信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
上 下
61 / 140
2章 オダ郡を一つにまとめる

61話 2日目の終わりの挨拶

しおりを挟む
 マリーの超絶絶技を目にして、観客の鳴り止まない歓声を受けながらサブロー・ハインリッヒが2日目の祭りの終わりの挨拶へと壇上に登る。

「皆の鳴り止まぬ歓声、気持ちはよくわかる。だが、ここで2日目の終わりの挨拶をさせてもらおう。2日目の結果だが、優勝は、スナイプ・ハンターとする。その後、非公式ながらマリーとのエキシビションは、大いに領民たちを沸かせてくれた。今一度、2人に盛大な拍手を送りたい。両名とも大義であった。空にいる父にもよく轟いたであろう。ワシが父を弔う祭りも明日が最後となる。勿論、定期開催して欲しいなどと思っている領民がいることも承知の上だが。この祭りの間、停戦を飲んでくれているワシのことをよく思わない者たちとの戦いが控えている。領民には迷惑をかけることとなること予め謝罪させていただく。申し訳なかった」

 サブロー・ハインリッヒは、領民に向かって、深々と頭を下げる。

「水臭いこと言ってんじゃねぇぞ!領主様はよ。俺たちの暮らしが良くなるようにしてくれたじゃねぇか。りんごなんて、手に取りやすくなった。だろ皆」

「そうですわ。女性の地位の向上にも力を尽くしてくださいました。コスメも手に入れやすくなりましたし。絶対に勝ってくださいまし」

「昔も今も息子を戦争に駆り出されるのは、ごめん被りたいが、新しい領主様の築く国なら賭けてみたいって、思ってる。祭りに参加してくれている奴らも皆そうなんじゃないか?」

「サブロー様が御心を痛める必要はないでごわす。誰の目から見ても明らかに皆の暮らしが良くなっていることを許容できない一部の貴族に好き勝手させるわけには行かないでごわす」

 口々にかけられる温かい言葉の数々に、サブロー・ハインリッヒは、涙を溢していた。
 魔王などと呼ばれているが織田信長という男は、元来、家族愛に溢れ、領民に慕われる情の深い男なのだ。
 だがそんな弱い姿を領民に見せるわけにはいかない。
 誰にも屈さず古きものでも悪いと思ったら壊して突き進む強い領主像を見せねば、溢れる涙を拭うと前を向いて、挨拶に戻る。

「皆の声援、真に痛み入る。いっときの平穏は明日までかも知れぬが、皆と共にワシも苦労を共にすることを約束しよう。ワシは、ワシを信じる領民を守り守護するオダの守護神じゃ。今日も大義であった。領民の皆もゆっくりと休むが良い」

 大きな歓声の後、領民たちが興奮冷めやらぬまま、酒場に直行したのは言うまでもない。

「領民の心を掴む見事な領主像でした。敵として、これほどの脅威と相対すること、楽しみでもあり恐怖でもあります」

「うぬにそう思ってもらえたのなら実りはあったと言えよう。カイロ卿」

「それでは失礼します。明日の祭りの後、少し御時間を頂きたい、2人だけで話がしたいことが」

 後半の言葉は、サブロー・ハインリッヒにだけ聞こえるようにルルーニ・カイロが囁いた。

「わかった。敵方と2人きりでの話を認めてもらえるかはわからぬが、善処すると約束しよう」

「その言葉だけで十分です」

 そう言って、笑顔を浮かべるとルルーニ・カイロは、宿へと戻って行った。

「マリーよ。そう睨むでない」

「若様、先程の話ですが許可できませんよ」

「ワシのことが心配か?」

「当然だ。我々、亜人としてもマリエル様がお認めになった人間の小僧に何かあっては、困るのだ」

 声をかけられた方を見ると金髪碧眼で耳の尖った男性が居た。

「コイツがマリーの言っていた。王都の偵察を頼んだというエルフか?」

「マリエル様がお認めしていなければ、俺のことをコイツなどと言う不遜な男など捻り潰すのだがな」

「やめなさい。ノール」

「そう怒らないでくださいマリエル様。心得ておりますから」

「いえ、上下関係は、はっきりさせておくべきよ。ノール、謝りなさい」

「申し訳ございませんでした」

「いや気にするな。ところで、さっきからマリーのことをマリエルなどとよくわからん名前で呼んでいるが」

「私の本名です。マリエル=クインシス=ノイトラーセ。ここに移り住んできた皇族の名残らしいです。長ったらしいですから若様には今まで通りマリーと呼んでくださいませ」

「無論、今更変えるつもりなどない。そうか、由緒正しき家の出であったか」

「えぇ。だから簡単に人間社会に溶け込めたのですよ。マーガレット様もよくしてくださいましたし。だから、余計に若様と敵対する道を選んだことが許せないのです」

「そう目くじらを立てるな。母には母の譲れぬものがあるだけのこと」

「それにしてもノイトラーセと聞いて、全く驚かないとは。俺たちが移り住む前の大陸で他の者が聞けば、縮み上がる名前なのだがな」

「それは、失礼した。生憎、別の大陸のことは全く資料に書かれていなかったのでな。亜人として、エルフとドワーフと獣人の記述があったぐらいのものだ」

「成程、それもせんなきことだ。マリエル様、王都は暫く動きはないと判断しました。俺はまた警戒に当たります」

「えぇ、お願いねノール。不審な動きをしたものは、逐一報告を」

「御意」

 スッと音もなく消えるのを見て、笑うサブロー・ハインリッヒ。

「エルフとやらは索敵に向いているのでないか。忍者のようにな」

「忍者というのがどんなものか知りませんが、私達は自然の加護を受けていますから気配を消したり、素早く移動するのは、得意なんですよ」

「であるか」

 エルフは何れ作るつもりであった情報収集専門の部隊の候補に真っ先に入れておくべきだな。
 破壊工作に潜入などが必要になる機会もあるかもしれんからな。

「クシュン」

「若様、夜は冷えます。もう中にお戻りを」

「あぁ、続きは中で話すとしよう」

 中へと戻り、2日目の祭りでのことを話し合うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...