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2章 オダ郡を一つにまとめる

70話 大荒れの10レース目

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 真剣に走る馬、騎手による手綱捌き、そのどれもが初級コースの盛り下がりとは大きく違って大盛り上がりとなった。
 それもいよいよ最後となるか。
 この後は、ルルーニの奴から話があると呼び出されていたな。
 明日、仕掛けてくるであろう爺様の機先を制するために夜のうちには、ここを引き払い、ゼンショウジへと移らねばな。
 まぁ、今は最後のレースを見届けるとしよう。

「今宵のレースも最後となりました。1コーナーは、ようやく真打の登場だ。初級コースにおいて、我らが領主様にレースの提案をした『ウマスキ』が乗るのは、真っ赤な愛馬『セキトーバ』、初級コースで最速タイムこそ逃したもののその差、コンマ0.01秒。その人気と提案して盛り上げてくれた立役者ということも相まって、最高オッズを叩き出した1.0倍だ!賭けた金が全額帰ってくるぞ~」

「アハっ。凄い人気だけど一緒に頑張ろうねセキトーバ」

「ヒヒーン!!!ぶるるっ!」

「待ってたぞねぇちゃん!勿論、ここまで稼いだ金、全部かけたからよ!頑張れよ~」

「会場のボルテージも最骨頂というところでしょうか。そして、2コーナーは、初級コースにて、5位の成績を叩き出した『私でも騎士になれますか』の乗る白馬『ソウコウヒデーン』の登場だ。なんとなんと、この馬のオッズも1.0倍だ!賭けた金が全額帰ってくるぞ~!」

「サブロー様の粋な計らいに感謝せねばな。ソウコウヒデーン。私を真の騎士に押し上げてくれるか?」

「ヒヒーン!!!ブルルッ!」

「キャー真打ちの真っ白な白馬よ~。乗ってる人も騎士の格好してて、カッコいいわ~。勿論、ここまで稼いだ全額をベットするわ~。白馬こそ史上と教えてあげて~!」

「何と何と、2頭ともオッズが同率と不思議なことになりましたが。続けましょう。3コーナーは、『私は絶対に死にまシェーン』の乗るその黒さは闇の如し初級コース3位の成績を叩き出した『ゼツエーイ』の登場だ。そして、気になるオッズは、これまた1.0倍だ!一体、どうなっているんだ!賭けた金が全額帰ってくるぞ~」

「私はサブロー様に御仕えして、すぐに死ぬわけには行かないの。頼むわよゼツエーイ」

「ヒヒーン!!!ブルッブルッ!」

「あんな真っ黒な馬がいるんだな。夜になったら全く見えなさそうだな。でもそれがカッコいいぜ」

「なんとなんと3頭のオッズが同率という。全く予想できない展開に、僕も混乱していますが続けましょう。4コーナーは『不幸でごめんなさい』の乗る『テキーロ』の登場だ。この『テキーロ』まるで飛び跳ねるように初級コースを4位で駆け抜けた実力馬だ。そして、気になるオッズはこれまた1.0倍だ~!クレイジ~すぎるぜ~!」

「あの泣いてるように見える跡が不幸の馬の凶兆らしい。それで、騎手の嬢ちゃんが不幸だったりしてな。んなわけねぇか。全部、領主様が色々なところから集めた馬だって、言ってたしな」

「テキーロ、ほら皆が貴方が凶馬だと噂しているわ。私の不幸は貴方のせいじゃない。踏み出せない私の責任。これはやっと踏み出せるチャンスなの。協力して頂戴」

「ヒヒーン!ヒヒーン!!」

「さて、次が最後の紹介となります。5コーナーは、『白馬の王子様なんていない白馬の王女様ならここにいるけど』の乗る真っ白な『パイローン』の登場だ。この『パイローン』、初級コースでは6位の成績を叩き出しております。気になるオッズはなんとなんとまたしても1.0倍だ!賭けた金が全額帰ってくるぞ~これも期待の現れということでしょうか!」

「キャー白馬が2頭も。どうしましょう~」

「私は、白馬の王子様って言葉が大嫌いなのよ。いつもいつも王子様ばっかり、白馬の王女様がいても良いと思わない?ねっパイローン」

「ヒヒーン!ブルッ!」

 今回、敢えて、全ての馬のオッズが同率になるようにしたのには、理由がある。

「ゴホン。まさかまさかであるな。全ての馬が同率など。これでは、賭けは成立せん。故に、領民の皆には、全額お返ししよう。その上で、楽しむが良かろう。そこで、走る者たちには、別の褒美を与えよう。このレースで1位となったものには、ワシの馬廻りとして、軽装騎馬隊の隊長に任命する。今日残った50名と少ない規模の隊長だ。それでも良ければだがな」

「大変名誉ある提案に感謝致します。サブロー様」

「サブロー様の騎士となれるのなら本望、必ずや隊長の地位を手に入れて見せましょう」

「サブロー様にお仕えできるのならと思っていましたがこのチャンス活かさないわけには行きません」

「テキーロが凶馬じゃないと証明する機会が貰えるなんて、ここまで来たら全力で掴み取りに行きます」

「これこそ待ち望んでいた白馬の王女様への通過点。掴み取りますわよ」

「皆、気合十分といったところであるな。では、しかとこの目で皆の走りを見させてもらおう」

 全員が位置に着く。

「残念だったなカイロ卿。その金を母のためどのように使うか見ものだな」

「!?はぁ。全く、俺がここに来たことまで見透かしていないでしょうね?」

「さぁ、どうであろうな。お前程聡明な男が危険を犯して来るというのは、十中八九、好いてる女子のため。まさか我が母とはな。厄介この上ないぞ。父と結婚していなかったら女性で初めての将軍となっていたかもしれないと言われるほどの切れ者で猛者だからな」

「そうですね。真っ先にハインリッヒ卿の思惑に気付いておられましたし」

 ルルーニ・カイロの言葉に被さるようにスタートの合図が鳴り響いた。

「何か言ったか?」

「いえ、まぁこのお金の使い方はおいおい考えますよ」

「是非、そうしてくれ。ワシも難敵と戦うのは心が踊るのでな」

 思えば、今川義元に始まり、明智光秀まで、難敵でなかった男はいない。
 乱世とは、英雄が産まれやすい状態なのかもしれんな。
 空で語らいあいたかったのだがな。
 縁あって、この世界にきたのだ。
 ここでも天下布武を掲げて戦い抜く。
 ワシは、誰にも屈さん。
 爺様に母が使いこなせるか。
 楽しませてもらおうぞ。
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