 未だに引きずる父のことなど忘れて、まだ若いのだから新たな恋に向かって欲しいのであろうか?
 いや、馬鹿な息子のために後処理をしようとする母に幸せになって欲しいのだ。
 だが、それと同時に戦場に立てば、女で初めての将軍となったと恐れられた母と戦いたい気持ちもあるのだろうな。
 毘沙門天の化身などと恐れられたあの男とどちらが強いのだろうな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

ああああ
恋愛
クラスメイトに死ねコールをされたので飛び降りた

処理中です...