信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
67 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

67話 マリーカ郡のこと

しおりを挟む
 ここに一心に祈りを捧げる女性がいる。
 この女性の名前をマリアンヌ・プリストと言い。
 チャルチ郡を治めるアダムス・プリストの実の娘で、セイントクロス教に傾倒したために養女に出された。

「マリアンヌ様、マリアンヌ様。ぼーっとして、どうされたのですか?」

「ごめんなさいカトリーヌ。カトリーヌが対応したというオダ郡のサブロー・ハインリッヒなる人のことを考えていたのよ」

「まさか。姫様。恋ですか?恋バナですか?何でも聞いてください。お話ししちゃいますよ~」

「そんなんじゃないのよ」

 織田に三郎、まさかね。
 私はこの世界に来て、すぐ自分に前世の記憶があることを知った。
 そう、私はかつて帰蝶と呼ばれていた。
 何故、私は別の世界に来てしまったのか。
 考えない日はなかった。
 そんな私を救ってくれたのが叔父さんに教えてもらったセイントクロス教だった。
 三郎と信忠のためにずっと祈り続けよう。
 それが例え仏教じゃなくても良かった。
 何かに縋りたかったの。
 直ぐに、このセイントクロス教が南蛮の宣教師にもたらされた宗教と酷似していることがわかった。
 でも、そんなのどうでもよかった。
 愛した人と養母である私に懐いてくれた信忠のために一心不乱に祈る。
 そんな私を真の意味で救ってくれたのは、親を亡くし行き場を無くした子供達だった。
 そんな子供達のために私は養護施設を作ることを叔父さんに、いえ今は養父と言った表現が正しいでしょうか。
 敬虔なセイントクロス教であることを隠していらっしゃいます養父は、私の提案に心を打たれ、ひっそりとした丘の上に建ててくださいました。
 ここが私の安らぎの居場所。

「でも姫様、顔が真っ赤ですよ?」

「もう、揶揄わないでよカトリーヌ」

「マリアンヌねぇちゃんのお顔がりんごだ~」

「こら、カイト。御嬢様に何て口の聞き方してるのよ!」

「うるさいやい。僕の名前を使って、兵士試験に合格したカトリーヌねぇちゃんに言われたくないやい」

「この。全く、口が減らないんだから」

「カイトはやんちゃするぐらいが可愛いのよ」

「姫様がそうやって甘やかすから」

「フフッ。カトリーヌは、私よりも6つも年上なのに、友人付き合いしてくれてありがとう。助かっているわ」

「いえ、姫様には、こうして孤児となった私たちに寝食を施してくださいましたから。御恩をお返ししたいのです」

「ほら。硬くならないの」

「何というか姫様と話しているとまるでお母さんと話しているような気分に」

「あら、それはありがとう。私の溢れ出る母性というやつね。クスクス」

「やっぱりここにいたんだねマリアンヌ。いやキチョウ」

「リチャード叔父さん、あっリチャード養父上」

「ハハハ。どちらでも構わないよキチョウ」

 そう、私の名前は、キチョウ・プリスト。
 セイントクロス教の洗礼名がマリアンヌ。
 ここの孤児の皆んなは、私のことをマリアンヌねぇちゃんと呼ぶし、巣立って独り立ちできるようになったものは、リチャード養父上の元で、臣下として、働いているので、姫様と呼ぶ。

「御領主様、どうかされたのでしょうか?」

「あぁ、カトリーヌ、いつもキチョウの護衛、ありがとう。それはそうと兄が逆らえないとはいえ、迷惑をかけたね。ハインリッヒ卿のこと感謝している。とても8歳とは思えない神算鬼謀の数々で、陛下の御前で、マル卿とドレッド卿を手玉に取っているのは、滑稽だったよ」

「ほんと。大変だったんですからね。あんなの懲り懲りですよ」

「ハハハ。悪かったね。それで、兄は、やっぱりマル卿とは、切れないみたいだよ。僕にもタルカ郡への参陣命令が届いた。陛下に、キチョウのこと、バラされたくなければ、手を貸せとね。やれやれ、僕個人としては、ハインリッヒ卿が勝つことに期待してるんだけどね。ままならないものだよ。僕に万が一のことがあったら、ここの統治は、キチョウに任せたい。今更、他の誰かに任せられないからね。頼めるかい?」

「心得ました。ですが、リチャード養父上、サブロー・ハインリッヒなるものが私の思う方であれば、恐らくこの苦境で味方となってくれる方を悪くはなさいません。例え父と袂を分つ事になろうとも。リチャード叔父さんは、ここの領民のことを第一にお考えください」

「キチョウは、昔から年に似合わず聡明だった。兄は、ほんと見る目がないよ。保身のために実の娘を実の弟の養女にするなんて、わかった。キチョウの言葉は、深く心に刻んでおくよ。カトリーヌ、キチョウと留守の間のこと任せる」

「畏まりました。絶対に無事にお帰りください御領主様」

「兄とハインリッヒ卿、そのどちらに付くべきか理解はしているんだよ僕も。でもね。家族を裏切ることなんてできないんだ。僕は敬虔なセイントクロス教の信者だからね。兄が最後まで、我を通すというのなら付き合うしかない。義理の無い人間には、なれないからね」

 義理と聞くといちが嫁いだ長政ながまさのことを思い出すわね。
 三郎の良き義弟となるはずだった。
 でも、家族と義理を捨てられず反抗する道を選んだ。
 三郎が最後まで説得を試みたけど、我を貫き通した。
 長政が生きていたらきっと三郎のために本能寺に真っ先に駆けつけて、突破口を開いてくれたかもしれないわね。
 また、向こうでのことを思い出すなんて。
 ハインリッヒ卿、聞けば聞くほど三郎そっくりよね。
 父の亡骸に砂をぶつける話なんて、仏前に抹香を投げつけたって聞いた話と被るし。
 追い込まれている状況の中、お祭りをするなんて、何考えてるかよくわからないところもほんとそっくり。
 それでいて、領民と家族を誰よりも大事にしていた。
 今も領民を守るために必死に策謀を巡らせてるのでしょうね。

 マリーカ郡を治めるリチャード・パルケスは、チャルチ郡を治める兄のアダムス・プリストの命を受け、タルカ郡にて、デイル・マルとの会議に望むこととなるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...