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2章 オダ郡を一つにまとめる
73話 宿屋にて
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興奮冷めやらぬままサブロー・ハインリッヒが閉式の挨拶をする。
「3日間にも及ぶ祭りへの協力、感謝する。父も大層喜んでおられるだろう。名残惜しいが、祭りはここまでとする。最後に、此度祭りに参加した全てのものを兵卒として取り立てることとする。上位の成績を納めた者を隊長とし、50人規模のいくつかの部隊編成とし、ワシに協力してくれている各貴族の備えに加わってもらう。明日より戦が始まるとそう心得よ!今日は、しっかりと英気を養うが良い。解散」
こうして、大盛況のままに祭りを終えたサブロー・ハインリッヒの元にルルーニ・カイロがやってくる。
「ハインリッヒ卿、この3日間、敵国にいながら快適な生活を整えてくださったこと。感謝致します。あのお話は、考えてくださいましたか?」
「若様が答えるまでもなく、2人きりでの密、んぐぐ」
サブロー・ハインリッヒがマリーの口を手で塞ぐ。
「良かろう。家に来てもらうのも何か違うであろう。お前が泊まっている宿屋の主人には、ワシも世話になっている。そちらの一室を使い、話をするとしよう」
サブロー・ハインリッヒは、そう言うとマリーの口を塞いでいた手を離す。
「若様、何を考えて!これが若様を殺す暗殺だとしたらどうするつもりです!今や若様は、反サブロー連合にとってもっとも警戒するところ。御身を第一に考えてください」
「心配するなマリー。爺様の暗殺部隊は、あの日に帰った。祭りが終わるまでは、手を出さん。即ち、今日までな。それにこの男がどんなことを話してくれるのか興味が沸いた」
「若、敵国の者と2人っきりで話すなどこれっきりにしてくれると約束してくださいますな?」
心配そうなロー・レイヴァンドの言葉に頷く。
「心配なさることはないと俺からも約束しましょう。どうしてもこの機会にお伝えしたいことがあり、場を設けていただきたく。これは俺のお節介ですので」
「そう言って、若様を暗殺する気なのでしょう。マーガレット様は、そこまでしろとそう言ったのね!」
「やめぬかマリー。若が心配なのはよくわかる。だが、若は決められたことは何を言おうと曲げはせん。俺の言葉にも頷くだけで即答しないのが答えだ」
「ですがロー様!いえ、若様を必ず無事に返してください。良いですね?」
「勿論です。この場では、絶対に手を出さないと約束致します」
マリーの言葉にルルーニ・カイロが答える。
こうして、サブロー・ハインリッヒは、ルルーニ・カイロが泊まる宿へと足を運んだ。
「いらっしゃいませ。って坊ちゃんじゃないですかい。敵国の人間と一緒に、どうしたんでい?」
「おやっさん、少し奥の部屋を借りるよ」
「そりゃかまいやせんが」
「人払いも頼めるか?」
「何やら事情があるようでやすな。わかりやした」
「すまんな」
「いえ、坊ちゃんには、妻の件で頭があがりやせんから」
「ワシは、間者であるお前たちマジカル王国の魔法師が逃げてきたのを匿ってやってるのだが」
「ガハハ。何のことやら。おい、敵国の坊主。今の話は聞かなかったことにしておけ。良いな?」
「あっ。はい」
宿屋の主人の突然のドスの聞いた声に、ルルーニ・カイロはたじたじと返事した。
「あのハインリッヒ卿、宿屋の主人の元の職業は?」
「マジカル王国の魔法部隊を守る近衛騎士としか聞いておらん。妻は、マジカル王国の魔法師だとな。まぁ、十中八九。間者だろうな」
「あの、ここで話して、本当に大丈夫ですか?」
「まぁ、気にするよな。だが、おい。静音の魔法をかけてくれ」
サブロー・ハインリッヒがそう言うと奥から気の抜けた声が聞こえる。
「もう。静音の魔法じゃなくて、サイレントだと何度言えば」
「ワシは、マジカル王国にお前たちを引き渡しても良いのだが?」
「うっ。わかりました。わかりましたよ。足元見て、酷すぎる!」
「やめておけ、送り返されれば、俺たちは」
「わかってるわよ。あの国では、魔法師の婚姻が認められないの。魔力を失うとか言われてて、純潔でいるように言われるのよ。ここに純潔じゃなくても魔法を使える人間がいるってのに!」
「成程。成程。そういう理由であったか。ふむふむ」
「あっ!この馬鹿レックスが変なこと言うからペラペラと話しちゃったじゃない!」
「いや、勝手に話したのは、リリーの方じゃねぇかい」
「もう。こちらの事情をさりげなく聞き出そうとするとか。どんだけ私のことをこき使うつもりなんですか!こんな経営難の宿屋まで押し付けてきて!」
「住むところも仕事もないというから良いと思ったのだが。それとも、戦に出る方が良かったか?」
「いやいや、サブロー様のお心遣いに感謝しておりやす。おい、坊主。今のことも絶対に誰にも話すんじゃねぇぞ。良いな?」
「あっ。はい」
「というか、サイレントの魔法はもうかけてるから音は外には聞こえてないけどね。全く、匿ってくれていることには感謝してますけどこき使うのは別ですからね。ホントに」
