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2章 オダ郡を一つにまとめる

44話 旧御三家の調略

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 ハンネス・フロレンスは、レーニン・ガロリングに協力せず中立を決め込んだ旧御三家のグロスター家とヴェルトハイム家をまだ歳若いが才覚のあるサブロー・ハインリッヒに御味方させるため調略に訪れていた。

「旦那様は、ハンネス様にお会いするとの事です。こちらへどうぞ」

「うむ。感謝するぞ」

 通された部屋では、椅子に腰掛けた壮年の男性がにこやかにハンネスに近付いてきて、抱擁を交わした。

「お前の方から訪ねてくるのは久しぶりだな。歓迎するぞハンネス」

「まだまだ衰えてなさそうで安心したぞゴルド」

「ガハハハハ。公爵家から没落して、男爵家とはなったが腐りはせん。それに良いこともあった。あの領主の風上にもおけん男が死んだのだからな」

「やはり、ロルフ様のことは、許せんか?」

「ラルフ様は、奴隷たちのせいで死んだのではない。尊い命を守って死んだのだ。命に上下など付けてはならない。ラルフ様が良く言っていた言葉だ。あの御方は本当によくできた御仁だった。それをあの男は、散々に貶めた。許せるわけが無いだろう!」

「だからハインリッヒ家の争いに加わりたくないと?」

「もうその話を知っていたか。流石、早耳だな。跡を継いだのが8歳のガキでは、ハインリッヒ家も終わりだろうと成り上がりのレーニンの奴に言われたが、俺はそう思わん。ただのガキがラルフ様のように奴隷の指示を得られようか。答えは否だ。故にどちらにも手を貸さず様子を見ることにしたのだ」

「何故、それがわかっていながらサブロー様に手を貸さぬ?今こそサブロー様は、頼りになる味方を必要とされておる。ワシは、この目でサブロー様を見て確信した。あの御仁は、ラルフ様を超える良い郡主となると、な。それに今、サブロー様が危機に陥っているここで手を貸さねば、一生後悔しようぞ!」

「ハンネスにそこまで言わせるか。面白い。そこまで言うのならサブローとやらを見てから決めようではないか。会う約束は、取り付けられるのであろうな?」

「こちらで手配しよう」

「では、会うのを楽しみにしておくとしよう」

 ゴルド・グロスター、かつてマジカル王国の魔法師の魔法をもろともせずに突撃し、鬼神の如き活躍でラルフの敗走を助けたことから鬼神のゴルドと呼ばれる猛将であり、親しいものに見せる柔らかな表情とそうでないものに見せる威圧する眼光を併せ持っている。

 身体の至るところに無数の戦傷を刻み、その数が増えるたびに郡主であったラルフを守れた誇りとしていた。

 マジカル王国の魔法師たちからは別名、無駄撃ちと言われているぐらい魔法に対して、高い防御適正を持っている。

 味方となれば、心強い事この上ない者であり、ロルフも領土を削り、貴族の地位を落とすぐらいしか対処できなかった。

「ガハハハハ。ハンネスの奴、大きく出たな。ラルフ様を超えるなど。だが、お前がそう称す何かを持っているのであろう。サブロー様か。ラルフ様が生きておられれば、サブロー様の誕生を大層喜ばれたであろう。全く、長生きはするものだな。会うのが楽しみだ」

 ゴルドは、そう呟くと赤ワインを勢いよく飲み干した。

 ハンネスは、ゴルドの説得を終えるともう一つの旧御三家であるヴェルトハイム家に向かっていた。

「ルイス様は、ハンネス様の来訪を予見しておられました。お会いになるそうです。こちらへどうぞ」

 通された部屋には、学者眼鏡を付け、縦長の帽子を被り、机の上の書類を黙々と処理し、的確な指示を出す壮年の男性がいた。

 ルイス・ヴェルトハイムである。

 ガルディアン王国とマジカル王国の戦が起こる時期を何度も予見したことから予見のルイスと呼ばれている知将であり、政務が得意な男である。

「魚を猫に取られて損失を出した魚屋が飼い主に損失の補填を迫って、暴行した件の沙汰は、次のように。魚を奪った猫の飼い主には監督責任があります。ですが、暴力に訴え出た店主もタチが悪い。よって、此度は両者お咎めなしとします。ですが次からは、猫が魚を取ったら飼い主が責任を取って、金額を支払うこととする。良いですね」

「はっ。そのようにお伝えします」

「ふぅ。お待たせさせてしまい申し訳ありませんハンネス。またお会いできて、嬉しいですよ」

「変わらないようで、安心したぞルイス」

「ハハハ。ガロリング卿に、何度もハインリッヒ家の打倒のために共に立ちあがろうと催促が来て、辟易してましたが。間も無く、ハンネスが吉報を持ってくると予見がありましてね。首を長くして待っていました。それで、ハンネスから見たサブロー様は、ラルフ様と比べてどうですか?」

「流石ルイスじゃな。お前があの時、一緒に来ておれば、ラルフ様は」

「いえ、流石に予見できたとしてもあの状態ではどうすることもできませんよ。ラルフ様はその命をオダ郡を良くするために燃やし尽くされました。それを台無しにしたロルフ様に対して思うことがないと言えば嘘になります。ですがサブロー様には何の罪もありません。どうして、ガロリング卿の言葉に乗って、参加などできるでしょうか」

「そうじゃな。ルイスはそう思ったから参加せずに中立を選んだのじゃな」

「ガロリング卿のやり方は好きではありません。タルカと戦争準備中のサブロー様の背中なら簡単に刺せると。はっきり言って、そんなに甘くないと思い、ます」

「ルイスにしては、珍しく歯切れが悪いのぉ」

「見えないのですよサブロー様は。こんな事は初めてです。勝つのは、サブロー様だろうと確信はあるのに何も見えない。まるでモヤがかかったかのようにね。不思議な人です。だからこそ面白いと注目はしていました。ここにハンネスが訪れたのは、サブロー様に協力してくれないかという打診ですね」

「うむ。ワシがこの目で見たサブロー様の感想でしかないが、あの御方はラルフ様を超えると確信しておる」

「そうですか。もうわかりました。その言葉だけで十分です。一度お会いしましょう。できれば、ゴルドも一緒に」

「フォッフォッフォッ。それも予見しておられたかルイスよ」

「いえ、予見などではなくハンネスが説得に動いたのなら勿論ゴルドの方も行ってるでしょうと読んだだけですよ」

「そうか読んだか。サブロー様との会談に付いては、任せてもらおう」

「よろしくお願いします。では、その時を楽しみにお待ちしていますよ」

「承知した」

 こうして、ハンネスは旧御三家の2つであるグロスター家とヴェルトハイム家の説得を終えた。

 残りの一つは、そうフロレンス家である。

 ハンネス・フロレンス、足腰の悪い老人のフリをした奇襲の名人。

 別名、不意打ちの暗殺者と呼ばれる相手を油断させてからの仕込み刀での一閃を得意とする剣士である。

 これだけ聞くとただの卑怯戦術じゃないかと思われるかもしれないが奇襲とは、味方の被害を軽微にするには持ってこいなのである。
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