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2章 オダ郡を一つにまとめる

31話 オダ郡以外の動き

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【ナバル郡】

 王都キュートスクからナバル郡へと帰ってきたドレッド・ベアは、収益の7割を集めていた。

「クソッ、サブロー・ハインリッヒがあのような傑物だったとはな。我が郡をも攻める算段を付けられたものを敢えてタルカ郡を狙い撃ちにして、きちんと賠償金までせしめおった。これでは大損ではないか!デイルも愚かなことをやってくれたものだな」

 ドレッドは、ブツブツと文句を言いながら自らの懐を痛めず民から臨時徴収した金を袋に詰めていた所に兵士が入ってくる。

「ドレッド様、民衆が臨時の徴収に対して、不満を抱いて説明を求めて押し寄せています」

「マジカル王国による被害のための軍備増強だと言っておけ!そのようなくだらないことをいちいち言いにくるな馬鹿者!」

「ですがドレッド様」

「くどい。貴様は言われたことだけしていれば良い。わかったらとっとと民衆を黙らせてくるのだ」

「かしこまりました」

 賠償金を袋に詰め終わると先程と違う兵士が入ってくる。

「ドレッド様」

「まだ何か用か?とっとと民衆を黙らせろ!」

「ひっ。ベア卿から手紙が」

「何、それを先に言え!」

 ドレッドは兵士から手紙を分捕ると読み進める。

「成程、考えたな。オダ郡を取れぬ以上、あの生意気なクソガキに乗って、タルカ郡の一部を奪うつもりだったが、こちらの意図を読んだり、腹の立つガキだ。タルカ郡がこのまま取られるのを黙って見ているつもりはなかった。デイル、貴様の作戦に乗ってやろうではないか」

「あの、ドレッド様、先程からブツブツと何を?」

「まだ居たのか。いや、ちょうど良い。この金で傭兵を雇ってこい」

「あの、不躾ですがそのお金はオダ郡に支払う賠償金なのでは?」

「そんなものは知らんな」

「まさかドレッド様は、王様の勅令を見ていないのですか?」

「さっきから何を言っている?」

「ナバル郡はオダ郡に7割の賠償金を支払うこと。タルカ郡とオダ郡の争いに関わらないこと。もし関わった場合は、処罰の対象とする。御触れとして出回り、これのため民も納得して帰りました。そのお金で傭兵を雇って参戦すると?」

「馬鹿な!?あの王がそんな迅速に。宰相の横槍か。ふざけやがって」

「ふざけているのはドレッド様だ!王の言葉を蔑ろにする行動に協力はできません。どうしてもやりたいのならドレッド様だけでどうぞ」

「ぐぬぬ。貴様如き1兵卒が俺に逆らって、済むと思うなよ」

「ドレッド様の方こそ。王様の温情を無碍にされるつもりですか?それにオダ郡とタルカ郡の行く末を見守ってからでも遅くはないのでは?」

「成程、一理あるか。良いだろう。ここは貴様如き1兵卒の言葉を受け入れてやる。有り難く思うが良い。だが、この金はまだ手元に置いておく。これは譲らん」

「そうですか。最悪の判断を下さないことを祈っております」

「フン。とっとと下がれ」

 ドレッドの言葉で兵士が下がる。

「デイルよ。此度は宰相の判断が早すぎた。まぁせいぜいあのクソガキに一矢報いてくれたまえ。俺のためにもな」

 ドレッドは諦めず、デイルがサブローに少なからず痛手を与えてくれることを願うのであった。

【タルカ郡】

 デイルは王都キュートスクから帰ってからずっとイライラしていた。

「ええぃ。忌々しい、ドレッドもアダムスも全く頼りにならん!極め付けは宰相よ。あんなクソガキの肩を持ちやがって、何が我が郡をオダ郡に併合することだ。看過できるか!こうなりゃ。住民も巻き込んで、最後の1人になるまで争ってやる。ヒヒッ」

 そこに兵士が入ってくる。

「デイル様!この御触れは本当なのですか!」

「誰が勝手に入ってきて良いと言ったのですかな。ヒヒッ」

「ぐっ。そんなことよりも。この郡がオダ郡に併合だなんて、どうしてこんなことに!これでは、デイル様に付き従い、死んだ兄たちが報われない。それにデイル様が王様の言葉を騙って、仕掛けるだなんて、どうしてそんな卑怯なことをしたのですか!」

「卑怯とは心外ですね。ヒヒッ。貴方は美味しそうな果実が実っていたら見逃すのですかな。ヒヒッ」

「それとこれとは」

「一緒ですよ。ヒヒッ。それに俺が自分の兵をどう使おうが勝手であろう。ヒヒッ。それとも何ですか?反乱でもする気ですかな?ヒヒッ。可哀想に子供を亡くして傷心の母に更なる心労をかけるのですかな。ヒヒッ」

「貴様!母さんまで手にかけるつもりか!」

「何か勘違いしておりませんかな。この郡では、生殺与奪の権利を握っているのは、この俺ですよ。ヒヒッ。お前たちは奴隷として死ぬまで戦えば良い」

「この下衆野郎が!地獄に堕ちろ!」

「なんとでも言うが良い。言ったところで従うしか方法は無いのですからな。ヒヒッ。わかったらさっさとオダ郡との国境に向かいなさい。ヒヒッ。そして、負けたら貴方の母がどうなるか」

「そうやって、また多くの戦も知らない民を戦争に駆り出すのか!」

「必要なことですから。ヒヒッ」

 デイルの言葉を聞き、何を言っても無駄だと兵士は外に出て行く。

「さて、ドレッドとアダムスにも少なからず動いてもらいますよ。ヒヒッ。アイツらの生殺与奪の権利もこの俺が握っているのだから。ヒヒッ」

 デイル・マル、人の弱みを握り、的確に利用して、今の地位を築いた元奴隷。

 マル家の先代の弱みを握り、養子に迎え入れさせ、周りの貴族の弱みを握り、元奴隷でありながら貴族にまで成り上がった男。

 この男に時間さえあれば、サブロー・ハインリッヒの弱みを握ることができたかもしれない。
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