「すまないな。揶揄うのが楽しくてな。では、2人とも席を離していてくれ」
2人は頷くと退席し、この場にルルーニ・カイロと残されるのだった。
「3日間にも及ぶ祭りへの協力、感謝する。父も大層喜んでおられるだろう。名残惜しいが、祭りはここまでとする。最後に、此度祭りに参加した全てのものを兵卒として取り立てることとする。上位の成績を納めた者を隊長とし、50人規模のいくつかの部隊編成とし、ワシに協力してくれている各貴族の備えに加わってもらう。明日より戦が始まるとそう心得よ!今日は、しっかりと英気を養うが良い。解散」
こうして、大盛況のままに祭りを終えたサブロー・ハインリッヒの元にルルーニ・カイロがやってくる。
「ハインリッヒ卿、この3日間、敵国にいながら快適な生活を整えてくださったこと。感謝致します。あのお話は、考えてくださいましたか?」
「若様が答えるまでもなく、2人きりでの密、んぐぐ」
サブロー・ハインリッヒがマリーの口を手で塞ぐ。
「良かろう。家に来てもらうのも何か違うであろう。お前が泊まっている宿屋の主人には、ワシも世話になっている。そちらの一室を使い、話をするとしよう」
サブロー・ハインリッヒは、そう言うとマリーの口を塞いでいた手を離す。
「若様、何を考えて!これが若様を殺す暗殺だとしたらどうするつもりです!今や若様は、反サブロー連合にとってもっとも警戒するところ。御身を第一に考えてください」
「心配するなマリー。爺様の暗殺部隊は、あの日に帰った。祭りが終わるまでは、手を出さん。即ち、今日までな。それにこの男がどんなことを話してくれるのか興味が沸いた」
「若、敵国の者と2人っきりで話すなどこれっきりにしてくれると約束してくださいますな?」
心配そうなロー・レイヴァンドの言葉に頷く。
「心配なさることはないと俺からも約束しましょう。どうしてもこの機会にお伝えしたいことがあり、場を設けていただきたく。これは俺のお節介ですので」
「そう言って、若様を暗殺する気なのでしょう。マーガレット様は、そこまでしろとそう言ったのね!」
「やめぬかマリー。若が心配なのはよくわかる。だが、若は決められたことは何を言おうと曲げはせん。俺の言葉にも頷くだけで即答しないのが答えだ」
「ですがロー様!いえ、若様を必ず無事に返してください。良いですね?」
「勿論です。この場では、絶対に手を出さないと約束致します」
マリーの言葉にルルーニ・カイロが答える。
こうして、サブロー・ハインリッヒは、ルルーニ・カイロが泊まる宿へと足を運んだ。
「いらっしゃいませ。って坊ちゃんじゃないですかい。敵国の人間と一緒に、どうしたんでい?」
「おやっさん、少し奥の部屋を借りるよ」
「そりゃかまいやせんが」
「人払いも頼めるか?」
「何やら事情があるようでやすな。わかりやした」
「すまんな」
「いえ、坊ちゃんには、妻の件で頭があがりやせんから」
「ワシは、間者であるお前たちマジカル王国の魔法師が逃げてきたのを匿ってやってるのだが」
「ガハハ。何のことやら。おい、敵国の坊主。今の話は聞かなかったことにしておけ。良いな?」
「あっ。はい」
宿屋の主人の突然のドスの聞いた声に、ルルーニ・カイロはたじたじと返事した。
「あのハインリッヒ卿、宿屋の主人の元の職業は?」
「マジカル王国の魔法部隊を守る近衛騎士としか聞いておらん。妻は、マジカル王国の魔法師だとな。まぁ、十中八九。間者だろうな」
「あの、ここで話して、本当に大丈夫ですか?」
「まぁ、気にするよな。だが、おい。静音の魔法をかけてくれ」
サブロー・ハインリッヒがそう言うと奥から気の抜けた声が聞こえる。
「もう。静音の魔法じゃなくて、サイレントだと何度言えば」
「ワシは、マジカル王国にお前たちを引き渡しても良いのだが?」
「うっ。わかりました。わかりましたよ。足元見て、酷すぎる!」
「やめておけ、送り返されれば、俺たちは」
「わかってるわよ。あの国では、魔法師の婚姻が認められないの。魔力を失うとか言われてて、純潔でいるように言われるのよ。ここに純潔じゃなくても魔法を使える人間がいるってのに!」
「成程。成程。そういう理由であったか。ふむふむ」
「あっ!この馬鹿レックスが変なこと言うからペラペラと話しちゃったじゃない!」
「いや、勝手に話したのは、リリーの方じゃねぇかい」
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「住むところも仕事もないというから良いと思ったのだが。それとも、戦に出る方が良かったか?」
「いやいや、サブロー様のお心遣いに感謝しておりやす。おい、坊主。今のことも絶対に誰にも話すんじゃねぇぞ。良いな?」
「あっ。はい」
「というか、サイレントの魔法はもうかけてるから音は外には聞こえてないけどね。全く、匿ってくれていることには感謝してますけどこき使うのは別ですからね。ホントに」
「すまないな。揶揄うのが楽しくてな。では、2人とも席を離していてくれ」
2人は頷くと退席し、この場にルルーニ・カイロと残されるのだった。
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