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1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

24話 マッシュ・キノッコの処遇

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 タルカ郡とナバル郡の連合軍を倒して、一度館へと戻ってきたサブローは、マッシュ・キノッコと向かい合っていた。

 キノッコ家、レイヴァンド家と並ぶ騎士爵の家系であり、オダ郡に根を張るレイヴァンド家、ナバル郡に根を張るキノッコ家。

 共に将軍という立場で国を守ってきた同志でもある。

「キノッコ卿、貴殿程の男がどうして、このような戦に駆り出されたのか聞かせてもらおう」

「こちらは貴殿の捕虜となった。話すのは構わないが部下たちの安全を保証してもらいたい」

「承知した。ロー爺、皆に温かい食事を振る舞ってやってくれ」

「心得ました若様」

 ローが一礼をして、捕虜たちの元に向かい、この場にはサブローとマッシュだけが残された。

「キノッコ卿、これで良いか?」

「寛大な処遇に感謝する」

「それでは、聞かせてもらえるか?」

 マッシュが意を決した様に話し出す。

「うむ。事の始まりは、ショアランド平原にて、我々の軍がマジカル王国に敗れた時に戻るのだが、我が主君、ドレッド様は陛下のあまりにも消極的な姿勢に危機感を抱かれたのだ」

「その戦いは、タタラサンにて、この目で見させてもらった。消極的というよりもさもそれが当然であるかのように映るが如何か?」

「あの山から見てたのか。あぁ、陛下は何処か諦めておられる。またいつもの奴かと断ることもせずに参加した割に、戦っていたのは一部、それも被害が大きかったのは、動員兵数の少なかった郡ばかり。これではダメだ郡をまとめなければと思い立ったと聞いていたのだが、マル殿が話したことが事実なら我が主君は、貴殿を罠に嵌めて、オダ郡を簒奪しようとしたのは疑いようがない。誤って許されることではないが、此度は誤りだったと謝罪させていただく」

 マッシュが深々と頭を下げる。

「良い。貴殿が頭を下げたところで、我々の怒りが収まるわけではない。タルカの領主も逃げ帰った。今頃、王都に向かう準備をして、オダ郡はマジカル王国と手を結んだと吹聴して、オダ郡を討伐対象にすることを追求するだろう。そして流されるだけの当主ならこれに乗る。一国を治める当主の器ではない。当主とは、民の言葉を聞き民を導き守るものだ。臣下の換言に乗り、武威を振るうものではない。ましてや覚悟を持たないのなら尚更だ」

「我らの敗因は、貴殿の器を測り間違えたことだな。この命を待って、どうかナバル郡だけは見逃してもらえまいか」

 この自分勝手な言葉にサブローが語気を強める。

「うぬの命に何の価値もないわ!レイヴァンド卿からうぬのことを聞き、兵と民を大事にする面白い男と思ったのだがこんな自分勝手な男だとは、呆れてものも言えぬわ!命を捨てて何になる?間違えたと思うなら生きて償えばよい!死んで逃げることなど許さん!」

 サブローの剣幕にマッシュは黙るしかなかった。

 将軍として、第一線で戦い続けてきたマッシュにとって、自らの命を差し出してでも部下たちや民を守る。

 それしか考えていなかった。

 命に価値が無いなどと言われるとは思わなかった。

 事実、これがマジカル王国やガルディアン王国ならば、喜んでその首で和平を結ぶだろう。

 前線で数万規模を指揮できる将軍の首は重い。

 しかし、同じ国に住む同士で、その首が欲しいなどという奴がいたらそれは国を他国に売り渡そうと考えている売国奴だ。

 サブローは、この国のために必要な人材は1人でも多く必要だと考えている。

 現在オダ郡には、優秀な文官は誰もいない。

 その全てをサブローがやっている。

 だが信頼できる武官はいる。

 レイヴァンド将軍にヤスとタンダザーク、そこにキノッコ将軍も加わって欲しいと思っている。

 政治もやって戦でも指揮をしてというのは、いくらサブローでも疲れる。

 分担できるならそれの方が良い。

 そして現状、分担できるとしたら指揮をある程度レイヴァンドを中心に任せることぐらいだ。

 オダ郡のことすらまだ改革できていないのに、近隣がちょっかいをかけてきたのだ。

 だが、それを放置すれば、オダ郡は何もしても手が足りてないから大丈夫だと付け入る隙を与えることになる。

 そんなこと許せば、第二・第三のタルカ郡みたいなのが現れるのである。

 国力をつけるために今無理をしてでもタルカ郡を取る。

 しかし、取ったは良いが守れませんでしたでは、その土地に住む民をイタズラに混乱させるだけだ。

 そして、自国の民に不安を抱かせるのはサブローとしてもよくない。

 不穏分子は、オダ郡の中にもいるのだから。

「民のためを思うのならば、生きて、うぬの手で、決着をつけよ。ベア殿が何を考えているのかをな」

「うっうぅ。このマッシュ・キノッコ。サブロー様をまだまだ青臭いガキだと侮ったことをどうかお許しいただきたい。この国に住む民のため。我ら2百名の降伏と仕官を許可していただきたい!」

「許可する。ワシは間も無く王都に招聘されるだろう」

「お供致したく」

「であるか。構わぬ」

 聞きなれない言葉に固まっていたマッシュにいつの間にか音もなく側に居たマリーが教える。

「マッシュ様、若様の『であるか』は、繰り返しです。お供をしたいのか。構わぬということです」

「うおっ。何処のどなたが存じませんが感謝致す」

「若様専属の使用人をしているマリーと申します」

 その後、また音もなく消えたマリーが次に戻ってきたのは、1週間後であった。

「若様、今戻りました」

「マリー、戻ったか。して、どうだ?」

「若様の言った通りに事が進んでいるかと」

「であるか。ならば、陛下が確認をするために兵を出すか。ワシを呼び出すかを協議している頃か」

「終わりました。間も無く、若様に王都へ来るようにというお達しが降るかと」

「了解した。マリー、お前はワシの側に控えよ。一国を預かる男が愚かではないと思いたいが念の為、護衛を任せる」

「承知しました。付き添いはマッシュ様で構いませんか?」

「あぁ。ロー爺には、ここの守りと牽制を任せたいからな」

「それにしても言葉巧みに将軍を引き抜くなんて」

「今回は、運がこちらに味方した。まだまだ必要な人材は多い。情報を集めることに特化した部隊や、こういう雑務をこなせる者、ワシの策を補佐できるものなどな。圧倒的に足りておらん。おいおい考えねばな」

「この世界で若様の神算鬼謀しんさんきぼうに敵う者なんているでしょうか?」

「居ないなら出てきてもらねばな。いつだって陰から時代を動かすのは、そういったものたちだからな」

 サブローの最終目標は、アイランド公国の統一ではない。

 この世界の統一である。

 ここに織田信長がサブロー・ハインリッヒとして舞い降りたのだから。
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