信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜

揚惇命

文字の大きさ
28 / 166
2章 オダ郡を一つにまとめる

28話 謁見

しおりを挟む
 多少の妨害にあったもののおおよその時間通りに王都キュートスクへと辿り着いたサブローは、王城へと向かいルードヴィッヒ14世と謁見する。

「遠路はるばるよく来たサブロー・ハインリッヒよ。先ずは、ルードヴィッヒ14世の名の元に貴殿をオダ郡の領主に任命する。励むが良い」

「有り難くお受けいたします。父が亡くなり気落ちした母を宥めたり、国境を襲われたりと対応に追われて、陛下への御挨拶が遅れましたことをここに謝罪致します」

 サブローは、領主就任を正式に受け取るときちんとした言葉で起こったことを簡潔に話し、自分の落ち度を謝罪した。

「そうであったか。デイル・マルからも聞いている。何か行き違いがあったそうだな。アイランド公国を束ねるものとして、小競り合いを静観したこと申し訳なかった」

 関わっていたと言わずに静観していたと謝るとはな。

 だがこちらは数多くの証拠を持っている。

 王とて、痛みは伴ってもらうぞ。

 やれやれ、こちらから切り出さねばならんか。

「ヒヒッ。お待ちくだされ陛下。小競り合いなどではなくオダ郡からの一方的な虐殺ですぞ。ヒヒッ」

 嫌味な笑みを浮かべながら語り出すデイル・マル。

「確かにマル卿の言葉を聞く限り、陛下の勅使に対して、戦を仕掛けたのは、サブロー・ハインリッヒと言わざる終えませんな」

 力瘤を見せ付けながらデイルの話に信憑性を持たせようとするドレッド・ベア。

「確かにマル卿の話を聞く限りですと一方的に被害を被ったとみえます。寧ろ、街以外で防衛設備を築くことは禁止しています。それに違反したハインリッヒ卿にも落ち度があるかと」

 長い髭を触りながら冷静な口調で話すこの男は、サブローの妨害をしたチャルチ郡の領主、アダムス・プリスト公爵、特定の宗教に傾倒することを禁止しているアイランド公国にて、あろうことか娘がセイントクロス教の熱心な信者で、そのことを知られたデイルに弱みを握られ、黙っている代わりに協力させられている。

 セイントクロス教とは、弱きを助け強きを挫くを信条とする宗教で、どんな時も弱いものの立場に寄り添うことを第一としている。

 元々は、別の大陸から流れてきた流民から広がった宗教であり、ヴァルシュラ大陸ではあまり知名度の高くない宗教の一つ。

「デイルだけでなくドレッドにアダムスと騒いでは、確かめなくてはならなくてな」

 ルードヴィッヒ14世の隣で黙って聞いていた明らかに知恵者といったような博識そうな男性が口を開く。

「マル卿の話が真実ならハインリッヒ卿は、魔法を使ったことになります。先ずは、そちらの真偽をお聞かせいただけますか?」

「承知致しました。あれは風の悪戯なのです」

 サブローの言葉に全員が目を丸くしているのを見て、サブローは話を続ける。

「説明不足で申し訳ありません。ハザマオカ周辺の地形は不安定で、時折神様の悪戯としか思えない程の恐ろしい風が吹くのです。それに巻き込まれ、千人にも及ぶ尊い命が失われてしまいましたことをここに謝罪致します」

 サブローは説明を終えると深々と頭を下げるがデイルが納得できるはずもない。

「それならば、俺たちよりも前にいたキノッコ将軍にも被害が出なければ、おかしいのではありませんかな。ヒヒッ。咄嗟についた嘘にしては、説得力にかけましたな。陛下、サブロー・ハインリッヒが魔法を使ったのは明らか。マジカル王国と裏で繋がっているのです。すぐにお取り潰しを。ヒヒッ」

 それに待ったをかけたのは、博識そうな男性である。

「陛下、お待ちください。確かに状況証拠的にはハインリッヒ卿が苦しい言い訳をしたと考えられなくもありません。しかし、この件に関して証拠が無いことも確か疑わしきを罰していては、他の郡を預かるものも次は自分の番だと怯えることとなりましょう」

 博識そうな男性のもっともな言葉に頷く、デイル、ドレッド、アダムス以外の面々。

「ふむ。クレーバー宰相の言葉ももっともだ。それだけの理由で、サブローが魔法を使ったとは断定できん。今回は風の悪戯として諦めるのだデイルよ」

「陛下のお言葉なれば、致し方なく」

 成程、痛み分けで終わらせて、陛下自身への飛び火を防ぐことで話は付いていたようだな。

 だが、ワシは許さん。

 こうまで、似合わぬ向こうのやり方に合わせて言葉も丁寧にしてやったのだ。

 得るものが無ければな。

「お待ちください陛下。マル卿が我が領を攻める際、陛下の御言葉を読み上げられまして、最後の言葉がどうしても飲み込めないと反対したところ攻められたのです。その軍の中には、ナバル郡の兵もいましたが説明願えますかベア卿!」

 サブローにいきなり話を振られたドレッドは、少し考えて話す。

「俺の軍が独断専行したようだ。その者たちは、ハインリッヒ卿の手にかかったそうだが不穏分子を取り除いてくれて、感謝する」

 成程、あくまで関わっていないと言い切るか。

 だが、これに関しては確実な証拠がない。

 だから、今切り込むのは、こちらだ。

「そうでしたか。こちらも防衛のため仕方なく命を奪いました。とはいえ、彼らも家族がいるでしょう。その者たちに罪はありません。遺体は、ベア卿の方で、丁重に弔っていただきたい」

「御心遣いに感謝致す」

「話は終わったようだな。ではこれにて」

「まだ終わっていません。ここに陛下の言葉を偽った不届者がいるのですから」

 早々に話を切り上げようとするルードヴィッヒ14世にサブローは、突きつけたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...